マリモ:ギルドマスター
飛び出す、初討伐依頼!
「そういえばシータさん、Sランク認定ってどうするの?」
「ああ、これから報告するよ」
シータさんはものすごく嬉しそうな笑顔で私にそういうと、スキップを踏みそうな軽い足取りで受付に向かった。
私の座った受付は依頼人用だったのでシータさんが座ったのは別の場所だ。黒髪銀眼の綺麗系のお姉さんがだるそうに対応してる。
まあ冒険者の方も仕事中なのに口説いたりするらしくて受付も面倒くさそうだよね。
なんかシータさんに呼ばれた。どうもギルドマスターとかいう偉い人と面会するので私も紹介したいらしい。
あ、ダルそうな受付さんはヨクタさんというそうだ。依頼は受けないと思うけど覚えておこう。
ギルドマスターの部屋に向かうシータさんとヨクタさんについて二階に上る。ギルドの中は石を積んだ壁で雰囲気がある。コンクリートみたいなものもあるらしいね。意外とコンクリートやガラスの歴史って古いんだよね。
この世界だとダンジョンでそういう知識が書かれた本とか落ちてるらしい。女神様はどこを目指してるのかな? まあいいけど、楽しいし。
二階の奥から二番目の部屋、特別豪華な彫刻がされた木の扉をヨクタさんが開く。開いた後にノックした。逆じゃない?
「もしもぉーし」
「ヨクタくぅん、開く前にノックしておくれよぉ。へーい、シータくぅん、Sランク試験修了おめでとーう! へーい、やったぜー!」
なんか、チャラい人がいた。薄い金色の肩まで伸びた髪に尖った長い耳、白い肌に青い瞳。美形。えるふ、だー。そういえば虎獣人のガウルさんを茶化してるエルフさんもギルドの酒場部分にいたな。
私は精霊だし、エルフは珍しくないのかな。あ、私の耳は普通。
「有り難う御座いますギルドマスター。これで失礼します」
「まだ帰っちゃあダメー!? しぃたくうん?!」
シータさん、このエルフさんが苦手っぽい。私も帰ろうかな。
「そっちのチャーミングなお嬢さんはエルフの森の匂いがするねえー! なっつかしぃー!」
なんかうざったくなったので「帰ろう?」と私がいうとシータさんも白い目をして「ただちに」と応えた。ヨクタさんは「仕事しろ駄目マスター」と、エルフさんをやはり白い目をしてにらむ。
私もシータさんもヨクタさんも呆れてしまっている。駄目な感じの人なんだもの。ヨクタさんはダルそうだけど仕事はしてるんだろうね。シータさんは席を立つふりをしつつ話を進める。
「とにかく、ハイドリアードの薬師のマリモ先生はフォレスターギルドの救世主になりそうだから連れてきたんだけれど、私のSランクカードだけもらって帰ることにするよ」
「そうしたらいいと思うわよ」
シータさんとヨクタさんの間ではお話が終わったらしい。早かった。
「ちょーっとまったー!! ハイドリアードって世界樹の若木ー!?」
「……」
私はものすごい嫌そうな顔になったんだと思う。シータさんとヨクタさんに両方から背中をぽんぽん叩かれた。大丈夫、キレてないですよ。
なんか二人ににらまれてギルドマスターっぽい人はソファの上で器用に土下座した。いいけど、ヨクタさんが説教をしている。あんまり大声でハイドリアードとか言わない方がいいっぽい。まあ私を狩るのは難しそうだし、いざとなれば森に逃げ帰って光合成して暮らすからいいんだけどね。
「フォレスター冒険者ギルドはマリモ先生を全力でサポート致します。いかなる情報も出させていただきましょう。母なる大樹である世界樹の若木様に失礼をいたしまして……、あ、僕の年齢とスリーサイズは秘密でお願いします!」
「…………」
畏まられると逆に困惑するよね。というかギルドマスターの年齢とスリーサイズは興味ない。おじさんのスリーサイズって需要あるのかな? ガウルさんのスリーサイズとかみんなに教えてみようかな。胸囲一メートルくらいあるかも。むくつけき大男って言うのかな? うん、微妙にスリーサイズ知りたいかもね。
畏まられても困るのは、私は光合成してたら満足な精霊だからね。社会からは外れてる生命体です。別に偉くなりたくないの。光合成しつつ病気や怪我を倒したいの。人助けはしたい。できる範囲しかしないけど。
「とりあえず、シータくん、Sランクおめでとう。一応国王様の呼び出しとかあると思うけど、よろしくねぇ~」
「はあ、面倒ですね」
うーん、王都に行くのかな、シータさん。私はたぶん行けないよ。せっかく知り合ったからもっとお話したいんだけどなぁ。依頼とかしてもらったりね。
「呼び出されないと行かなくていいですよね?」
「いや、間違いなく呼び出されるけどね!」
シータさんも嫌そうだ。Sランク冒険者ってこの大陸には十人もいないらしい。その上のLとなると三人くらいなのかな? どれだけすごい人たちなんだろう。いつか依頼を出してみたいものだ。
シータさんはギルドマスターのシカリクさんとヨクタさんと三人で書類上の手続きをし始めた。
私は暇なのでギルドマスターの部屋にある地図を確かめる。
フォレスターの北には森が、南には海があるらしい。東は別の領地だ。西は神樹平原と神樹の森ね。
海で昆布とか採れるかな。植物魔法で生やせたりしないかな。
植物魔法は攻撃魔法とかはほとんどなくて植物の種を複製したり成長を助けたりできる。回復魔法もあるけどあくまでもサポート魔法だ。私は戦うのは無理じゃないかな。魔力の枝をツタにして相手を縛ったりはできる。生木のツタって三、四メートルくらいの身長がある筋骨隆々のオーガという鬼のモンスターでも引きちぎれないっぽい。ツタも乾いてると案外千切れるんだけどね。
ナイフとかも立たなそう。鉈とかが必要かもね。
ちょっと気になったので北にある森に根をまっすぐはわせてみる。なんかお話に時間がかかりそうだし。
北の森の入り口の辺りに、くだんの女神様の試験場があるらしい。その近くは根っこをはわせられないな。やっぱりダンジョンは無理かー。
避けて奥に、根を伸ばしていく。
うーん、ゴブリンらしき緑の小人がたくさんいるなあ。
うん? これ、なんか家を建ててない? ゴブリンって家を建てるの? 意外とインテリ?
まあ枝を組み合わせて蔦で縛ったようなボロい小屋だけど。
あ、なんか、人が捕まってない?! 女の子が二人、ゴブリンに手足を縛られて連れていかれている!
「それでー、Sランクだしー、ちょうっとギルドマスターのお願いなんか聞いてみないー? 悪魔狩りとか死霊狩りとかー? どうどう?」
「忙しいので失礼します」
相変わらずチャラいな。シカリクマスターと塩対応のシータさんだけど、割って入ろう。緊急事態だもんね。
「ギルドマスターさん、緊急で依頼とか出せる?」
「はいいぃ、もちろんー、喜んでーっ! 良いいぃ依頼ならいぃくらでもばっちりこいいぃっですよおおーいぃっ!!」
いが多い。ヨクタさんに振る。
「ヨクタさん、北の森にゴブリンぽい緑の小人の小屋があって人が捕まってる。緊急事態」
「スルーされた!?」
「ちょっと黙れギルマス、それは大変じゃないですか!」
「ヨクタくんが厳しい、社会が厳しいよ……じゃなくて本当に緊急事態だーっ!?」
緊急事態だってば。やっぱりヨクタさんは意外としっかりしてるね。ここはやはり依頼を出さないとダメだよね。私からの初討伐依頼ってことで。
あとゴブリンぽいと思った緑の小人はやっぱりゴブリンだそうだ。日本語たまに通じて助かるね。ゴブリン日本語じゃないけど。
「ゴブリンはざっと見て二十匹くらい。依頼を出すけどお金はいくらくらい必要?」
「小規模の群れですが最大規模がわかりませんし緊急ですので小金貨で六から八枚です。税込みで十枚ほどですね」
全部みえるわけじゃないし、本当はどれくらいの規模かわからないもんね。でも小金貨で十枚ならミドルポーションを十本くらい売ったらいけるかな? すぐに頼もう。私は光合成できればお金はいらないし。お肉は食べたかったけどなー。
「あー、うーん、緊急事態だし仕方ないかな」
ぷちっ。帽子の中から取り出したふりをして常世の果実を取り出す。相変わらず地味に痛い。これを依頼料にすれば大丈夫だろう。
あれ、三人とも目をむいてるな。……Sランク試験の認定アイテムだから出しすぎたのかも? うん、気づかないふりをしよう。
「これで依頼料になる?」
「百回分くらい。すぐに手配します!」
「百回?!」
やっぱり出しすぎだった。ヨクタさんはすぐに走り出す。この果実の鑑定も速かったし仕事できるなぁ。
とりあえず初めての討伐依頼なので、私は指揮を出してみることにした。ヨクタさんとギルドマスターのシカリクさんは書類の用意、私とシータさんは一階に。冒険者たちに直接声をかけてみようというシータさんの提案で声をかけることにした。
「北の森にゴブリン推定二十匹、拐われた被害者あり、緊急依頼、全員で大金貨で一枚! 規模により追加あり!」
大声は苦手だけど頑張ったよ。お金は思いきって高めにはたいてみる。さすがに常世の果実はそんなに安くないらしいし。それにいくつ参加してくれるチームがあるかわからないから場合によっては増やさないと駄目かも。
ゴブリンくらいなら私も現場に出ても大丈夫かな? 依頼を出す以上は現場の空気は知っておきたい。
右の掌を突き上げ、振り下ろす。すぐに反応した数組の冒険者たちが受付に走り、早い対応をしているヨクタさんのところでパーティー名を登録、すぐに外へ、北の森に走り出した。中にはガウルさんのチームやガウルさんをからかってたエルフのノックスさんという人のチームもいるようだ。ノックスさんはCランク冒険者のチームらしいからかなり頼りになりそう。
こういう緊急時の対応の速さこそ冒険者の強みらしい。お金を払う人がいればだけど。とにかく根を通り、私も現場に飛ぶ。シータさんもすぐに飛び出したようだ。
冒険者ギルドの依頼人、行きます!
シカリク「シータくぅん、またヨクタくんがいじめるんだぁ」
シータ「仕方ないな、土下座しておけ」
マリモ「ぷちっ、はい、常世のかじつ~」
ヨクタ「簡単にもがない!」
ちなみにマリモの常世の果実(小さめの林檎サイズ)で三億円、お婆ちゃんの(小さいメロンサイズ)で五億円相当。取引はほぼオークションなので変動あり。もぐとすぐに花が咲くのでバレバレだったりする。実体化しないともげない。
半霊体の果実なので当然物理物質とは違う特別なものなのだけどマリモにしてみると髪の毛一本。