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嫌がらせシリーズ

嫌がらせされます!

『嫌がらせします!』の続編となりますので、そちらを読んでから読むことをオススメします。


私は今、嫌がらせ真っ最中である。


嫌がらせ"する側"ではない。"される側"だ。


なぜだ。なぜこうなった……。

いや、正直に言えば分かっているんだ。理由は明白。


奴が私をターゲットにしたからだ。

姉さんの情報を渡さない私に対しての報復行為である。


だがしかし!どんな手を取ろうとも、私が姉さんを売ることはない!

はははー!ざまあみろ。


「ニヤついてんじゃねえよ」

「ヒロ君に構われてるからっていい気になんなよ」

「こんな地味女が、なんでヒロ君に構われるの」


嫌がらせ手段としては比較的王道な、女子による一方的罵られ大会だ。

場所も鉄板の体育館裏。滅多に人なんか来やしない。


ちなみにヒロ君というのが、奴の名前らしい。

私はあんな男の名前なんて覚えてやらないがな。姉さんの相手に相応しくないのだから覚えたって意味がないのである。


「どうやってヒロ君に取り入ったのよ?!今まで接点なんてなかったはずなのに」


私は奴に取り入ってなどいない。決して取り入りたくもない!

不覚にもあの男に私という存在がバレてしまった日の翌日から、奴は私に聞き込み調査を始めたのだ。

「ひーちゃん、名前は?」

「好きなものは何なの?教えて欲しいな」

「どこらへんに住んでるの?今度どこかへ出かけよう」

などと、質問責めである。


もちろん私は黙秘した。

姉さんの名前も好きな物も、お前に教える義理はない!

その上、出かけようだなんて。

私は絶対にお前を姉さんの相手として認めないからな!と思わず怒号が飛び出そうだった。我慢したけど。


奴の異常なまでの執着的な、鳥肌立ちそうな行動は今日まで続いている。


その一方で、そんな完全黙秘な私ではラチがあかないと思ったのだろう。

自分でなんとかするのではなく、周りの人間を私にけしかけるようになったのだ。悪口満載の手紙が机やカバンに入っていたり、物が消える被害にあっている。


そう。かつての私と同じ作戦である。メンタル弱らせてやろう戦略だ。弱ったところに漬け込んで、口を割らせてやろうって魂胆である。

私はちゃんと隠した物を返してたっていうのに、奴は返してくれないから私財布が軽くなってしまった!非常に迷惑だ!


だがしかし!私は挫けない。

敵の作戦を把握しているのだ。思惑になんて乗ってやるもんか!

姉さんを守るのだ!あんな女誑しの毒牙にかけさせられない。

姉さんはか弱く美しいのだ。もっと誠実な人じゃなきゃ認めないんだからな!


「なんとか言えよ、ブス!」

「耳は飾りかよ。うちらの話聞いてんの?!」


目の前の女子達が騒いでる。

さて、私はどうするべきだろうか。下手に口を開いたら、もっと怒らせかねない。

彼女達はきっと、あのクソ男の手回しによって用意された人間だ。私の嫌がらせ用の補助員とも言うべき存在。

そんな敵の手先が、私の言葉を聞くだろうか。


答えはもちろん否だ!


口を開いたら「黙れ」とか言われて、また別のイチャモンをつけてくるに違いないのだ。

なんて陰険な男なのだろうか。あんな顔だけ男の味方なんてせずに、彼女達も真っ当に生きればいいのに。


「もう怒った。謝ったって止めてやらないんだから」

「やっちゃおうよ」

「地味女なんて、イジメたって誰も困んないんだし、不登校になるくらい徹底的にやってやるんだから」


この台詞だって、きっとあの女たらしに決められている台本にでも書いてあるのだろう。

こんな茶番など、彼女達だって面倒だろうに……。

どれだけ姉さんに執心なのだ、あの男!


私は絶対に口を割らないからな!


「何してるんだ!」


目の前の女の子が手を振り上げ、私の頬を叩こうとした瞬間。

見計らったかのように、誰かの怒号が響いた。


……聞き覚えのある、嫌な奴の声である。

というか、絶対に見てただろ。そういう脚本なんでしょう?!


「ヒ、ヒロ君?」

「どうしてここに?」

「ち、違うの!これは……ヒロ君が思っているようなことじゃなくて!」


慌てたように、私から離れてヒロ君と呼ぶ男の元へ縋りついた女の子達。


「ちょっと話をしていただけなの」

「そうなの。だから、ヒロ君そんな怖い顔しないで」


彼女達、本当に演技が上手だなぁと私は少し感心しながら眺めていた。

こんな風に、嫌がらせの補助員が私を詰る演技をしている最中に、助けるように乱入する。


嫌がらせ直後で、メンタルにダメージを負っているであろう私に、甘く囁きかけることで姉さんの情報を吐かせる作戦だな!


「俺、今すごい怒ってる。何か言われたくなかったら、早くどっか行ってくれない?」


んふふ。私には分かっている!

かつて、同じように精神攻撃をして追い詰めようとした私には、その手口は効かないんだからな!


「ヒロ君!ごめんね、だからそんなこと言わないでよ」

「ねえ、ちょっと本気で怒ってるっぽくない?」

「……今はヒロ君の言う通りにしとく?」


一人だけ奴の腕に縋りついたけど、他の女子が困惑したようにその子を引っ張る。

逃げるように散っていく彼女達。

その後姿を見送りながら、絶対に姉さんを守るぞと拳を握って決意を新たにした私。


「ひーちゃん、大丈夫?」


妙に優し気な声で私に鳥肌量産させたのは、姉さんを執拗に狙う敵である。


「話しかけないで下さい」


教えることなんて何もないぞ!

さっさとお前もどっか行け!って手でシッシッと払いたい気持ちを抑える。


「心配なんだ」

「アナタに言われたくないです」


他の男に取られるかもしれない心配をしていても、お前は姉さんの彼氏じゃないからな!

確かに姉さんは可愛いし、世界一可愛いし、綺麗だし、宇宙一だって断言できるけど。

今のところ、姉さんの彼氏にしてもいいと許可できる男はいないのである。

だから、コイツの心配は取り越し苦労だ。


「アナタの手には乗りませんよ」


奴の作戦を承知している私には、メンタルへのダメージなんてないのである。

だから、メンタル弱らせてやろう戦略は通じないぞ。弱ったところに漬け込もうったって、私は弱ったりしないのだ。


「ひーちゃん!」


ちょっと強めにわたしを呼びかける。

なんだ、なんだ。さっきので精神的に弱ってないと判断したら、今度は自分で恐喝をする気か?!


「俺には意地張らないでよ。俺、ひーちゃんを困らせたいわけじゃないんだ」

「絶賛困らせ中の人が、何を」

「困らせ中……か。確かに、さっきみたいなことになったのは俺のせいだよね……」


こんなに姉さんの情報を欲して、作戦を展開してくる困った奴は、コイツが初めてである。

でもだからって、姉さんの名前も、デートの許可も出さないんだからな!

どんなに付きまとわれたって、私は情報を漏らしたりしないぞ。

どんなに私を困らせて、メンタル攻撃を繰り広げても、私は屈したりしない!


「ごめん、ひーちゃん」


急に項垂れた男に、私はちょっと困惑する。

しかも、ちゃっかり、私が逃げないように腕を掴んでくる始末。

困惑は深まるばかりである。


「こんなこと言っても、今は信じられないかもしれないけど」


真っ直ぐ、奴の目が私を射抜く。

あんまりにも、真っ直ぐで。

見たこともないくらい真剣な顔しているから、私はもっと混乱する。


「でも、俺|ひーちゃん<・・・・・>を守りたいんだ」

「ん?私、を?」


……うん?

コイツ何を言っているんだ?

私の混乱は、天井を突き抜けて混乱の極地に至った。


「うん。守らせて」


姉さんのことを?


「ひーちゃんの傍で、ひーちゃんのことを」


うん?

どうして、ここで私の名前?


バカみたいに私の脳味噌が一旦働くことを拒否して、私は茫然と目の前の男のことを見返した。


真剣に、どこまでも見透かすように私を覗き込む目の前の男子は、その無駄に整った顔で困ったように眉を下げて笑った。

初めて、敵愾心なくこの男の顔を見た気がして、私は急に気恥ずかしい気持ちになる。


「わ、わ……たし」


私の腕のグッと握られた所が、妙に熱く感じる。

姉さんのことじゃなくて、私を守りたいとバカなことを言い出すこの男は、真面目な顔をして私に一歩近寄った。

近い。この前の壁ドンくらい近い。思わず心臓が高鳴る。

あまりの近さに私の顔も熱くなって……。


「そしてひーちゃんのこと、全部教えて欲しいんだ。全部知りたいんだ。考えていることも、好きな色も、好きな食べ物や嫌いなことも、家族のこととかも」


スッと冷えた。


「んふふふ。そういうことね」

「ひーちゃん?」

「そういう作戦かー!」


つまり、やっぱり嫌がらせなのである!

さも、私のことを気にかけているようなふりをして、本当に聞き出したいのは家族--つまり姉さんのことなのである!


危ないところだった。

思わず、コイツの雰囲気に流されてしまった。


考えてみれば、さっきのまで繰り広げられていた嫌がらせ手段としては比較的王道な、女子による一方的罵られ大会だって、こいつの台本だったはずである。

思ったよりメンタルにダメージのなかった私のことを見て、嫌がらせの手法を変えてきやがったな。


……色仕掛けを含めた精神攻撃をしてくるだなんて。


さすがは女たらしである。

モテない私には思いもつかなかった作戦で、あっぱれである。


「っていうか、近い!」


わーー!!

冷静になると、なんだこの距離感。


目の前の男に掴まれた腕を振りほどいて、私はその場を逃走した。


「ちょっとドキドキしちゃったじゃないかー!」


向こうの嫌がらせ作戦にすっかりしてやられて、思わず意識してしまった自分が許せない。

次こそは、負けないんだからなー!





私の後姿を見送りながら、私の腕を掴んでいた手を握りしめて、


「ひーちゃん可愛いな」


なんて、笑みを深めていた男がいたことなんて、私は知らない。


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