マリモ:根界
しばらくシータさんを待ちながら町の中に魔力の根を広げていく。神樹の森につながる経路も増やしておかないとうっかり帰れなくなるかもしれない。
今のところは深いところと浅いところで二本の根を伸ばしているが、まだ切れてしまう可能性がある程度の細い経路だ。
なによりお婆ちゃんにはいろいろ教わることがある。根をしっかり届けておけばいつでもそれを聞ける。まあどこでも深く伸ばせば根がありそうだけど。お婆ちゃん世界樹だし。
まあ世界樹の本体をまだ見てないから見たいのもあるし。
世界の始まりから女神様と世界を眺めてきた世界樹の知識はとても役に立つだろう。この世界で生きていくために。
せっかく薬師の力をもらっているので私はこの世界から病を駆逐していきたい。もちろんすべての人を助けるのは無理だろう。私の体はひとつしかない。
でもできないからやらないとはならない。夢を目指しつづけることがひとつひとつの結果を生んでいくのだ。
一人でも多く、助ける。私のできる範囲で。
そのためにもまずは根っこを広げる。私の根の領域、根界を広げることで困ってる人も見つけやすくなるだろうし、犯罪者のアジトや魔物の巣も見つけやすくなる。
そして依頼を出せばいい。私一人で助ける必要はない。主人公に、英雄に、勇者になりたいわけじゃないんだから。
冒険者という英雄たちに力を貸し、力を借り、彼らの支えになりたい。
私は彼らの支えになりたい。
まあ自分が戦わなくてよさそうというのもあるけどね。前世でもほとんど寝込んでた私に戦闘スキルなんてあるわけないし。知識もそんなにはない。お婆ちゃんにかなりいろいろ教わらないと駄目かもね。自分の力を知らないと冒険者さんたちの足を引っ張りそうだし。
でも精霊として、薬師としてもらった力は大きい。これを使わない手はないだろう。
この力があればそうそうは死なないと思うけど、なんか対策は練らないとね。
たとえば魔力の枝で家を作って引きこもりつつ根を使って困ってる人を探して冒険者たちに教えるとか。それなら私はほとんど表に出ることもないだろう。
安全地帯にこもるんじゃなくてできるかぎりのサポートはするけど。ポーションぶっかけにいったり? ドーナツ投げたり?
……こうして私は冒険者ギルドの依頼人としての自分のスタイルを決めた。
魔力の根の領域、根界さえ広げていればなんとかなるだろう。まあ広い面積をすべて覆うのはちょっと難しいだろうから、うわさ話を聞いてはそちらに根を伸ばす方向にはなりそうだ。
網を張るなら数年でこの町をようやく網羅できるくらいじゃないかな?
とても他の町までは救えなさそう。……すぐにすべてを、なんて無理に決まってる。誰でも。
焦らずに行こう。
実際この世界にはどんな事件があるのかわかっていない。ひょっとしたら戦争やテロもあるかもしれないし、魔物が溢れて暴れることは普通にあるらしいし。
そもそも私が自然発生したように、魔物というのは魔力溜りがあればいくらでも湧きだすらしいし。
お婆ちゃんに聞いておこう。無限には湧きださないはずなんだよね。だって地上に魔物の死体の大陸とかできて海がなくなったりしそうだし。うん、女神様がそんな世界にはしていないと思う。
ただ、あの女神様べつに人間の味方じゃないんだよね。私だって精霊だし。そもそも願えば叶えてくれるって存在ではなさそうだ。人間が滅んだらそれはそれでまた作り直したりしそう。そもそも彼女の世界を私たちは間借りしてるだけなんだよね。
自然な世界。死んだり傷つくことはいくらでもあるだろう。そもそも自分だけ助けてほしいなんて甘えはよくない。逆にみんな助けたんじゃ誰の人生やらわからない。
それに、頑張って結果を出していけたらきっと嬉しい。努力して報われるのはきっと楽しい。それができなかった私が言うんだから間違いない。
目を覆いたくなるようなこともあるかもしれないけど、人生がままならないなんて私はもうとっくに知ってる。
おっと、根を広げていろいろ町の人の話を聞いてぼんやりしているうちにシータさんが来たね。冒険者ギルドの重たい扉が見えるくらいのところまで来ている。枝を表通りに出して待ってたんだよね。
この根っこ便利だなー。商売してる人のとこをのぞいてお金の使い方も把握できたし。
普通の商売では小さい銅貨や最高でも小さい銀貨くらいしか使ってないみたい。小さい銅貨が1グリン、それをだいたい三枚から五枚くらいで小さいリンゴくらいの果物一個。食べ物とか衣類の物価は高そうだけど土地は魔物とかいるし安そうだ。安全な土地は逆に高いだろう。魔物の土地はまあ簡単には住めないからむしろお金を出して開拓する感じ。都市部は騎士が守ってるからお高い。
小さい銅貨が1グリン、大きい銅貨が10グリン、小さい銀貨、大きい銀貨、小さい金貨、大きい金貨の順番で十倍ずつ価値が高くなるようだ。それ以上の価値のある硬貨もあるのかな?
小さい金貨、一万グリンで十万円から三十万円くらいは価値がありそう。一ヶ月は暮らせるって言ってたしね。為替があるわけじゃないから正確とは言えないけど。
おっと、シータさんが扉を引っ張り開けている。重いよね、そのドア。
……冒険者ギルドの扉が頑丈なのってみんなが暴れたりするからかな? また絡まれたりしそうだなぁ。素材は鉄かな? 魔法の合金とかもあるのかな?
「おっと、マリモ先生、どうした、壁際に立って」
「町を見ていた」
「ふっ、先生は変わったスキルがあるんだな」
うん、精霊だからね、なんか世界に遍在する存在とかなんだよ。たぶん。偏在だと片寄ってて遍在だと散らばってるんだよね、確か。うん、てきとう。
「ギルドに登録は済ませたのか?」
「うん、お肉と薬草を頼んでポーション瓶を買って薬草とポーションを売ったよ」
「さっそくいろいろ手を出してるんだな。これからも依頼を出していくのか?」
「うん、ポーションとか売りまくってみんなをサポートするよ」
「有り難い」
ここは辺境なので薬草は多いけどポーションは少ない。しかしダンジョンもできたしお婆ちゃんの、神樹の森もあり、冒険者たちはどんどん増えている。
需要はめっちゃある。ポーションを作ったら作っただけ売れそう。
私がパッと薬草で作ったポーションはミドルポーションといって、バッサリ斬られたような怪我でも治せるらしい。下から、ローポーション、ノーマル、ミドル、ハイ、エクストラとあるそうだ。常世の果実ならエクストラくらいはありそう。欠損した体も治るんだって。ヤバい狙われるマリモ狩りに。
傷薬はポーションの他にも軟膏のようなものもあり、それだと日焼けや肌荒れにも効くんだとか。作り方調べてみよう。売れそう。
スキルがあるからどんなものかわかったら作れるとは思うんだけどね。ポーションなんてその辺りの薬草からばしゃばしゃ作れてるし。
私が適当に引っこ抜いてる薬草も私がドリアードだからか薬効とか新鮮さ、質までわかるし、かなりアドバンテージあるよね。
応援してくれたらすごく力になります。おらにみんなの元(削除)! いや、なんか著作権に触れそうなネタを書くと楽しいのはなんでですかね。
好きなドーナツ出しますよ。ストック少ないからね! あ、リングドーナツじゃなくてもいいよ。チュロスも出すからね。