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「決して壊れることのない肉体を持って生まれた少女」の話②

 変な方向に曲がっちゃった首を見て、ちーちゃんも、あとの二人――まーくんとたっくんも、どうしようどうしようって、すごく焦ってね。

 でも、もう一回抱き上げてみたら、あたしの首は折れてなんかなくて、ちゃんと元に戻ってたの。

 そのとき、あたしの体は壊れないんだってこと、三人は知ったんだ。




 ちーちゃんとまーくんとたっくんに育てられて、あたしはちょっとずつ大きくなっていった。

 あたしの世話はすごく楽だったと思う。

 肉を食べないと成長は止まるし、何も食べないと動くこともできなくなるけど、死ぬことはなかったから。

 何日か山小屋に来るのを忘れて食事も与えずに放っといても、また何か食べさせさえすれば元気になるんだから。

 それに、高い所から落ちたり、危ない物をさわったりしても、怪我することはないしね。

 えっと、コンピューターゲームでさ、育成ゲームっていうの?

 動物とか人間とか育てるゲームがあるって聞いたことあるけど、それだって、何か失敗すると育ててたものが死んじゃうことがあるんだって?

 それなら、あたしを育てるのって、ゲームよりもずっと簡単だったと思うな。


 三人は、お弁当や、家の食事のおかずや、給食で出てきた肉を、ちょっとずつ持ってきてはあたしに食べさせてくれた。

 あたしの体はちょっとずつ大きくなっていって、しばらくすると自分で歩けるようになって、言葉も覚えて、彼らとお話したり、一緒に遊ぶことができるようになった。

 山から出ちゃいけない、山の外は危ないって言われてたから、あたしはいつも、彼らと山の中で遊んだ。

 お花や葉っぱを摘んだり、虫を捕まえたり、鬼ごっこやかくれんぼしたり、彼らが持ってきたお菓子を、送電線の鉄塔の根元で日向ぼっこしながら一緒に食べたり――。


 一緒に遊んでると、彼らはよく、あたしを転ばせたり、あたしに物を投げつけたりした。

 木登りしてるとき、高い木の枝の上からあたしを突き落としたり。

 あたしの手足を縛って、首に紐を括りつけて沼に沈めたり。

 家のお仏壇にあったライターを持ってきて、その火をあたしの腕や顔に押しつけたり、なんてことも。


 そのたびに、あたしの体には擦り傷ができて、血が出て、皮膚が焦げて。

 骨が折れて、肉が潰れて。

 ――でも、そういうのは全部すぐに元通りになった。


 他にもね、いろんな「遊び」があったよ。

 たとえば、針と糸であたしの口や目を縫いつけるとか。

 あと、山小屋に置いてあった、木の枝を切るための強いハサミを使ってね、あたしの手の指を、ばちん、ばちん、て切り落としていく遊びも、彼らは好きだったな。

 ばちん、てハサミの刃を合わせると、切れた所から血がいっぱい出て、刃を挟んだ指の先と付け根とは完全に切り離されてるように見えるんだけど、刃を離したら、指は元通りちゃんとくっついてるんだ。

 いっぱい出たはずの血も消えてるの。

 傷も何も、全然残らないの。


 だから彼らもあたしも、そんな遊びをしながら、一緒に仲良く笑ってた。

 あたしはちょっと痛かったけどね。

 でも、たいしたことはなかった。

 それより彼らと遊べることがうれしくて、彼らがあたしに会いに来てくれるのを、いつも楽しみに待ってたんだ。



 だけどね、しばらくして、彼らはあたしの所に来なくなった。


 きっと、あたしのことが怖くなったんだと思う。

 数年の間に成長したのはあたしだけじゃなかった。

 彼らもだんだん物事がわかってきて、生きても死んでもいない人間ってものの存在が、傷つけても傷つけても壊れることのないあたしの体が、世の中においてどれだけ異常で、気味が悪くて、忌まわしいものかってことが、わかってきたんだろうね。

 それで、あたしに関わるのをやめたんだ。



 それから、あたしは山の中で一人ひっそり成長を続けた。


 もう自分で食べ物を取れるようになってたから、山の中にある木の実をもいだり、山にいる動物を捕まえたりして食べた。

 食べ物を探すのが難しい冬場なんかは、動き回らずに小屋の中でじっとしてることが多かった。

食べなくても死なないし、動き回らなければエネルギーも減らないから、別に不自由することはなかったな。

 退屈ではあったけどね。

 あんまり退屈になると、ときどきふもとの町に降りることもあった。

 あたしのことは人には知られないほうがいいって、あたし自身思ってたから、人目は避けるようにしてたけど。

 町に行くと、捨ててある雑誌や本を拾ってよく山小屋に持ち帰った。

 庭に干してある洗濯物を盗んだりもした。

 着てる服がどんどんきつくなっていくんだもん。


 そうやって、しばらく一人で暮らしてたんだ。


 しばらくっていうのは……たぶん、あの三人があたしの所に来なくなってから、二十年、くらいかな?

 年数を数えることなんてしなかったからはっきりとはわからない。

 山の暮らしでは、今が西暦何年とか知らなくても不都合はないし、あたしには年齢なんて関係ないしね。

 年月で成長するんじゃないもの。肉を食べたぶんだけ育つ、それだけだもの。


 ……山で動物を捕まえるのって難しくて、それに、別におなかがすくわけでもないし、あたし、そんなに肉は食べてなかったんだ。

 だから、あの三人が食べ物を持ってこなくなってからは、あたしの成長は普通の人間よりもずっとゆっくりだった。

 あの三人と一緒にいたとき、あたしは、最後のほうには彼らと同じくらい、十歳くらいの体にまで育ってた。

 でも、それから二十年くらい? 経って、まだ、ほら、このくらいの体なの。

 これって普通の人間だと何歳くらいになるんだろう。十五歳前後ってとこかな。


 それでね、なんで「しばらく」が二十年くらいってわかったかっていうと……。



 ある日、突然、たっくんがあたしに会いに来たの。

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