ゆず:サバイバルお姫様
お腹空いてるときに私の作品は読むべきではないと、ドーナツが言ってます。
ドーナツ「!?」
お前そればっかな。
どさり、と、なんか崖から落ちてきた。
今は魚を獲った小川の、背中側が崖になってるところでモグモグしている。猪とか降ってきてたら怖いな。水場に囲まれてるから嵐はヤバイけど、まず獣が寄り付かないと思ってここに拠点作ったのに。
槍を持って音がした岩場の影を覗く。
そこに落ちてたのは汚い布袋……かと一瞬思ったが、普通に綺麗なドレスに宝飾品もいくつかつけてる女の子。
おいおいお姫様だよ! なんだこれ綺麗な子だな!
髪は黒で目は……閉じてる。肌は真っ白。ドレスはあちこちひっかけちゃって破けてるし泥だらけだし、なんかものすごくひどい火傷を負ってる。大丈夫? 生きてる?
こんなときは……飯だな!
ちょっと匂いのきつい八角を嗅がせてみる。すごく甘い香りだ。調味料召喚なんでもできるんじゃね?
すぐに彼女は眉を顰めて、ゆるりと目を覚ます。うお、目も綺麗な白銀だ! 黒髪白銀眼美少女!
ちょっと距離をとるか。びっくりさせちゃ悪いからな。彼女はゆっくり体を起き上がらせる。
「匂い……、きっつ……い……」
うん、ごめんね、八角をそのまま嗅がすとか鬼だとは思う。でも気付け薬って嗅がせるものだし、アルコールとかよりいいと思ったんだけど。
八角はとんこつラーメンスープの寸胴八十リットルくらい入るやつに一切れ入れるといいくらいで、つまりめちゃくちゃ匂い強い。八角が含まれる五香粉は素人が使うと爆死する香辛料だ。台湾料理苦手な人は八角が駄目と言うけど、使い方だよな。唐揚げのシナモンやハンバーグのナツメグとかもバランス次第だろ。わからないならまずクミン使っとけ。ちなみにラーメン屋のバイトは楽しかったな。客層が良かった。みんなお腹空いてるから?
おっと、彼女が起きて……めっちゃにらんどるな。
「この、薬草、なに! 死ぬほど臭い!」
「ええ、甘くていい匂いじゃない?」
「鼻がおかしいわねあなた!」
「料理人だから鼻は命なんだけどなー」
体を嗅いでみる。うん、川の臭いがするわ。
「許せない! こんなものを王族に嗅がせるなんて!」
「やかましい! ここじゃ私が王様だ! 飯食え!」
「はあ?!」
腹が減ってると怒りっぽくなるもんな。こんな姿だし、たぶんあんまり食えてないだろう。飯を食わせてやらないとな。
体が弱ってても胃がダメージ受けてないなら実は米のような食物繊維の多い飯より豆腐とかタンパク質の方が吸収が早くていいらしい。普通に米の利点って腹持ちのよさ、吸収がゆっくりだから血糖値がゆっくり上がる、とかで、体力の落ちた病人に食わすメリットは少なかったりする。もちろん炭水化物の補給は重要だが緊急の時、例えば低血糖なんかの時は食物繊維が多いチョコレートよりブドウ糖タブレットをとるべきだそうだ。ゆっくり眠る前ならお粥でもいいけど、一時間くらいは体は起こしておいた方が胃のダメージは少ない。
薬食同源だからこういうのは調べた。マリ姉に元気になってほしかったからな。
免疫力もタンパク質の方が上がる。糖質や炭水化物のメリットは体温を下げないこと。熱が出すぎてるとかお腹を下してる時にはスポーツドリンクの方がいいかも?
胃がやられる風邪も多いから絶対ではないな。そもそもそんな簡単に素人が診断できるなら医者がいらない。簡単じゃない。なので医者に見せるのが一番。
至急体を暖めたりが必要ならにんにくもいいんだけど、エナジードリンクとかこの手のすぐに効く食材は体力の前借りでよろしくないとも聞く。
今回はなんか血も流してるし体力減ってる上にミネラル不足、でも病気じゃないし元気に怒鳴ってるから何日も食べてない状態ではなさそう。
ならば……。まずはすでにできてるスープから飲ませよう。魚の出汁だけのスープ。具材はすでに私が食った。
適当に別のフライパンで木の実や薬草を炒めて魚の皮も炒めて、……こういうときは米が良さそうなんだけどな。ないわ。
それを鍋に移し一緒に炊いたら灰汁を取って、はい、配膳。はい!
「な、なによ。なにこれ、美味しそうな香り!」
「普通に食材の香りだけどな。腹が減ってたらこういう煮詰めたスープの香りはたまらないよな。ちなみに醤油も香り付けに入れてる」
「はむはむはむはむ……」
「腹が減ってるんだな」
ものっすごい勢いでスープの具を漁ってる。胃は大丈夫だな。血糖は下がってそうだ。まずは甘いもの……胃にダメージを出さずに体力を足すなら、ミルクティーとかか? 一時しのぎだよな。ほんと、持久力回復させるなら米なんだけどな。
ならば、これ。魚を再び取ってきてさばき、刺身にして皿に並べる。皿も召喚できて良かったな。ちなみに魔力切ると消える。
酢をかけて塩と香辛料を振りしばらくおいてから、フライパンでオリーブオイルとにんにくスライスを熱して、苦くなるから焦がさない、ある程度時間を置いて酢と塩が通ったその魚にかける! 熱々に焼ける! そして、
にんにくの糖質は果物に匹敵する。食らえ。
ゆずの焼きカルパッチョ。
「ふまーっ! ふまーっ!」
「ハマったな!」
甘味はそれ自体が食欲を誘う。ある程度食欲出たところで少し重いのを出したい。まあ焼き魚焼きつつなんか作るか。
うん、ここだな。魚ハンバーグ。
ほしがほしー。二時間後に二話。庭、には、二羽、鶏は、捕まえてきてフライドチキンにするね。
じゃねえわ、今日は二話更新します。




