民を信じるということ
ここからは王女としての、シズさんの仕事である。
「久しぶりね、ガイロウ殿」
淫らな夜を楽しむシズさんからは、想像もつかない落ち着いた声だ。
「我が国の勇者の事でお話があります。端的に言うと、貴国の反乱分子に力を貸している疑いがあります」
ガイロウは微動だにせずシズさんの話を聞いている。
「このまま放置すると、貴国との平和条約に悪影響を及ぼしかねない。そこで、ガイロウ殿には、我々が獣王国内で、情報収集活動をする許可をいただきたい」
シズさんが一気にまくしたてた。
静かに聞いていたガイロウが、ゆっくり喋り出す。
「わしが獣王になる時に、タカーマハラ王国には世話になった。恩はいまだ返しておらん」
「恩だなんて⋯⋯ ⋯⋯ 」
「お主らが我が国で活動をするのは許可する」
「ありがとう」
「――だが、我が国に反乱分子なんておらんよ」
「いや、クーデター計画が⋯⋯ 」
「王が国民を信じないで何を信じる?」
シズさんの発言を制すように、ガイロウは優しく諭した。
「シズ殿⋯⋯ 、シズ殿が王国を継いだ後、きっと分かる時がくる」
優しすぎる考えだが、嫌いじゃない。
稀に見る名君という評判は、本当のようだ。




