表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

131/137

第131話 期待外れの現実

「ああ、そう言えばすっかり辞令の事忘れてたな。今渡すよ」 


 そう言うと嵯峨は埃にまみれた一枚の書類を取り出した。誠は立ち上がって、じっと辞令の内容が読み上げられるのを待った。


「神前誠曹長は司法局実働部隊での勤務を命ず」 


 嵯峨はそう言った。


『曹長?』 


 誠は聞きなれないその言葉に、体の力が抜けていくのを感じた。


「あの、もう一度いいですか?」 


 誠は確かめるために嵯峨に頼む。


「ああ何度でも言うよ。神前誠曹長」 


『曹長』と聞こえる。


「あのソウチョウですか?」 


「まあそれ以外の読み方は俺も知らないが」 


 そう言うと嵯峨はにんまりと笑う。 


「張り出してあったろ?掲示板見ていなかったのか?」 


 そこで通用門から続いていた微妙な視線の意味が分かった。


「確かにお前さんはパイロット幹部候補で入った訳だけど、一応適性とか配属部隊で見るわけよ。まあ、お前さんには似合うんじゃないの?鬼の下士官殿」 


 ガタガタとドアのあたりで音がするのも誠には聞こえない。聞こえないと思い込みたかった。


「でもまあ曹長は便利だぞ。まず今住んでる下士官寮の激安な家賃。さらに朝食、夕食付き。士官になるとそこ出て下宿探さにゃならんからな」 


「でも何人か将校の男子もいますよ?」 


「ああ、それぞれ事情があんじゃないの?あそこの全権は寮長の島田にあずけてあるから。あいつと『偉大なる大佐殿』ことクバルカ・ラン大佐の指導の下、人権を全面はく奪して立派な『漢』になるまで出さねえって方針でやってるみたいだよ、あそこ」 


 誠は足元が覚束なくなってきているのを感じた。幹部候補で入った同期は例外なく少尉で任官を済ませている。しかし誠は候補生資格を剥奪されての曹長待遇。ただ頭の中が白くなった。


「ああ、今回の実戦で法術兵器適応Sランクの判定が出たから給料は逆に上がるんじゃないかな」 


 そう言うと嵯峨は掃除の続きを始める。


「でも原因は?なんで尉官任官ができないなんて……」 


「本当に心当たりないか?」 


 嵯峨が困ったような顔をして誠を睨む。その瞬間、誠は初日の出来事を思いだした。


「お前……なにかっつうと吐くじゃん。あれ、問題なのよ、将校としては。他の将校の方々が同じにされると迷惑なんだって。俺はプライドゼロの男だからどうでもいいんだけどね……それと何度か逃げようとしたじゃん。それもマイナス要因……でも士官は残業手当出ねえからな……逆にうらやましいくらいだよ」 


  嵯峨はそう言うと本当にいい笑顔を誠に向けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ