マリモ:大樹
お待たせしました!
マリモ視点です。いよいよ薬師として活動します。
シータさんと明日はお別れなので再会を祈り宴会をすることになった。
まあ私はフォレスターでずっと依頼人をする予定だし、シータさんも稼ぎのいいフォレスターには帰ってきたいと言っている。
シータさんて騎士なのになんで冒険者してるのかな、気になったので聞いてみた。土竜鳥のヒナのモモ肉胡椒焼きにまずはかぶりつき、ビールをあおる。
「ぷくくっ! 先生話聞く気あるの?」
「本当に美味そうに食うんだからなあ!」
「モグモグ……ゴクン。これ、だって美味しい」
病院食だけで六年。そりゃ美味しいお肉には飢えるよ。
手が汚れないように紙が巻かれた足の骨をつかみかぶりつき、するっと骨から外れた柔らかいモモ肉をモグモグ。皮もパリパリしていて非常に美味しい。香りもいい。胡椒とにんにくが効いていてとてもビールに合う。口に残る鳥の脂をビールで流し込む。控えめに言っても最高である。
虎の獣人ガウルさんと女騎士のシータさんが同席するのが最近のスタイルになって、ちょっとうれしい。この二人とは仲良くしたい。
あんまり多くの人に絡まれるのは苦手。看護師さんとは仲良くなっちゃうんだけどね。看護師さんってだいたい明るいから。
座敷で大往生とか聞くけど、病院は、人が死ぬところではあるからね。私も病院で死んでる。
「私は北の辺境伯の五女なんだ。貴族でもこれだけ下の子供になると冒険者になるケースは多くてね。騎士として大成する道ももちろんあったけど、窮屈なのは嫌だろう?」
「うん、納得した。はむっ」
「ふふふふふっ。どんどん食べてね」
千切りキャベツのサラダももしゃもしゃといただく。スープも鳥ガラ出汁で統一されている。うん、やっぱり食べるって幸せ。ちなみにこの世界の野菜は地球の植生とは違っているのでキャベツもキャベツもどきだ。見た目は普通。だけど大きさは一メートルとかある。厚いけど不思議と柔らかい。
「そうだ、ガウルさん、良かったら専属にならない?」
「あん? 誰かにシステムを聞いたんです? 構いませんけどね」
「依頼人受付のモモノさんと冒険者受付のヨクタさん」
「その二人と仲がいいっすね、先生」
「二人とも優秀だからな、先生を任せられる」
シータさんはずいぶん私を買ってくれているようだ。理由を聞いてみた。なぜかガウルさんが答える
「そりゃ先生、回復が使えない前衛職にはポーションは冗談抜きで命綱ですからね」
「私とガウルは回復手段がないからな。ガウルはパーティーを組んでる羊獣人の魔導師メームーも回復できるが本職ではないし、それに先生は命の恩人だろう?」
「そうなんすか? 本職がいても魔力切れはあるし、金はかかるし荷物にはなるけどやっぱりポーションっすよ」
まあ戦いの準備をしておこう、と思ったらポーションが大事なのはわかるけどね。この大陸には聖女の国もあって回復職は多いんだけど、やはり魔力切れは昏倒を招いたりするし怖い。私など存在がしばらく消えてしまう。
肉体も魔力で構成されているため、魔力の使いすぎで臓器に異常をきたしたり命を落とすケースもある。なのでまずはポーション、らしい。ロールプレイングゲームとかでエリクサー使えないタイプの人は生き残れなさそう。
それとシータさんは気にしすぎ。たまたま助けられるタイミングで助けられる手段があっただけ。実験したようなものだしね。
「それで、専属はいいんすけど、どんな仕事をするんです?」
「神樹の森探索、採取。私は明日から森に帰ってその下見をするつもり」
「先生はある程度戦えるからいいやな」
「神樹の森は獣や虫の魔物が多いぞ。他には植物系もいるし、人を襲うようなエルフや獣人もいなくはない」
「大変そう」
「まあ火炎系はまずいないから先生なら楽勝っすよ」
でも虫……。私は虫が苦手だ。特に芋虫系。昔柿の木につくイラガに刺されたことがある。……でも薬になる虫もいるからね……。
植物系の魔物はどんなのがいるんだろう。精霊はほぼ中立らしいんだよね。魔物の仲間もできるかも知れないんだ。
それに大きい家を建てないとなぁ。ちなみに世界樹もお婆ちゃんの家みたいなものだ。ダンジョンに近いらしいけど。そんなのをいきなり作るのは無理だから最初は絵本によくあるキノコの小屋みたいなものになると思う。
私が植物の精霊だからなのか、本体になる木がないのが落ち着かない。
それに森に帰って色々な薬草を用意しないと細やかな病気に対応ができない。基本的な万能薬のようなものがあるが、本当に万能な薬はエリクシール(エリキシル剤、ぶっちゃけエリクサー)くらいなものである。霊薬とも呼ばれ、魂から傷を治せるので先天的な病や肉体の欠損すら良くなる。しかし当然簡単にできるはずもない。材料のひとつである常世の果実の最低価格すら二億円相当、白金貨七枚七百万グリンもする。材料のひとつが、である。
他の材料も上位竜の血肉が必要だったりするし錬金術アイテムでもレアな物質、賢者の石が必要になったりする。総額十億円(原価)相当だ。実際に手に入れて使おうとすれば最低価格で三十億円から。高額医療にもほどがあるが地球上でも治せない病が存在しないとなれば五十億でも出す人は出すだろう。なにせ先天的な異常まで回復するのだ。
そしてそんなものポンポン使えるはずがない。安い薬で対症療法などで治していくのが普通だろう。
対症療法。ようするに発熱すれば解熱、下痢をすれば下痢止め、他にも頭痛薬や胃薬、点滴のようにポーションを使うこともあるだろう。浄化薬や継続回復ポーションなんてものもあるし、魔法薬はとても優秀だ。
しかし、その材料をまずは揃えなくてはならない。そのために森に帰るのだ。
「なるほど、じゃあ俺らは独自に森に入って調査から始めていいすか?」
「それなら調査依頼を出す」
「それが適当だろうな。私も帰ってきたら特別な材料、上位竜とかを狩ってこよう」
「……上位竜」
殺せるんだろうな、シータさんなら。シータさんが相討ちになった緑竜さんって聖竜扱いだし、上位竜よりさらに上なんだよね。
「ここのダンジョンは女神様が作ったものだから、五十階層も潜れば出てくるだろう」
「はあ~っ、やっぱりシータ様は桁が違うっすね」
「頼もしい」
これがSランク冒険者。一度は彼女のガチバトルを見物したいものだ。
私は植物の精霊だから、安全圏から根を伸ばして観察すればできるだろう。私は自分の魔力の根、魔力根の範囲なら感知ができるし、枝を生やせば実際にそこから見聞きもできる。その間本体は根に溶かしておけば安全だ。
今もこの町、フォレスター領都に根を伸ばして色々観察して勉強している。
ん? これは……。
「じゃあ、二人とも、またね。ガウルさんのパーティー、モフられし者には明日の朝に依頼を出しておく。シータさんは夜にまた宿で話そう。これ、お代」
「ん、どした先生」
「何かあったのか」
「うん。また説明する」
私はそのまま立ち上がり、見つけた場所に移動する。後ろで二人がなにやら言っていたが、少し急ぐことにする。
「先生、小さいのに後ろ姿がなんかでっかい木に見えたんだが」
「うむ、先生は大樹のオーラがあるな」
「色々動じない人だもんな……なんか楽しみになってきたぜ」




