悪徳王登場
夜営地の騒がしい喧騒は静まり、安堵感が漂っている。
どうやら奇襲は終わったようだ。
討伐軍は重傷者こそ出たが死者は無く、被害は軽微と思われる。
魔術士達が、一斉に回復魔法を全員に行う。
俺の身体が淡い光に包まれると、失った魔力が補充され、高揚感と共に筋肉に力が漲る。
やがて、討伐軍は落ち着きを取り戻し、これから指揮官の指示のもと【悪徳王】の拠点に侵攻するようだ。
◆◆◆
純白の全身鎧とマントを装着した【槍聖】カツラギ・ユウと、軍支給のカーキ色のズボンとTシャツを着た俺は、森の中を疾駆していた。
「いいなぁ〜、俺は鎧持ってないんだよ」
ユウに軽口を叩く。
「ゾッド様に相談したらどうですか?」
「あいつの鎧は高そうだったな!」
俺とユウは斥候として【悪徳王】の拠点を偵察しにきている。
「見張りが見えてきました」
ユウが声を抑えて囁く。
百数十メートルほど先にある、朝日に照らされた洞窟の入り口を発見した。
「あそこに【悪徳王】がいるのか?」
「【悪徳王】は拠点を転々としていまして、今は、あそこにいるようです」
――なるほどな。
「どうします? 我々である程度、人数を削っておきますか?」
「待て待て、それじゃあ逃げられるぞ」
さて、どうしたものか⋯⋯
思案に暮れていると、洞窟から密集して出てくる獣人達がいる。
中心の人間の男を守るように、周囲の獣人がガードしているように見える。
「あれ【悪徳王】?」
「そうです!」
「イメージと違ってインテリっぽいな」
「元は優秀な科学者だったそうです」
IQが高い奴は何をやっても上手くいくから厄介だな⋯⋯




