表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

「決して壊れることのない肉体を持って生まれた少女」の話④

「全部おまえのせいだ。おまえと出会わなければ、あの二人が死ぬことはなかった。おまえが俺たちの心を壊したんだ。おまえはこの世に存在しちゃいけなかったんだ。おまえさえいなければ、おまえさえいなければ……」


 そう言って、たっくんは泣きながらあたしの首を絞めた。

 けど、あたしはそんなことで死にはしない。

 生きてないんだから、死ぬことはない。

 たっくんも、もちろんそれはわかってる。


 たっくんはあたしの首を絞めるのをやめると、今度はあたしを殴りつけて、蹴りつけ始めた。

 あたしはそのとき、ちょうどしばらく何も食べていなくて、逃げたり抵抗したりする力はほとんど残ってなかった。

 そばに食べ物は置いてたけど、たっくんがそれを食べさせてくれるはずもない。

 あたしはされるがまま、殴られたり蹴られたりしてるしかなかった。

 いくら殴られようが蹴られようが、やっぱりあたしの体には傷一つ付かないんだけどね。


 ひとしきり殴る蹴るしたあと、たっくんは、あたしの頭を思いきりテーブルの角にぶつけたり、イスで殴りつけたりし始めた。

 それから、山小屋にあった枝切りバサミや斧を使って、肉を切り刻んだり骨を潰したり――。


 そんなことをされてるうちに、あたしの意識は朦朧としてきた。

 それは、それまで経験したことのない感覚だった。



 あれ……何か変だな……って思いながら――。

 あたしは、一つ気づいたことがあった。



 泣いてたはずのたっくんが、いつの間にか、笑ってた。

 心の底から楽しそうに。

 それは、昔一緒に遊んだ、あの頃と変わらないたっくんの笑顔だった。


 それを見て、あたしはこんなこと考えたの。


 ちーちゃんとまーくんに子育てのことを相談されたとき、自殺の話を持ち出したのは、実はたっくんなんじゃないかって。

 二人が首を吊るように仕向けて、たっくん自身は、わざと細い枝を選ぶとか、あらかじめ枝に傷を入れておくとかして、そこに自分の縄をかけたんじゃないかって。


 この考えが当たってるかどうかは今でもわからないけど、少なくとも、たっくんにはそれができた。

 たっくんは、あたしが三人の心を壊したと言ったけど、たぶん、あの「遊び」によって本当に壊れたのは、たっくん一人だった。

 たっくんは大人になってからも、昔のようにあたしと「遊び」たくてたまらなかったんだ。

 それにはちーちゃんとまーくんが邪魔だと感じたのかもしれない。

 あたしに会いに行くことを知られたら何を言われるかわからないからかな。

 それとも、自分の他にあたしの存在を知ってる人間を消してしまいたかったのかも。

 あたしのことをたっくん一人の秘密にして「遊び」たかったのかもね。

 あるいは、単に、ちーちゃんとまーくんの体が壊れるところを目の前で見たかっただけかもしれない。


 なんにせよ、たっくんは本当のところ、あたしに復讐しに来たんじゃなくて、「遊び」に来たんだ。

 たっくんにとって、あたしはいつまでも壊れることのない、永遠に遊び続けることのできるおもちゃだった。


 そのはず、だった。


 なのに。


 斧を何度も何度も振り下ろされて、体中の肉と骨を端から順番に潰されて、ぶちゅぶちゅ血を飛び散らせ続けたあたしは、いつしか二度と動かなくなってた。


 相変わらず、体に傷は残らないの。

 斧で切り潰した肉も骨も、すぐに元通りになる。

 流れた血も、いつの間にか消えてる。


 でも、あたしは「動かない死体」になっちゃった。


 あたしの体は何をしても壊れることはないって、あたし自身そう思ってた。

 ううん、実際にその通りだったんだけど……。

 それでも、あんまりむちゃくちゃやりすぎると、魂が体から離れちゃうみたい。



 そうして、あたしの魂は、今いるこの町にたどり着いた。

 でも、こうしてあの体から離れたあとも、あたしの体やその周りで起こったことは、なんとなくわかるんだ。



 動かなくなったあたしの体を前にして、たっくんは慌てた。

 だって、それはもう、普通の死体と同じになっちゃったんだから。

 まあ、厳密には「壊れない死体」だから、普通とは言えないんだけどね。

 でも、動かない死体は、誰かに発見されたらきっと殺人事件になっちゃう。


 たっくんはどうにかしてあたしの体を始末しようとした。

 けど、切ろうが燃やそうが、あたしの体は決して壊れることはない。

 いっそ土中に埋めてしまおうかとも思ったけど、そんなことをしても、きっといつまでも土に還らず、死体はそこに在り続ける。

 そうなると、いつか誰かに掘り起こされる可能性もある。


 たとえ誰かに発見されても、あたしの体は、普通の死体みたいに解剖とかしたりはできないかもね。

 それでも、死体を調べることによって、どこからかあたしとたっくんとのつながりが導き出されないとも限らない。

 もしそうなれば、どういうことになるのかはわからないけど、少なくとも、たっくんにとって厄介なことになるのは間違いなさそうだった。


 思い悩んでたときに、たっくんは、あるものを見つけた。


 あたしの体についてる、ネズミの歯型を。


 たっくんが目を放してた隙に、ちょっと齧っていったんだろうね。

 決して傷つかないはずのあたしの体が、そこだけ肉がえぐれて小さな傷になってたの。

 それを見て、たっくんは、あたしの体を壊す唯一の方法に気づいたってわけ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ