ゆず:フライングドーナツ
やっと一話書ききれました。死にかけですみません。
私は改めて王女様、偽物女王の私じゃなくてであった方の王女様と話すことにした。
「あんた肝が太いって言われない?」
「胸がでかいちび男女とは言われるね」
「あー」
「泣いていいか?」
「だめ」
どうも彼女は、フェイトはバンパイアの王女様らしい。私は裸の女王様だから対等だな。
「ひとりぼっちだから支配者なのは間違いないのかしらね」
「泣いていいか?」
「だめ」
「厳しくないか」
「じゃあ泣きわめけ」
「うわーん」
わりとのりの良い子だな。好きだ。だから、自己紹介ね。
私はどうしたもんかとは思ったが最悪ここでサバイバルもできるので、正直に転落死した過程を事故紹介した。五時にあらず。あ、これは誤字。
お腹いっぱいになると眠くなるよね。アホな感じ(感じ。あくまでも感じ)で説明したらわりと普通に納得された。
「貴女の料理って文明的なのにこんな神樹の森の奥に拠点を構えてるなんて、普通に「これは女神様の誘われ人だな」ってわかるわよ」
「まって、情報が多い」
ここは神樹の森っていうのね。そんで私みたいな転生した人か転移した人が他にも割といて、それが女神様の誘われ人って呼ばれてる、と。ふむ。つまり女神様がハンバーグ広めてなくてもその人たちが作ってるかも。
美味しいものが広まっているならそれでいいか。自分で作りたくないときはあるもんな。
「その神樹の森っていうのは?」
「世界樹ユグドラシルが支配する魔物や薬草などの資源が豊富でフィールドダンジョンなんて呼ばれたりする森よ。ものすごく広大で端から端まで歩くのに並みの冒険者じゃ二週間はかかるらしいわ」
ふむ、ゲーム的な名称が日本語で伝わってる。現地語もわかるし、そういえば薬草とか見ただけでわかるし、頭にパソコンみたいに情報がダウンロードされてるのね。この世界で肉体を構築された時に情報も書き加えられてる感じかな。
フィールドダンジョンの奥地に住んでる種族……。ああ、なるほど。私か。
「この森ってエルフとか住んでるの?」
「エルフも獣人も住んでるけどアフレバーと違って聖地扱いだから少ないわよ」
「まずアフレバーがわからん」
「亜人国家アフレバーね。主に獣人が住んでるんだけど、これは私たちの国、魔人国家クーバクと同じで複数の部族、小国家が一まとまりになることでできた国ね」
「ほうほう。それでフェイトはクーバクのお姫様?」
「……いいえ」
ん? なんか言いよどんだ。でも王女って言ってたから、クーバクの中のその小国家、たぶんバンパイア部族の国のお姫様なんだな。なるほど、つまり、
「ちっちゃい国のお姫様なのに威張って恥ずかしかったのか」
「違うわよ!! もー、私らの国ゲッコーは昔は独立した大きな国だったんだけど、今じゃクーバクの飼い犬って言われてるのよ。不名誉でしょ」
「なるほどねぇ。あ、お茶できたよ」
「ありがと。……おいし。ってなんで上等な紅茶が出てくるのよ!」
「職業スキル?」
「職業スキルって……そっか、神職ってことね」
「神職?」
「職業スキルは一般になりたいものに転職する一般職、一般職を育てた中級職、上級職、特級職、最初に得た職業を極めた天職、神様に直接与えられた神職といろいろあるのだけど、当然神様に直接与えられたスキルは他と隔絶した能力を持っているわ」
「へえ、そういえば普通に私のスキル持ってる人がいっぱいいたらなんでもできそうだわ」
「そうね、一般職では不完全な鑑定くらいしかまずは使えない。職業に熟練してくると突然スキルが与えられていくのよ」
「ゲーム的~」
でもまあ、本当にゲームなら世界は楽になる。この世界は人間の夢なのかも知れないな。例えばあの女神様の。あの人高校の時の生徒会長に似てるんだよなー。
「まあ私は緑茶とか白米とかシンプルなのが好きなんだよね」
「料理人なのに? まあそういうものかしら? 塩気を取りすぎてるのかも知れないわね」
「味見はしまくってるね。あー、シンプルなイーストドーナツのシュガーレイズド食べたいな」
「本当ね、私も食べたいわ。森の中って甘味少ないもの」
「さっき拾ったイチゴを煮るから食べる?」
「フルーツを煮るの?」
「料理しない人ってだいたいそういうけど、コンポートにしろジャムにしろ缶詰め……瓶詰めにしろ、煮てるからね」
「ほえー」
「ある程度酸味を揮発させて、ものによっては砂糖と水を加えて、崩れるから沸騰しない六から八十度で煮るといいね。まあ酸味はなかなか揮発してくれないんだこれが」
ジャムとかは煮詰めるけどやっぱりお湯を足しながら煮潰すよね。入れすぎると薄くなったり潰れすぎるけど。火が入りすぎたらカラメリゼで茶色くなるし。初心者にジャム作りは難しいんだよねえ。レモン汁足したり砂糖も果実の糖質計算して入れないとダメだしね。
そんな説明をすると王女様なのにフェイトは素直に感心してほえーほえーと……王女なのに妙に庶民的な反応で感心していた。
一段落して紅茶を含む。どうも料理のことになるとしゃべりすぎるんだよね。マリモ姉さんにまた頭叩かれるかも。……って、マリモ姉さんが病気してから何年になるんだっけ?
あー、会いたいな、マリ姉。
そんなことを思っていたからか、ピンク色の、ストロベリートッピングのフレンチクルーラーが飛んでる幻が見えた。
次話からマリモ視点です。




