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第122話 小隊長の気まぐれ

「誠ちゃん、着いたわよ!」 


 アメリアはそう言って笑った。ハンガーの出入り口には宴会場の設営の為に動き回る各部隊員が出入りしている。


「ヒーローが来たぞ!」 


 椅子を並べる指示を出していた司法局実働部隊の制服を着た男性将校の一言に、会場であるハンガーが一斉にわく。


 それに合わせて一升瓶を抱えたランが誠達に歩み寄ってくる。


「いいタイミングだな。酒を選ぶのに悩んだが……『クエ鍋』だかんな。やはりここは日本酒の『辛口』で行こーと思うんだわ。西園寺!ラム一ケースあるがどうする?」 


 いくら『不老不死』とは言え、どう見ても8歳女児が『日本酒の辛口』と言い切る姿に違和感を覚えながら誠はカウラと一緒に宴会場である格納庫の床を進んだ。


「糞餓鬼!アタシのは誰にもやらねえよ!まあ『御褒美』としてならあげても良いかも知れねえがな」 


 かなめはそう言うとランが指さした木箱に向けてそそくさと走り去った。


「誠ちゃんはそこに座って!」 


 凛とした調子でアメリアが誠達に声をかける。そこは上座らしくちっちゃなラン用の座椅子が置いてある。誠はそのまま手を差し出すアメリアに導かれてそのテーブルに引かれていく。


「アタシ等はどうするんだよ!」


 木箱から一本のラムの瓶を取り出してきたかなめが口をとがらして抗議した。 


「かなめちゃん達はどこか隅っこにでもゴザを敷いて座れば良いじゃない。庶民の気持ちがわかるかもよ」 


「殺すぞテメエ」


 かなめは誠の予想通り銃に手をやる。


「ただの暴力馬鹿が……」


 何気なくつぶやくカウラの一言に、さすがのかなめも銃から手を離した。


「これがメインの『クエ』3匹分です!サイズは40キロ、38キロ、36キロと食べごろサイズですよ!」 


 先ほどの軍医が部下に大皿を持たせて現れた。誠から見ると彼はどう見ても板前の格好をしていた。その隣には同じく割烹着姿の医務室の天使と呼ばれる神前ひよこが大皿を手に立っていた。その上には白身の魚の切り身が並んでいる。その他、次々とどう見ても日本料理屋の店員にしか見えない司法局実働部隊・艦船管理部、通称『釣り部』の隊員が鍋の具材を配って回る。


「技術部の兵隊!全員食材及び酒類の配置にかかれ!」 


 くわえタバコの島田の一言で、つなぎ姿の整備員が一斉に動きだす。


「ここは多めの奴くれよ!」 


 箸で小皿を叩いて待ち構えているサラを横目にかなめは叫んでいた。


「はい!これが一番多いですよ!」


 そう言ってひよこが大皿をかなめに手渡した。


「さあ……入れるぞ!」 


 かなめはさっそくクエの身のほとんどを土鍋の中に放り込む。同時にひよこの表情が曇るのが誠にも見えた。


「普通だしが先じゃないのか?」 


 カウラは鍋の隣に置いてあった小鉢に入ったいかにも『だし』だとわかる液体を指さした。


「なんだこれ?」 


 自分のした間違いを認めたくないかなめは白々しくそう言った。


「クエのアラで取っただしを入れないとおいしくないですよ!」


 ひよこはそう叫んで急いでクエのアラで取っただしを鍋に投入した。


 誠が隣の鍋を覗き見ると、いつの間にか現れた嵯峨が、鍋に隣に置いてあった『クエのだし』を入れているところだった。


「正確な判断力に欠けて、感情に流される。西園寺の悪いところだな」 


 同じように嵯峨の行為を見ていたカウラはかなめに向けてそう言い放った。


「うるせえ!腹に入れば同じだ!」


 かなめが怒鳴る。カウラは呆れたような表情で黙り込んでいる。そしてアメリアは早速、かなめの鍋を見限って他の鍋への襲撃を考え始めているようだった。島田とサラは馬鹿なのであまりカウラの言葉が分かっていないような笑みを浮かべていた。ひよこは少し呆れたような笑みを浮かべてそのまま他のテーブルに向かっていった。


「まあ良いじゃないですか。ビール回ってますか」 


 誠がなだめるように顔を出した。


「割に気が利くじゃねえか……」


 誠の気遣いで少しばかり怒りを沈めたかなめが缶ビールを受け取る。


「私ももらおうか?」 


 カウラのその言葉。周りの空気が凍りついた。


 誠から見ても誰もが酒を手にするカウラを見るのが初めてだということは理解できた。


「おい、大丈夫なのか?」 


 さすがのかなめも尋ねる。


「正人……カウラちゃんがビールを飲むんだって」


 具の乱切り大根とシイタケ、水菜を鍋に投入しているサラはそう言って隣の島田の肩を叩く。


「まさかー。そんなわけないじゃないですか!ねえ。いつもの烏龍茶を運ばせますから」 


「いや、ビールをもらおう」 


 カウラのその言葉に島田の動きも止まった。


「大丈夫か?オマエ。なんか悪いものでも喰ったのか?それとも……神前と何かあったのか?」 


 にらむ先、かなめの視線の先には誠がいた。


「僕は何もしてないですよ!」 


「だろうな。テメエにそんな度胸は無いだろうし」


 かなめはそう言って缶ビールを空にして、次の缶に手を伸ばした。 


「まあ飲めるんじゃないの?基礎代謝とかは私達『ラストバタリオン』はほぼ同じスペックで製造されているから」


 乾杯の音頭も聞かずに飲み始めているアメリアがそう言った。



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