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「狭間の町」の話 - 其の三 -

 語り終えた少年は、うつむいて言った。


「生者の世界を去るとき僕が聞いていたのは、赤ん坊の泣き声と、笑い声と、それをあやす、両親の楽しげな声だ。それが、ずっと、今も、頭から離れない。生きている人間同士の間に生まれた赤ん坊が。僕と違って、母と父に抱きしめられたり、頭を撫でてもらったりすることのできるあの子どもが。僕は、うらやましい……ねたましい……」


 少年は顔を上げて、俺を睨みつけた。


「わかるか? 僕は、恨みごとを言うためにこんな話をしたんだ。僕はおまえらが憎くてたまらない。ちゃんと生きて、ちゃんと死ぬことのできるおまえらが……」


 本当に、それは憎しみのこもった目だった。

 俺は思わず少年からあとずさった。

 けど、少年は間髪入れず、もう一度声が届く距離まで顔を近づけて――。


「紐を手繰るんだ。お前の掴んでいる、その栞をほどいた紐の端に絡み付いた、見えない紐を。そうすれば、おまえが戻るべき場所にたどり着ける」


 少年は、そう教えてくれた。

 俺が戸惑いながら礼を言うと、少年は顔をしかめて「生きてる人間にいつまでもこの町をうろつかれると気分が悪いんだ」と言った。

 でも、別れ際にちらりと俺のほうを見た少年の目は、その前に出会ったあの少女と同じで、やっぱり寂しそうに見えた。



 俺は少年に言われた通り、見えない紐を――それは、少年の前に出会った少女が言っていた、「生者の世界への道」と同じものなのだろう――を、手探りで手繰りながら、また道を進んでいった。


 彼女のことを考えないように。

 家族のことや、友達のこと、自分の将来のこと、自分が戻るべき世界に残してきたいろんなことで、頭をいっぱいにして。


 そうしてしばらく行くと。


 何百回、何千回に、見えない紐を手繰ったときだろうか。


 何か――「境界」を踏み越えた、そんな感覚が、あった。

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