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第10話 取ってつけたような謝罪

 嵯峨は雑誌の入った袖机を未練がましい目で何度も見た後、誠に向き直った。


「それより……誠、一つ言っておくことがある」


 いつも母に向ける真剣な表情の嵯峨がそこにあった。


 元々嵯峨はアラフィフなのに、見た目は二十代半ば、そして長身で筋肉質な上に二枚目に見えないこともない。格好を付ければそれなりに決まるのである。


「なんですか?」


 もう辞める気満々の誠は高飛車にそう言い放った。


 その態度にニヤリと笑った後、嵯峨は机に座ったまま頭を下げた。


「ごめんなさい。全部私がやりました。神前の人生をぶっ壊したのは私です。東和宇宙軍のパイロットコースもごり押しで通しました。ですから、ごめんなさい」


 突然謝罪されて、これまでの誠のどういう捨て台詞を残そうかと言う考えが吹き飛んだ。


「なんでやった……オメーだけじゃねーだろ。誰がやった……言ってみろ、中年」


 ここまで来たらこのキャラで押そうと誠は強気で乱暴な口調で詰問した。嵯峨は謝ったらもう済んだとでもいうように顔を上げ開き直った調子で椅子の背もたれに体を預けた。


「ここの全員。まずさあ、就職活動のインターン5社。1社もメーカーが入ってないから、これは潰し解こうってことで、これを全部潰した。希望者募って電話やらネットでお前さんのあることないこと書き込んで人事関係者に(さら)したら、どんな担当者も手を引くわな普通」


 誠は思い出した。大学3年から始まる企業のインターン。担当者が次第に誠を汚物扱いするようになり、最終的にはすべてが立ち消えになった。


「そんなことしても、お前さんを欲しいという酔狂な会社があるの。2社役員面接まで行ったとこ、あったよね。そこにトドメを刺したのが、隣の人格者の幼女」


 そう言って嵯峨はランを指さす。


 ランは急に表情を消した顔で誠を見上げた。誠は怒りに震えながら、かわいらしいランをにらみつける。


「トドメを刺したのはアタシだ。オメーが幼女にしか欲情しないド変態で、その嗜好(しこう)を実行したことを演技と妄想でしゃべったら、落ちるわな、ふつー。あと、どちらも成果主義が売りの会社だから英語できなきゃ管理職になれねーぞ。オメーの語学力じゃ無理。定年まで係長か主任で終わるのは嫌だろ?だから潰した。思いやり(あふ)れてるだろ?アタシ。『魔法少女』としてはそう言う客層をキープしておく必要があるわけだ」


 そう言ってニヤリと笑う。


『こいつ等全員悪党だ!そして!『魔法少女』ってなんだ!』


 誠の心の中はそんな思いで満たされた。


「もし、俺や中佐殿のお眼鏡にかなう会社だったら、別に俺達は悪さしたりしないよ。まあ、うちでもお前の『才能』が貴重だから。お前さんのこと待ってたここの全員が押しかけて、お前の近所が大変なことになるかもしれないけど」


 そこまで言って嵯峨は顔を上げ誠を見てニヤリと笑う。


「待ってたんですか……僕を……」


 誠は誰かに必要とされているという言葉に少し心を動かされた。


「誤解するなよ。お前にそんな可能性がある。その『才能』で自分達を危機から救ってくれるかもしれない。そう思っただけだ。俺達はお前に納得できる人生を送ってほしいの。でも、それを選ぶのは神前誠。お前だ。決めるのはお前。いいじゃん自分の人生だもの、選択肢があるなら選びなよ」


 嵯峨が言いたいのはここに残るかどうか選べという事らしい。


「今……決めなきゃいけないんですか?」


 誠はおずおずとそう言った。


「別に、期限なんて野暮なもんは切らないよ。悩んで考えて結論という奴を出しな。それまでうちの所属と言う事で東和宇宙軍に話は付けてある」


 静かにそう言うと嵯峨はテーブルの上に置かれていた見慣れない銘柄のタバコを取り出して火をつけた。


「それじゃあとりあえず『特殊な部隊』の面々に挨拶をしないとね。ここの部屋の真下に『運航部』っていう変な髪の色した姉ちゃん達がいるから、そこに挨拶に行って」


 嵯峨はそう言うと投げやりに手を振って誠に部屋から出ていくように促した。


「では、失礼します」


 誠はとりあえず逃げ出すことは後にでもできると思いなおしてその異常な『隊長室』を後にした。


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