ポート:始まり
飯テロリストがアップを始めたようです。
ポートは主人公じゃありません。世界観をわかりやすくしたかっただけなので逆にわかりにくければここはスキップしてください。
僕はポート、新人冒険者だ。
Fランク冒険者で作ったチーム「新連星」のリーダーをしている十五才の人族の男だ。
男三人、女二人のパーティーで、最近薬草の買い取り額が高いと噂の辺境の町、フォレスターの冒険者ギルドに来ている。
今日はその冒険者ギルドの脇にある酒場で先輩冒険者で獣人が集まっているCランクのチームの、虎獣人のリーダー、ガウルさんに話を聞いている。
冒険者にとって最も大事なのが、情報だ。
ガウルさんは虎の獣人、全身を毛皮に覆われた筋肉質な、とても男らしい人だ。かっこいいなー。
顔は人に近いけど口が大きくて牙は鋭いね。
えっと、彼らのチーム名は「モフられし者」……と、言うらしい。なんでも依頼人に絡んだ結果仕事の受注を止められることになりかけて、慌てて謝った結果そのチーム名にされたらしい。そのエピソードはかっこよくないけど、なぜかガウルさんは嬉しそうに語る。
「つまり冒険者ギルドは冒険者じゃなく依頼人のお陰で運営できてるんだ。依頼人に絡むなんてとんでもないことだってことさ」
「実際仕事止められたモフられし者が言うと重みがあるうぅ~」
「ちゃちゃ入れんじゃねえよノックス!」
ガウルさんをからかっているのはBランク冒険者チーム「酒場の冒険」のリーダー、エルフの男性、ノックスさんだ。彼らのチーム名もその依頼人さんが付けたらしい。いつも酒場で管を巻いているからだそうだ。でもBランクということはかなりの実力者ということでもある。そんな彼らでも依頼人には逆らえないらしい。むしろ喜んでるみたいだけど。
二人のやり取りを微笑ましく見ていると、ギルドの入り口の重い扉が音もなく開かれる。
入ってきたのは一見みすぼらしく見える灰色のローブと、魔女が被るような先の折れたつばの広いとんがり帽子を深く被った、緑の髪と瞳をした僕らと年の変わらないように見える少女。
眠そうな顔をしているが肌は透き通るように白く、作り物のように可愛らしい。のそのそと歩くその様はとても腕のたつ冒険者には見えない。
早速、がらの悪い冒険者に絡まれている。
「ありゃよそ者だな。一応止めてくるか」
あの可愛らしい女の子はよそ者なのか。新人が登録に来たんだろうか。年も近そうだし僕らのパーティーに誘おうかな、と一瞬思ったが、ガウルさんはその少女の方にペコペコしている。そしてがらの悪い冒険者の方を引っ張っていき影でなにやらボソボソと伝えている。
少女の方はカウンターに座りその男の方を指差して受付の人族のお姉さんに何か伝えている。お姉さんは苦笑しつつも頷いている。
あ、がらの悪い冒険者が少女に土下座した。彼女の座ったカウンターには仕切りがつけられていて、上から吊り下がっている看板には「依頼人用窓口」と書かれている。
彼女は新人冒険者ではなくて依頼人の方らしい。あんなに若いのにすごいお金持ちなんだろうか。うらやましい話である。
あ、ガウルさんが戻ってきた。
「先生に絡むなんてよそ者はこれだから」
「ガウルも前に絡んだじゃねえか」
「昔のことだろ! めっちゃ土下座したんだからな! 蒸し返すなよ!」
またガウルさんとノックスさんがやりあっている。僕は後学のためにガウルさんに彼女の素性を聞いてみることにした。
「先生は薬師をしていらっしゃってな。薬草や肉をギルドに発注して代わりにポーションを卸しているんだ。彼女に助けられた冒険者は多いんだぜ。Sランクにさえ助けられた人がいるんだ。だから彼女を知ってるやつらはみんな先生って呼んでるんだぜ」
なるほど、薬草を加工して販売して、そのお金でまた依頼を出しているのか。ここのギルドの薬草の買い取り額が他に比べて高いのも彼女が発注してくれているかららしい。僕らも知らないうちにお世話になっていたようだ。それにしてもSランクの冒険者を助けたとか、すごいな。
あ、先生と呼ばれた少女がこちらにやってきた。思いっきりガウルさんの背中から抱きついてお腹の毛皮をモフモフしている。……ちょっとうらやましい。抱きつかれる方でもモフりたい方でもうらやましい。
「せ、せんせー勘弁してくれ!」
「また私の噂してる?」
「こいつら新人だから教えてたんだよ! いつも噂してたりしねえから!」
「でもモフる」
モフモフと毛皮をモフっている。ガウルさんは長ズボンのほかには上半身に革の胸当てをつけているだけで、毛皮がむき出しになっている面積が多い。お腹をモフったり虎耳の付け根をくすぐったり虎模様の尻尾の付け根を指でなぞったりしている。なんかエロい。
そこに小人族の少女が来て先生を引き剥がした。黒髪に黒目の、小人らしい百二十センチくらいの身長で、小柄な可愛い少女だ。
「姉ちゃん人前であんまりくっつくなよ。誤解されるぞ!」
「ペットをモフってるだけ」
「一応大人の獣人なんだからペット扱いはやめてさしあげろ!」
ガウルさんはさんざんモフられてテーブルにダウンしているがなんか気持ち悪くニタニタしている。これではペット扱いされても仕方ない気がするね。役に立たなそうなのでノックスさんと話をする。
「先生は一応Bランク上位くらいの実力はあるからな。冒険者としてはCランクで止まってるけど」
「何故ですか?」
「先生はこの領地から出られないんだよ。Bランクに上がるには国外のCランク任務を三つこなさないと駄目だからな」
「へえ、初めて聞きました」
Bランク冒険者と言えば町の英雄として称えられてもおかしくない。オーガの村くらいは潰せる実力者で、下位のドラゴンやデーモンさえ倒せるそうだ。いつか僕たちも……。
先生は小人族の少女に引きずられて外に出ていった。種族が違うのになんで姉と呼ばれているんだろう?
そもそも先生の種族って?
これから僕たちは彼女の出した薬草採取の依頼をたくさん受ける。彼女には当分の間お世話になりそうだ。
「この肉は先生のおごりだよ!」
おっと、酒場のおかみさん(この人もずいぶん若い)がスライスした焼き肉が山盛りになった皿を僕たちのテーブルに並べていく。いいのかな、まだ仕事も受けてないのに。
ガウルさんたちやノックスさんたちは歓声をあげて肉を口に放り込んで、冷たいビールで流し込んでいく。ダンジョンで取れた冷蔵の魔道具で冷やされているらしいビールだ。魔道具を取れたら一月は遊べるんだよね。うん、冷たいビール、美味しい。
薬草を食べるという草原暴れ牛の肉をスライスして焼き、胡椒をたっぷりかけた焼き肉はスパイシーで肉汁が噛むたびにあふれる、とてもいい肉だった。脂も甘くて食感ももちもちの、旨味の爆弾みたいな肉は、なんか誰かに愛されてるように感じてしまう。
あ、そうか、あの先生は冒険者が大好きなんだな。
しっかり薬草を採って依頼人の先生の役にたちたいと思った。冒険者は現金なものである。