異変
その後流閣と鉄斎は修行を終え、
オオアザ国皇帝光圀により招集を受けた。
「久方ぶりだな流閣」
「鉄斎さん、かなり鍛え込みましたね」
「そういうお前こそ、その胸筋周りや腕、太腿、首、が物語る」
「手合わせしますか?」
「その前に謁見だ」
「あっ、あと一週間後に結婚式出席お願いします」
「……ケッコン?…ダレが?」
すると流閣は自分を指差す
「わたしですが」
「えっ…まさかお前さんレナと既に…」
「あはははっ」
(そうかっ!荒業によって発達した筋肉の割に肌がツヤッツヤしてるのは妙だなぁと思ったがそういうわけか!!)
「流閣さん、おめでとうございます」
「そんな他人行儀にしなくてもよろしいのでは」
鉄斎は流閣の肩に手を回し
「まぁ良いさ、独身でいられる日にちも少ないコレ終わったら飲みに行くぞ」
「ハイっ」
そうして午後から皇帝による指令を受理する。
そんな頃大国ではある化物が生まれた。
それは偶然だった。
元は帝国の後天的に魔獣から魔力生成臓器を移植した魔術兵を作る計画の一環で作られた存在であった。
そして選ばれた魔獣種は最も人型に近いフォルムを持ち、魔力量は皆無でありながらそれ以外のトータル的な能力が高くて「長く使用える」それだけの理由で選ばれた。
こちらの世界では恐らく蜂に分類されるようなそんな魔獣、蜂っぽい見た目ながら毒を持たず、魔力を持たず、昆虫系魔獣特有の高い身体能力、高度な社会を築き維持する思考、そんな下級最上位の魔獣
「スペンビー」
そして人権など無い魔獣に実験道具にされ、何体目のスペンビーの中でそれは生まれた。
魔導省所属の魔学者パーラーが執刀する。
「今回の935号には帝国の魔素溜まりから発見された鉱物と新型の魔術式が付与された魔力生成臓器の移植実験を行う。」
開始からおよそ8時間、935号に移植された。
だがいつもの実験結果と違った。
935号はすぐに死んだのだ。
頑丈さが売りだった筈のスペンビーが
「不思議ではあるがまぁ数十例に一度くらいはあるものかな」
パーラーは首を傾げながらも納得した
「そうですよ先生、たかがスペンビーの一体です。とりあえずこいつは廃棄ですね」
助手のケビンが伝える。
「そうだな後は頼んだ。」
そして実験動物廃棄場に捨てられたスペンビーの935号は雌であり、身籠っていたのだ。
誰も見向きもしない実験動物廃棄場にそれは生まれた。
その個体が最初に目にしたのはおびただしいほどの死骸の数である。
周りは死骸だらけ
935号から生まれたスペンビーは、母親以外の周りの死骸を食べ生き延びた。
元来スペンビーという魔物は自分をスペンビー社会における1パーツという認識のもと生まれ死んだ同種が死んだらそれは廃棄であり、なんであれば食糧であった。
だがこの個体は母親の死んだ身体を抱き上げ丁寧に扱い廃棄場から逃げ出し他の実験魔獣達の元へ向かった。
その個体は生まれてすぐに悟った。
いや悟らされた。
この世界の有り様を
体内の魔石がその個体が生まれる直前まで見せたのだ。
「ぎーっ…ぎー、か…わ、…はなつかはや、はなやかは…らまに…やぬさそ…やた、あかさたなはまやら…わ、いか…なさわはし…」
「ギーラ」
「ギギキギキーラ」
そう呟き帝国の生んだ化け物は闇に消えた。
実験の魔獣とパーラー博士を連れ去って。




