邪道師シノン登場
夜になってゾッドが連れてきたのは、美しい紫水晶のような瞳を持つ麗人だった。
名前はシノンというらしい。
「先生! シノンさんは王国でもトップクラスの魔術士なんです」
ゾッドが得意げに言う。
「それは凄い! ぜひ力を貸してください」
俺はシノンさんに頭を下げた。
「元トップクラスですけどね」
シノンさんは掛けている眼鏡を触りながら、居心地悪そうに呟いた。
「先生、シノンさんは、誰よりも熱心に魔道を追求した結果、魔術を超えた『神の力』を授かったのです」
「なんか怖いよ! どんな力?」
「言葉より、実際に体験してもらったほうがいいですね。シノンさん、よろしく」
シノンさんが頷くと、無表情で俺を見つめてきた。
俺の体が勝手に左右に揺れる。
「これが神の力?」
内心、期待外れだな、と思っていたら、一気に体が天井近くまで浮いた。
「舌を噛まないでくださいね」
不吉な言葉を耳にした後、俺の体は部屋の中を高速で飛んだ。
シノンさんの指の動きに合わせて右へ左へ、前回り、後ろ回り⋯⋯
「分かった! 分かったからやめてくれッ!!」
俺は胃の中の物を必死で押し戻しながら、懇願した。
◆◆◆
「凄い力ですね!」
俺は興奮が冷めないまま、シノンに言った。
「王国の魔術士達は、誰もシノンさんに敵いません」
ゾッドが続けた。
「でも、強すぎる力のせいで魔術士達から疎まれているようです」
「魔術士はエリートですからね、プライドだけは高いです」
シノンが力なく笑った。
「陰では【邪道師】なんて言われているようです」
出る杭は打たれるって事か、どの世界も変わらんな。




