超人養成法
シズさんは挨拶を済ますと帰っていった。
詳しい話は明日から、だそうだ。
◆◆◆
翌朝、シズさんが来る前に、日課の武術稽古を済ませておく。
武術稽古といってもシャドーボクシングとか空手の型のようなものは一切しない。中国武術の極意である【立禅】をおこなうだけだ。
【立禅】を極めると常識を超えた動きができるようになる。
例えば、三メートルぐらい離れたテーブルからコップが落ちて床に着く瞬間、一瞬で距離を詰め、コップを手に持つぐらいは、誰にでもできるようになる。
足を腰幅ぐらいに開き、両腕を直径一メートル程の球を抱くように円くして、胸前に上げる。この姿勢のまま約一時間ほど立ち続ける。
汗が滝のように流れる。顎から垂れる汗で、足元に水溜まりができるほどだ。
静かに立ち続けることで神経系が鍛えられ、武の達人の動きができるようになる。
さらに細かい秘伝を意識して【立禅】をすると下腹の丹田という場所に気が発生する。
この発生した気が全身を巡り体を修復、強化してくれる。
【異世界】に来る前は、丹田に発生する気は温かく感じられ、心地良く感じるレベルだった。
だが【異世界】で【立禅】を行うと、まるで熱湯のような、質量すら感じさせる強力な気が丹田に発生した。この強力な気が丹田から全身へ巡ると、ある種のエクスタシーを感じるほどだ。
俺は部屋を出て庭へ行った。試しに庭にある小石を右手に握り、力を込める。
――小石は粉々に砕けてしまった。【異世界】の気の恩恵により、身体性能が大幅に向上しているようだ。
【異世界】の気の凄さに感動しつつ、部屋に戻り、汗を拭いていると、シズさんの声が玄関のドア越しに聞こえた。