マリモ:世界樹
『おはよう、私の孫』
「お婆ちゃん?」
どうやらその根の持ち主はこの世界の私のお婆ちゃんに当たる植物の魔物らしい。とても大きな魔力を感じる。
その根は私の下を通り、とても遠くまで伸びているようだ。
『星を全て覆っているよ。私は世界樹だからね』
「世界樹?」
お婆ちゃんは女神様がこの星を管理し、命を生み出す際に最初に植えられた植物らしい。進化の法則どこいった。世界五分前仮説みたいなものだろうか。
この世界の生命の歴史が始まってまだ二万年くらいしか経ってないらしい。
まあ私のような人間のような生き物がいるのだ。作り物だと考えた方がしっくりくる。植物が人の姿をとる理由がないもんね。ちなみにお婆ちゃんは普通に木の姿をしているが精霊も出せるらしい。
お婆ちゃんとは根を通じ、念話という心と心を触れあわせる方法で会話している。根を伸ばす効率的な方法や町の方向を教えてもらった。
この魔力根は火の魔法やちょっとした魔法で簡単に焼きはらえるらしいので、なるべく深くをはわせた方がいいらしい。そして網の目に張ることで一部を焼かれても繋がっている状態にする。
この根を通れば体をその先に移すこともできるそうだ。さすが霊体。
霊体だけど幽霊と違って魂があって生きているらしい。
魂が残ってる幽霊もいるらしいけどおおむね残留した思念に魔力が反応して幽霊になっているそうだ。すごい魔法使いなら魂をそこに移せるらしい。
魔力っていうのは情報によってコントロールできる物理現象らしい。魔法のある世界なんてワクワクするよね。
でも魔力を高めないと根が広げにくい。どうしたら魔力を高められるだろう。
お婆ちゃんがいうには人間の冒険者に頼んで肉を狩ってきてもらうといいらしい。冒険者! さすが魔法の世界! そしてお婆ちゃんも肉食系!
ダンジョンではドロップ品といって、肉の一部だけ落ちたりするようだ。ゲームだね。
私の根はダンジョンの魔力に負けるのでダンジョンには入れないらしいけどね。根のある範囲から出たら萎れてしまうし。ちなみに霊体だけど脚はあるよ。細いけど。
フィールドといってダンジョン以外の場所だと魔物を倒してもドロップ品にはならないらしい。お肉を大量に狩るなら外でいいようだ。
ちなみにストレージボードという所有者の魔力レベルに応じて荷物を保管できる道具があるらしい。魔力レベルというのは女神様が設定したシステムで、本来の魔力、私の力とは別に上乗せする形で与えられているそうだ。ゲームでいうステータス的な?
ダメージを受けてもステータスがしばらくは肩代わりしてくれる。女神様はゲームのような世界にしたかったのだろうか。まあ楽しそうではあるよね。
私のような魔物と人間の間みたいな生き物にも与えられているように、全ての生き物にステータスは与えられているらしい。今はそれを見るシステムは魔道具にしかないんだとか。
ステータスオープン、とか言わなくてよかった。恥ずかしぬ。
魔物と戦うとそのステータスを破壊した上に魔物を倒さないとダメなようだ。大変そう。まあ強力な攻撃なら一撃で倒せることもあるらしいけど。魔力レベルが低いとバリア効果も低いらしい。
ステータスを破壊されると力が抜けて動けなくなることもある。そこをタコ殴りとか。ステータスが壊れたら怪我もするようだ。
この近くにあるダンジョンは「女神の試験場」と呼ばれるもので、女神様によりステータスの実験がなされている。つまりまだ作りかけの世界なんだね、ここ。
そしてこの森はお婆ちゃんがいるので「神樹の森」と呼ばれていて、その東の外に神樹平原、北には神樹山脈があり、平原のさらに東に人間の町があるそうだ。フォレスターの町という伯爵様が治めている町らしい。かなり大きいみたいだ。
そちらに、町の方角に根を伸ばしていると反応があった。どうやら人がいるようだ。根を通りその人を観察できる場所に移動する。枝で見てもいいんだけど姿を見せた方が警戒されないかなって。
『その人間は私を護っている竜と戦った子だよ。気をつけて』
「竜? ドラゴン? 見てみたい」
『竜も怪我をしているから今は危ないよ』
怪我か。どうやら相討ちになったらしい。すごく強い人なんだな。こっちも危ないかな? 帽子を深くかぶりなおしておこう。
少し離れたところから見てみると血塗れで、木に体を預けているようだ。死にかけてない? ステータスのバリアって意外としょっぱいのかな?
私はその辺りの薬草を引っ掴んで薬師の職業スキルでポーションを作ってみる。ドリアードだからか薬師だからか、薬効とかはわかるね。あとポーションの作り方もわかる。薬師スキル:ポーション精製!
ばしゃり。ポーションは地面に撒き散らされた。入れ物がないから当たり前か。
ゲームとかで、壺の中でポーションを作るのはちゃんと意味があったのね。仕方がないので直接その女騎士?
白い鎧を着こんだ赤い髪の女性の傷の上でポーションを作ってみた。魔法やスキルの使い方は感覚で分かるのが有り難い。
ばしゃり。女の子はびしょ濡れになった。水もしたたるいい女。
言ってる場合じゃないか。傷口はしゅうしゅうと煙を上げながら塞がっていく。泥汚れとかきっちり浮かんで排出されてるね。さすが魔法の世界。刃物とかはさすがに抜かないとダメかもね。
彼女が目を覚ますまで枝で見張りをしておき、お婆ちゃんの護りドラゴンの傷を治しに行くことにした。お婆ちゃんも私のスキルを見て頼みたいと思ったようだ。
危ないとは言われてるけど、心配だよね。
怪我も病も私は大嫌いだし、治してあげられるなら治したい。
お婆ちゃんのところまで根を伸ばそうとしたらお婆ちゃんが根を貸してくれるらしい。やっぱりお婆ちゃんも、一緒に暮らす竜だもん、心配なんだよね。
お婆ちゃんの根は特別に貸してもらえただけなので、今回だけらしい。痛かったりしたら申し訳ないよね。
とても太くてたくましい根だった。私もいつかそんな強い根を持ちたいものだ。ドリアードに生まれ変わったからか、感性がすっかりドリアードである。
竜は緑の鱗をした、頭に私と同じような金色の果実が生った植物の竜のようだ。やっぱり血塗れ。ステータスバリア仕事しろ。いや、ドラゴンとかそれと戦える人が強すぎるだけかな。
ドラゴンはすごい大きさなので薬草をたっぷり振りかけてからポーションに変えた。もうもうと煙が上がり、ドラゴンは痛いのか少し身動ぎする。
危ないとは言われたがおとなしい子であるようだ。傷が塞がると、ドラゴンはゆっくりとその金色の瞳を光らせた。