第26話 面倒な先輩
司法局実働部隊機動部隊の部屋は和気あいあいとした雰囲気に包まれていた。
「オメエ野球やってたらしいじゃねえか」
銃を左脇のホルスターに突っ込んだままのかなめがそう言って誠に話しかけてくる。そこにはさっぱりとした笑顔があった。
「ええ、まあ。うちは都立の進学実験校だったんで部活はほとんど無くて……。でも一応、夏の大会は出ないといけない雰囲気があったんで」
「でも3回戦まで行ったんだろ?すげえじゃねえか」
笑顔のかなめに褒められて、誠はいい気持ちでカウラに目をやった。
頬杖をついてほほ笑みながら二人の話を聞いているカウラに少し頬を染めながら誠は咳ばらいをした。
「相手がうちと同じ出ると負けのチームだったからですよ……まあ、体力には自信がありましたけど」
いい調子でおしゃべりを続ける自分の背後に人の気配がして誠は振り返った。
そこには角刈りのこわもての下士官がビニール袋と箱を手に突っ立っていた。
「良いご身分だな。管理部には挨拶も無しか?」
男はそう言うとそのまま誠の座っていたお誕生日席のような位置の机にビニール袋を置いた。
「すみません……」
威嚇するような男の表情に少し緊張しながら誠はビニール袋を手に取る。
そこには東和警察と同じ規格の『特殊な部隊』の制服が入っていた。
「あのー……」
「あと、これがここの電話の子機。使い方は西園寺さんに聞け」
男はそれだけ言うとそのままその場を立ち去ろうとした。
「ああ、私が教えよう」
カウラはそう言って立ち上がる。それを見た男は慌てて彼女のそばに走り寄った。
「ベルガー大尉のお手を煩わせるようなことはしませんよ。西園寺さん……」
男はそう言うと明らかに嫌そうな顔をしているかなめに目を向けた。
「カウラが教えてえって言ってんだからそうすりゃいいじゃん」
投げやりなかなめの態度に男は明らかに怒りの表情を浮かべて誠をにらみつけた。
「あのー……僕なにか悪いことをしましたか?」
誠の気弱な態度に男は憤慨したように鼻息を荒げてにらみつける。
「言っとく!貴様は新人だ!新米だ!とりあえずここに配属になったが、それは単なる偶然だ」
「そうか?こいつをうちに引っ張っるのにオメエも協力したじゃん」
荒ぶる男の神経を逆なでするようにかなめはぽつりとつぶやく。かなめをひとたびにらみつけた後、男は咳払いをして椅子に座っている誠の顔を怒りを込めた視線でにらみつけた。
「ともかく、ベルガー大尉の邪魔になるようなことをするな!ベルガー大尉は立派なお方だ!貴様のような軟弱モノに汚されていいような存在ではない!」
「気があるのがバレバレだな。まあ、カウラはオメエのこと嫌いだって」
かなめの茶化すような言葉を受けると男は顔を真っ赤に染めて実働部隊の詰め所の出口に歩いていく。
「いいか!貴様を認めんからな!俺は!」
男はそれだけ叫ぶと実働部隊の詰め所を出て行った。
「なんです?あの人」
誠は困惑しながら無表情で状況を見守っていたカウラに尋ねた。
「菰田邦弘主計曹長。管理部の部長代行だ。総務的な仕事は菰田の指揮下の管理部の職員が担当している……まあ部下のほとんどがパートだけどな」
カウラはそう言いながら箱から電話の子機を取り出して誠の机のジャックに差し込んで設定を始めた。
「なんだか怖そうな人ですね」
明らかに誠にいい印象を持っていなそうな菰田の態度に誠はそう言って頭を掻いた。
「オメエが今日帰る寮の副寮長でもあるからな。年中顔を合わせることになるぞ……まあいろいろと変な奴だからうまくやれよ」
かなめは無責任にそう言ってにやりと笑う。
どうも初日から敵を作ったらしい。誠は先ほどの角刈りを思い出してそうはっきりと自覚した。
「じゃあ子機の使い方だが……」
カウラは何事も無かったかのように電話の子機を手に取る。誠は苦笑いを浮かべながらカウラの作業を見守っていた。