英雄の告白
落ち着いて考えると【英雄】の提案は悪くない。
ガチでやったら、どちらかが損するだけだ。
「そうだね、八百長やろうか――」
「それは有り難い! それでは親善試合の日程は、こちらで決めておきますよ」
まるで、霧が晴れたように【英雄】の表情が明るくなった。
俺は以前から気になっていた事を聞いてみる。
「森羅万象を司るって何ができるの?」
【英雄】の表情が、また曇る。というか顔に出すぎだろ。
「⋯⋯ それは、その⋯⋯ 。秘密です⋯⋯ 」
まぁ、自分の手の内を明かすつもりは無いってことか。
「武俠兄妹は強かったよ。【英雄】はあの二人より強いんだよね?」
「いや――、私は投げ技専門です」
ん? グラップラーということか?
「八百長するにしても、ある程度は観客が納得する技を見せないとね」
「はぁ⋯⋯ 」
【英雄】が遠い目をして答える。
「ちょっと【英雄】の動きを見たいからさ、軽くシャドーボクシングとか.武道の形を見せてよ」
【英雄】は俯いたまま椅子から立ち上がろうとしない。
「そこまで隠すのは敵対する気があるって事だよ?」
少しイラっとしたのでキツめに言った。
「実は⋯⋯ 」
俯いたままの【英雄】が、今にも泣き出しそうな声を絞り出した。
「実は⋯⋯ 、実は私は強く無いんです⋯⋯ 」
堰を切ったように【英雄】は両手の中に顔を埋めて泣きだした。




