百人組手
鉄斎が仙力の祠で発狂していた頃
昼間、流閣は武閣流五段以上の猛者と一日中組手をしていた。
早朝六時から始まるこの荒業は今回の相手で36人目になっていた。
「せいっ!」
相手は基本通りの右の貫手を放ってきた。
「ふっつ」
流閣は左腕を被せて抑える。
(やはり段位が上がる事に基本をしっかりと抑えた突きを放ってくる)
流閣の対戦相手のこの男は六段
有段者に指導する事が出来る段位である。
流閣は抑えた左を外して反撃…
(―――……抜けない?)
六段の男は自身の右の貫手を抑えた流閣の左手の軌道に合わせて右手首を外側に返し右の踏み込んでいた脚を退いて流閣の左手を掴んでいた腕ごと引き崩してそして
この流れに鉄斎の表情が凍る
(これは鉄斎さんの唸り腕?)
「ハっ!!」
距離は短けれど体重移動によって充分な威力を持った縦拳が流閣の水月に刺さる。
基本を抑えてるであろう黒帯持ち達に指導する
これの意味する所は、プラスして技を
だが流閣はその縦拳に対し右肘と右膝で挟んで拳を寸断。
「つぅ!!」
「それまで!!」
お互いに礼をして
「見事な手わざでした」
「いえいえ、詰ませたと思いましたがあの状況で挟み拒まれるとは思いませんでした。本日まだまだ後は続きますが、頑張ってください」
「ありがとうございます」
そのまま次の対戦相手に変わる。
流閣は次の対戦相手には見覚えがあった。
(へぇ彼か)
流閣の対戦相手 武閣流六段 俊樹であった。
俊樹は流閣と同期で流閣と組んで修行した事もある。
彼は天才タイプではなく努力家、詰まる所は秀才タイプで流閣が自分から檻に入った頃も修練を重ね26歳で六段という武閣流でも屈指の成長度合いをみせる。
「久し振りにだね流閣君」
「うん、俊樹クン」
「お手柔らかに頼むよ」
「うん」
俊樹が武閣流の基礎技の正拳突きを型通りに流閣の正中線に向かって放つ。
流閣はその初撃を受ける。
「以前よりも踏み込みが鋭いね俊樹君」
「君が牢に自主的に入った後も愚直に積み重ねてきた基礎技だよ」
俊樹はそのまま基本の型通りに蹴り技を放つ
流閣はその蹴りを防ぐが響く
基本の型通り―それの意味する事はその技にとって最も効率的であるという事である。
俊樹が六段の中で最も基礎通りこれに比重を置いた。
(そう、みんなが尖閣先生の破槍に憧れたけど…僕は武閣流の洗練された型に憧れたんだ!!)
そして俊樹の攻撃を受けながら流閣は思う。
(俊樹君…いつも言っていたもんね…綺麗な型がいいって)
そして長い攻防時間にしておよそ3分と36秒の中流閣と俊樹の技が同時に重なる場面になる
2人が同時に繰り出したのは右の胴回し回転蹴り
お互いの狙いは左肩である
((先に届いた方がこの組手勝つ!!))
衝撃の後、片方が崩れ落ち
立っていたのは―
「本当に強くなったね…俊樹君…僕が牢に入っても愚直なまでに積み重ねて来たんだね……でも…僕にも見えた物がある。」
「勝負有り!!」
お互いに礼をし健闘をたたえあい次の組手へ移っていく




