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嘘も方便といいます
基本的に【森羅万象を司る英雄】ゾッドは何もしない。
恐らく、高価なマジックアイテムであろう全身鎧を身につけて、威風堂々と立っているだけだ。
周りにいる【剣聖】カツラギ・スミを筆頭とする部下達が、ゾッドを守っている。
「皆の者ぉ――! 王国の未来は我等が担っているのだ! 絶対に勝つぞ――‼︎」
ゾッドが大声で叫ぶ!
「うぉーー!」
「勝つぞ――!」
戦場のあちこちで、ゾッドの檄に呼応して雄叫びが続く。
嘘もつき続ければ本物になるのか。少なくとも兵達にとって、ゾッドは本物の【英雄】なのである。
辺りを見渡すと【槍聖】カツラギ・ユウがいない。
「兄貴はどうした?」
【剣聖】カツラギ・スミに聞くと、熊の群れが来た方向を指差した。
指差す先には、他の熊の倍はあるボス級の熊と戦っている【槍聖】カツラギ・ユウがいた。
ボス級の熊の片腕が千切れ、滴る血がヌメヌメと光っている。仕止めるのは時間の問題だろう。
「これで終わりだと思うか?」
【剣聖】カツラギ・スミに尋ねた。
「まさか! これからでしょ」
【悪徳王】の襲撃は、これからが本番だろうな。




