尖閣の死
尖閣の訃報を受けて俺たちオオアザからの出向組は帰郷した。
流閣は一言も喋らずただただ自身の手を見つめた。その手は修練の繰り返された。ゴツゴツとした手だった。
俺達が帰郷した後すぐに葬儀が行われた。
数々の伝説を残した偉人が死んだのだオオアザ国内の武閣流門下全員と、仙力の里の者の各家の当主、照道流師範とその高弟達、そしてオオアザ国皇帝陛下オオアザ・光圀
抜け殻に近かった流閣を叱咤激励をし、送辞を読ませるまで気を引き締めさせたのは妻のレナだった。
そして一週間の月日が流れた。
流閣は既に自身の後継者を育て始めた。
まるで次は自分の番だと言わんばかりに
それから一ヶ月後ナエルの国の近郊で魔人に襲撃されたという事件があったとの報せがあった。バルカザンの帝都復興が始まった矢先の出来事であった。
襲撃された男はガルリム連邦国出身の傭兵でカース評議会選挙トーナメントにも、出場経験のある正面からの戦いにも強いエキスパートであった。
男が死に際に喋った事はこうだ
「まるで野生と武術のキメラの様だ」…と
この話を聞いてとある居酒屋でニーカと談笑する鉄斎。
「なぜナエルなんだ?」
2人とも最初の発泡酒から蒸留酒に切り替わっていた。
「さあ?あそこは恵まれた土地とは言い難いですし、姿を隠せると言っても毎日グルグル盗賊のナエル国が回ってますから、無事でいられる訳じゃない。」
「そういえばナエルってこの騒動を知ってるのか?というかあの国って帝国以外に付き合いあるのか?」
「一個目の質問ですが、百パー知ってますね二個目の質問にも関係ありますがクライアントが亡くなったんです彼らの仕事の実質6分の1ほど減りましたから、今新しいクライアント探してますよ。」
「そうかぁナエルの国の付近の自然なんて西南は氷の大陸、西北は活動中の火山に溢れてる。あんなの人、っていうかまともな生物が到底住める訳ねぇよなぁ」
…と手元の酒を弄びながら呟く。
「えーでもでもぉ、その環境に新しい資源とかぁ、その環境だからこそ出来る事があったりしてぇ」
ぐでんぐでんになったニーカが喋る。
「出来る事ねぇ?過酷な環境で出来る事?、いや順応する?、突発的な進化を促す?…………ハッ!!!」
鉄斎はなんか閃きかけた。
「なぁ?ニーカあの魔人達って生後何日くらいで上級種クラスになる?」
「ローディアンの記録じゃあ、王で生後1日と少しで帝国屈指の護衛隊を全滅させてますからねぇ」
「生前つまり遺伝子に残された魔撃の扱い方を魔術というテクノロジーを奪う事によって効率化され、人型ゆえに武術を吸収出来、それらを短期間に次代へ残せるとしたら?敢えて苛烈な環境に身を置く事で人間達の干渉を受けず、尚且つその環境に適したより強靭な新世代達が生まれる、そして文化と文明を王が伝えれば……」
すっかり酔いが醒めた鉄斎はこの考えをニーカに聴く
「何ブツブツ言ってんですかぁ?ほらお酒無くなってるぅおねえさ〜んこの人にお酒おかわりぃ〜」
ニーカは酔いながら鉄斎に飲ませる。
「おいこの三十路のババァ」
明日にはこの可能性を検討して貰おうと考えたその頃。
アナルガルド最西部 獄大陸
先程の鉄斎が話したこの大陸は南と北で環境が180度異なる。
その狭間の奥に奴らは居た 。
帝国から奪った魔導塔を拠点に、世界各地から食糧たる魔獣を転送させて食い新しい仔に戦闘訓練を叩き込む。
そんな彼らの視線の先に君臨する者。
「ギーラ」
王である。




