蟻に喰われた巨象
賢者の国樹の根本の武道場
「徒手長お話が」
「なんだ客人の武を知る機会を割くほどなんだろうな」
伝令に飛んで来たエルフの表情は真剣そのもの
「帝国からの密告者です。そしてその驚くべき事実が」
「なんだ?」
そして修練に精を出していたエルフ達も剣呑な雰囲気に引き込まれる。
その視線を感じたからか伝令は一呼吸置き、
「…帝国が襲われました。首都は陥落し皇帝の安否も不明軍部は壊滅状態にあり、例の塔が占拠されたようです。」
「なんだと?どこのどいつだ?そんな馬鹿な事をしでかした奴は!!」
「それが我が国とバルカザン帝国の国境のバックルの大森林から出てきた魔獣達です。そして奴ら自らをこう名乗ったそうです「魔人」と」
「魔人か…言語を解する上級魔獣いただろうなんの違いが」
「正直言ってそれは接触してみないことにはなんとも」
鉄斎はその話に思い当たるフシが出てくる。
「その魔人?ってのはしらねぇがここに来る途中変な奴と戦ったぞ」
「鉄斎殿が交戦したその個体はどのような?」
「おそらくアリアドネの派生なんだろうが人型で尚且つ動きそのものが野生ではなくどこか人間寄りもっと言えば武人側の動き方だった。わざわざ糸を硬化させて鎖鎌までこしらえたんだ」
「ふむ、その話を聞く限りその魔人は高度な理性を獲得したと思える。」
「人類を見下してたな最初はギーラって鳴き声みてぇなのしか言わなかったが流暢な俺らの言葉を喋ってたよ」
「ギーラ?」
「数はまだそんなに居ない筈だなんせ群れの中に一匹つかそいつが長って感じだったからな」
「なんにせよ今の話陛下にもしていただけますか?この状況だと我々も協力をせざるを得ない事になる」
「良いがまだ話進んでなかったの?」
「国樹を使うというのはそれ相応の覚悟がいるんですよ」
「へー、後密告したセイニヒって奴会わせてくれねぇか?」
「何故?」
「奴の事は多少なりとも知ってる」
そして鉄斎は拳骨を作り
「殴りあった仲だ」
「まぁ上に掛け合ってみますが」
その後鉄斎はエルフ王に報告を済ませてセイニヒと面会をした。
セイニヒは酷く疲れた様子で
「アンタか…にしてもなんでローディアンにてっきり国元に帰ったのかと」
「いやそのお国の命令でここにいる…久しぶりだなセイニヒ、ネールの評議会トーナメント以来か?」
「アンタに負けた後に俺の雷魔術の研究の為に生まれ故郷のバルカザンに帰ったんだ。そこで―」
「いやまだ奴ら襲っては来なかった。」
「いや、帰った当初は国が魔導塔の建築パレードをやっててな国中が浮かれてた。」
「あの魔導塔はどういうものか知ってるのか?」
「いや?あくまで新たな魔術式を組み込む為の施設だと」
「そうか?だがこの世界随一の軍事力と魔術式の知識を持ってるそんな国の首都が落とされるなんてそもそもなんでお前が伝令を?」
「伝書鳩を飛ばしてもあの魔人達に落とされるのがオチだなら最速の伝達係が俺って訳だ一般的な魔獣に勝てるし、魔人を振り切れる可能性が高いからな」
「あの魔人ってのはなんだ?」
「奴らはそう名乗ってた上級魔獣達のカタコトの人語とは違うそこには意思が宿ってた」
セイニヒの手が震える。
「教えてくれ!お前の感じたその意思は」
セイニヒは髪をくしゃりと握ってから告げる。
「人類をこの世界から絶滅させるって言う強い決意と憎悪だ!!」
「………」
(だが俺が戦った奴は一種のサンプルのような扱いだったが)
「帝国軍はすぐに事態の収拾を図ったが奴らの個の戦力は人類を遥かに上回り、圧倒的な指導者のカリスマの元軍以上に統率のとれた、いや一個の生命体のような"群れ"だった。そう"蟻"のようなそして俺の故郷はその群れに飲み込まれた。巨像とも呼ぶべきこの世界の盟主たる帝国がその心臓部とも呼ぶべき首都を蟻に食い潰されたんだ!!」
「…群れ……蟻」
「軍を潰し、民家を焼き、鍛冶場や施設はそのまま残し占拠それは手際よく、スムーズだった。俺たちが町の防壁一つ守ってる間に奴らは!!そんな組織然とした集団だが、魔人ひとりひとりに自我あったんだ。
だがその思考の方向性は全て王の利益にのみ向けられている。」
「そこまで率いる絶対的なその"王"とは何者なんだ?」
「ここから話す事はもっと人が多い方が良い、もっと身分の高い人物を大勢な。」
「だがなんそんな感触を確信を持って言える?」
「そんなの決まってる!戦ったからだ!国の対魔獣防衛の措置である"滞在戦士"として俺も戦線に居た。」
そしてセイニヒは懐から封書を差し出した。
「…これは?」
「ある魔学者の論文と彼の1番の助手の見識と予想、そしてもう一つのこれが実験レポートだ」
「何故お前がこんな物を」
「ダチだったんだよその助手がな今際の際に俺に託した、ローディアンに届けてくれと」
そしてセイニヒは鉄斎と同じ内容をローディアンの皇帝に全てを話した。
そして託された資料はローディアンの魔学も司るイクエス家に渡ったそしてファダール家と共同でその資料の紐解きが始まった。
その内容は恐ろしいものだった。




