マリモ:初討伐依頼
狩りの依頼とかは出してるけど、討伐依頼はそれとは違うらしい。
魔物はどの程度の規模の群れかがわからないのでとても危険だし、逃亡されれば根絶までは難しい。かなり曖昧な内容の依頼になりかねないということもあり、依頼主が現場に出ることは珍しくない。だいたいは騎士とか貴族らしいけど。完了を決めるのは依頼人だ。もちろんギルドは半端な仕事をできないので依頼人が現場に出なくても討伐確認はするようだ。信用が大事。どんな仕事でも同じだね。
それに依頼人がごねることもあるかもしれないしね。依頼人の方も信用は大切だ。そもそも個人依頼は少ないだろうけど。村とかならあるのかな。
冒険者たちが来るまで私は地面に隠れて枝で被害者の様子を探る。いざとなればゴブリンを蔦で絡めてしばりくび。ゴブリンならいけるよね?
そもそも魔法を使うゴブリンとかいなければ命の危険はないしね。直接戦わないなら大丈夫だろう。
獣人は脚が速いらしく、ガウルさんのパーティーが一番に来た。偵察にネズミの獣人らしい小柄な獣人さんが動く。
他には眠そうな羊の獣人さんや狼さんがいるようだ。モフりがいがありそうな素晴らしい毛皮の人たちである。特に羊さんはモフモフ天然パーマ。クッション性も高そうだ。ってそんな場合じゃないか。ガウルさんの少し前に体を生やす。さすがに後ろから出たら声を出されるかも知れないしね。
「せ、先生、危ないっすよ!」
「大丈夫。ガウルさんたちの方こそ気をつけて」
ネズミの獣人少年さんはキックルさん、狼男さんはムーグルさん、羊娘さんはメームーさんというらしい。これからお世話になりそうな冒険者さんたちだ。
「チーム名はモフられし者、で」
「チーム名決められた?!」
「リーダーしずかに」
「俺が怒られるのかよ……」
羊のメームーさんは異論なさそう。というか気にしてなさそう。
「リーダーが先にからんだから仕方ないかな……」
狼ムーグルさんは意外と弱気そう。見た目は身長二メートルくらいでゴツゴツと筋肉質だけど、痩せマッチョに毛皮をのせた感じ? 顔は目付きのきつい犬っぽい感じで毛は黒くて長め。お腹は白でシベリアンハスキーカラーだ。モフりたい。
根をゴブリンハウスに伸ばす。女の子たちはとりあえず閉じ込められてる感じ。早く助けてあげよう。
見張りのゴブリンの口を地中でツタで編んだマスクを霊体のまま飛び出させ、実体化させて縛り付け、手足も同時に一息に縛る。逆さ吊りにして岩の影に引きずりこむとネズミのキックルさんがあっという間に岩影に走り、ナイフでゴブリンの首を裂いて仕留めた。早業!
二人で連携して死角から順にゴブリンを減らしていく。キックルさんは軽業師だね。不安定な枝から枝へ、音も立てずに飛び回っている。本職の冒険者はすごいなぁ。
しばらくして他のパーティーが五つくらい集まる。みんな音も立てないよ。格好いいかも。
シータさんもピタリと私の後ろにつけた。敵が減ってるのでみんなで突撃すれば終わるだろう。私は手を上げてシータさんを見る。彼女が頷いて刃渡り八十センチほどのまっすぐな白銀色の剣を鞘から抜き放つ。静かだ。
手を振り下ろす。それに合わせて獣人さんたちが走った! 一気にゴブリンたちが倒れる。小屋に逃げ込まれないように私は枝を伸ばして扉を内側から閉めた。
「ゴバアアアアッ!!」
「遅い」
三メートルくらいある大型のゴブリンが異常に気づいて叫ぶ、が、シータさんがぬるりとその横を通過すると大ゴブリンが八つに裂けた。見えない。速すぎ。うん、私は戦闘無理だね。
偵察とかはいけるかも。まあ巣を見つけては依頼を出すとかしようかな。この辺りはゴブリンとかオークとかオーガの巣がたくさんあるそうだし。他にも大トカゲとか鶏の化け物とかトレントという木の魔物とかお化けキノコとかいろいろいるっぽい。群れをなして軍隊のように動くゴブリンとかコボルトはわりと厄介な方なんだとか。単独の獣みたいなのはわりと狩りやすいんだって。
群れに一気に来られたらヤバいよね。
さて、ゴブリンたちはもう一匹も残らず血の海に沈んでる。ゴブリンの血は赤いんだなぁ。私の血も赤いけど。女神様の謎仕様だ。自分の血が青かったりしたら嫌だけど。
たしかタコとか虫とかは血が黄色いのとか青いのがいるんだっけ?
血液に銅が含まれていたら青いらしい。植物の樹液は茶色だよね。私は赤いけど。ゴカイとかは緑。
ともかくシータさんが音もなく斬り捨てたのがホブゴブリンとかいうこの群れのボスだったらしく、あっさりと討伐は終わってしまった。ドーナツの出番はなかったね。
いや、フォレスターの冒険者たちみんなプロフェッショナルだね。そういう人だけが依頼を受けてくれたのかも知れないけど。
すぐに被害者の二人は救助されて、ギルドマスターのシカリクさんが今回参加した冒険者をまとめてくれた。五チーム二十一人参加していたようだ。一人辺り小金貨一枚(三十万円相当)出しちゃおうか。ずいぶん迅速にやってくれたもんね。
それでも時間がほとんどかかってないのでみんな喜んでくれた。一時間くらいで一ヶ月分もらえたんだからそれは大きいか。命がけだからそれくらい払わないと、って思うけど。
救助された人たちは薬草を取ってたFランク冒険者らしい。被害者は他にはいないそうでホッとした。仲間を殺された、とかありえるもんね……。今回は死者はなし。
とにかく二人はシカリクさんに送ってもらい、私たちはギルドの酒場で軽く打ち上げすることにした。
お酒は初めて飲むなあ。大丈夫かな?
ドーナツ「こうしてドーナツの乱れとぶ破壊の嵐により巨大ゴブリン一万匹は殲滅されたのだった!」
マリモ「……そんな日は来ないと思うよ」
ドーナツ「せめて打ち上げで乱れ飛びますぞ……!」
シータ「お酒のあとは炭水化物か」
マリモ「ちなみにシータさんなら百匹くらいのゴブリンを一薙ぎで蹴散らせるスキルがあったりする」
ドーナツ「戦闘向きじゃなくてすみませんですぞぉー!」
マリモ「ドーナツがしゃべった……!」
シータ「おそっ!」