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冒険者ギルドの依頼人  作者: いかや☆きいろ
一章 冒険者たち
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レンジ:殺虫剤が無双。

 男性視点が欲しかったので二話だけ。



 ゆずの(ねえ)さんが逝ってしまった。


 俺はレンジ、しがないフリーターだ。


 ゆず姐さんとはバイト先のラーメン屋で出会った。彼女は古武術の道場を営んでいたうちの家に興味を持ち、修行に来て、どういうわけか全方面で俺より器用にこなした。


 そんな姐さんだが、なんかあっけなく崖から転げ落ちて死んだらしい。信じられん。体が胸以外小さい、それ以外は運動神経の爆弾みたいな人だったのに。人間は油断しては駄目ということだな。


 うちの道場は居合い、槍、弓、体術などの技術習得を目標とした、今時流行りもしない実戦スタイルの道場で、合気道や空手、果ては軍隊格闘まで取り入れるという、節操がない道場だった。


 跡継ぎの俺が消えたからたぶん潰れるだろうな。まあ親父は脳筋だがくそ強かったのは間違いない。十本組手をやったら六本くらい姐さんに取られてたけど。あの姐さんは女ではない何かだ。人間もちょっと捨ててた。


 そうそう、俺が消えた理由だが。


 姐さんが死んじまってふてくされ、俺はバイトもやめて、ふらふらしてたんだ。あ、姐さんはかなり昔にラーメン屋はやめてもっと本格的な居酒屋で修行してた。自分の店が持てるかもとか話してたところだったんだよな。残念だ。


 ちなみに姐さんは胸がでかいのでぜひ仲良くしたかったのだがガード堅かった。鉄壁だ。まあ近所だし連絡は取ってた。


 ……ロリコン? 姐さんに聞かれたら殺されるからやめろ。


 あの日はコンビニで適当におにぎりやつまみに小ビンのブランデーを買って、ふと自販機の横を通った時だった。ブランデーを炭酸割りにしようかと思ったのでコインを入れ、炭酸のボタンを押し、ガタン、と落ちてきたボトルを取ろうとしたとき。


 そこに運命のヤツがいた。蜘蛛だ。


 俺はガキの頃は昆虫博士とか言われていい気になってたタイプのガキだったんだが、それを女子にキモいといわれてから逆に虫嫌いになったという経験がある。


 中でも蜘蛛は害虫を捕食する益虫ではあるがゴキブリより嫌いな虫の一つだ。……蜘蛛の毒は実はそんなに強くないんだけどな。タランチュラと呼ばれる蜘蛛もたくさん種類がいるが蜂より弱い程度の毒しか持たないと言われている。昔の航海士とかが大きな蜘蛛を見るたびにタランチュラと呼んだらしい。イタリアのタラントだったか、にいると言われていたからタランチュラ。ヨーロッパに伝わる伝説の蜘蛛だそうだ。


 セアカゴケグモなどのゴケグモの仲間の毒は致死レベルらしいが毒蜘蛛として有名な女郎蜘蛛とかではそうそう死なないらしい。毒生物としては蜂の方がずっと危険だ。


 しかし蜘蛛だ。アシダカグモだな。確か巢を持たずにゴキブリなどの害虫を捕食する益虫だったかな。毒はない。しかし俺は「ぎゃあああああ!!」と悲鳴を上げてアパートに走った。見た目がキモい虫は不快害虫とか呼ばれるらしい。あ、俺は実家を出てたんだよな。しごきに耐えられなくて。


 アパートに駆け込むと買い物袋を投げ捨てるように置いて、そこに、あいつがいた。殺虫剤だ。


 俺は一瞬考えたが、そいつを掴まえて走った。再び走った。


 普通の人は嫌いなものには近づけないだろうが、俺は家があんな道場だったせいか昔から喧嘩っぱやく、嫌いな虫なら殺せばいいじゃない、と思う性格だったのだ。何より炭酸水そのまま。


 自販機に戻り殺虫剤を構えると、危険を察知したのか蜘蛛は逃げ出す。めっちゃ脚はええー!!


 追いかけて路地裏に。それがよくなかったんだよな。真っ暗な路地裏、なぜかマンホールの蓋が開いていて、俺は尻から落ちた。尾てい骨骨折で、俺は死んだらしい。


 ……死因間抜けすぎるだろ! いや直接の死因じゃないと思うけども!!


 ……そして俺は女神様に会った。銀髪にアメジスト色の瞳、真っ黒なゴスロリ服を着て右目には眼帯とか左手に包帯とか太ももにホルスターとかつけてるいかにも中二病なその異世界の?女神様?は後ろを向き、肩をプルプル震わせた。


 ぶはっ!とか思いきり吹いてギャハハハハ、と、一つだけポツンと置かれていた女神様の使ってる、その事務机の椅子から転げ落ちて笑い転げ回る。


 悪かったな死因尾てい骨骨折で!!


 笑いが治まったらしい女神様に「ゆずちゃんもいるよ。うちくる?」と聞かれたので速攻で「いくわああーっ!」と答えた。すると「殺虫剤を持ったまま死ぬってよっぽど虫が嫌いなのね。それにスキルを持たせておくわ」といって、次の瞬間には俺を突き飛ばしていた。


 気がつくと俺は森の中。頭の中にこの大陸の共通語とかの生活にかかるデータがインプットされてるのは有り難い。どうも人間がいる世界のようだ。


 人間が自然発生する確率ってべらぼうに低いらしいのでたぶん女神様に作られた世界なんだろうな。エルフとかもいるらしいし。


 そして、モンスターも。


 かさり、と音がした。……とんでもなく嫌な予感、いや、これは殺気か? を、感じたので、相手を刺激しないように、ゆるうり、と、振り向く。


 そこには俺を丸のみにできそうな、五メートルは余裕で超えてる馬鹿でかい蜘蛛がいた。


 貴方はあの自販機のところにいた蜘蛛さんですか? 殺虫剤で追い回してすみませんでした許してください。知らなかったんですあんたが異世界だとそんなに馬鹿でかいなんて。


 俺は咄嗟に自分の口を抑えつつ殺虫剤を噴霧した。そう、俺の手にはなぜか殺虫剤だけが握られていたのだ。


 脚を高々と上げる大蜘蛛、ズシン……と轟音と共に土ぼこりが上がる。やべえ、死ぬ……。


 しかしかなりの時間待っていたが衝撃は来ず、土ぼこりが少しずつ晴れていった。そこにいたのは逆さになったデカ蜘蛛。


 デカ蜘蛛はどうやらさっきの殺虫剤の、たったの一撃で仰向けにひっくり返り八本の脚を痙攣させて、やがてゆっくりと動きが止まった。死んだ、のか……? ……ったっ、助かった……。


 ちなみに現在まっぱ。まっぱに殺虫剤。変質者である。いや、今はそれどころではないのだが服くらいサービスしてくれ!! 神様にサービス求めるのおかしいけど!!


 すると『野郎の裸は醜いのでパンツとジーンズだけはサービスします』とか女神様の声が響き、倒れた蜘蛛の上にぱさりとそれらが落ちてきた。ゲームとかで魔物を倒すと手に入る、いわゆるドロップ品ってやつか。靴とかTシャツもくれ! ないの?! サービスわりい! いや、神様にサービス求めるのおかしいけど!! 中途半端!! なんかこのスタイル余計に変態だ! 着るけど!


 ……はあ。しかしこんな馬鹿でかい蜘蛛に殺虫剤が一撃で効いたのはおかしいよな。普通は毒というのは体が大きいほど効きにくくなるし回りにくくなる。酵素性の毒だと排出されたり破壊されない限り効果を発揮し続けるのであまり関係ないが、酸などの化学物質は体積に比例して効きにくくなるし……なによりこんなでかい蜘蛛を殺せるほどの毒物なら人間にも害が出そうなものである。しかし。


 選択毒性。殺虫剤の成分は特定の生物に特化した毒性を持ち、虫なら少し噴霧しても死ぬが人間ならバケツ一杯吸引しても死なないほど特化したものなのである。わざわざ吸引しないけど。バケツ一杯っていったらなんか食べたくなるじゃん? ないか。


 つまりこの殺虫剤はスキルによって、その選択毒性がさらに強まっているということなのだろう。……やべえ、虫特化だけど、この殺虫剤無双できるんじゃね?


 




 更新遅くてすみません。ぼちぼち投稿します。



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