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その1 挨拶はしっかりと

卵焼きを作る上で最も気をつけなければならないのは火加減である。特に我が家の卵焼きは砂糖と醤油で甘く味付けをするために少し油断するとすぐに焦げ付いてしまう。

卵焼きを焼くのも慣れてきたなぁ、としみじみ思いながら焼き上がった卵焼きを包丁ではなくフライ返しを使って5等分にする。

「パパ、おはよう」

我が家のお姫様がお目覚めになったようだ。

「おう、起きたか」

俺は卵焼きを皿に盛り付け、洗ったミニトマトとレタスを添える。

「パパ!」

「・・・何?」

掛けてあるタオルで手を拭いてから振り返ると娘の夕月が腰に手を当てて俺を見上げていた。そして、

「さきもりけのかくん!」と大きな声を出す。

俺はしまったと思いつつ娘の言葉を普段のように繰り返す。

「崎守家の家訓!」

「あいさつはしっかりと」

「挨拶はしっかりと」

そう、これが崎守家の家訓。

「おはよう、夕月」

「おはよう、パパ」

夕月は「これでよし」というようにニカッと笑う。俺も釣られて笑った。

「さて、じゃあ、ママにも挨拶しに行こうか」

「うん」と頷いてから居間の方へと駆けていく。俺はできた朝食の皿を持って夕月の後を追う。

夕月は小さな棚の上の写真の前で正座していた。俺も朝食を机の上に並べてから隣に腰を下ろす。

「おはよう、ママ」

「おはよう、千世」

俺と夕月は写真に向けて挨拶をした。


朝食を食べ、支度をしてから家を出る。この際「いってきます」を忘れると先程の繰り返しが始まる。

「「いってきます」」

俺と夕月は自宅と写真に映る家族に向けて挨拶をしてドアを閉めた。


アパートの駐輪場から自転車を出し後ろの椅子に夕月を座らせる。どうでもいいが、こういう自転車を「子供乗せ自転車」というらしい。そのまんまだ。

まずは仕事場に向かう前に夕月を幼稚園に連れていかなければならない。

俺が自転車に跨がると後ろの夕月が「しゅっぱーつ」と言ったので「おー」と返しながらゆっくりこぎ始めた。


「おはようございます!」

俺はすれ違う人たちに挨拶をしながら目的地に向かう。後ろの夕月もすれ違う人たちに挨拶をする。挨拶をされた人の反応は笑顔で返してくれたり驚いたような顔をしたりと様々だ。

ここでもそうだ。挨拶をしないと今朝のように叱られてしまう。5才児に叱られる親というのもかなり情けない話だが、崎守家の家訓は親だろうと子だろうと例外なく適用されるのだ。


幼稚園の門の前で自転車を止め、夕月を下ろす。

そこでは幼稚園の先生が待っていた。

「先生、おはよう!」と夕月が大きな声で挨拶すると先生も

「おはよう、夕月ちゃん」と返してくれる。

俺も「おはようございます」と会釈すると先生は「おはようございます」と丁寧にお辞儀を返してくれた。

その後、俺はいつものように夕月の前にしゃがんで右手を出す。

「いってらっしゃい、夕月」

「いってきます、パパ」

夕月は俺の右手にハイタッチをした。


それから、先生に「よろしくお願いします」と行ってから自転車に乗って職場に向かう。夕月がいない分、少しスピードを出す。


「おはようございます!」仕事場に着くとつい癖で結構大きな声で挨拶をしてしまった。良いことなんだが、

「おう、崎守元気いいな」と先輩に笑われるとすこし気恥ずかしくなってしまった。



夕方、仕事を終え夕月を迎えに行く。

今朝のように幼稚園の門の前で自転車を止めると俺を発見した夕月が幼稚園の中から駆けてきた。幼稚園の先生も少し慌てて夕月の後を追いかけてくる。

夕月は「パパ!」と言って俺に抱きついてきた。「あまり走ると危ないよ」と言いながら抱き上げる。

「今日もありがとうございました。何か変わったことはありませんでしたか?」

と夕月の後を追ってきた先生に尋ねると

「いえいえ、夕月ちゃんはしっかりしているので助かります。今日も片付けのお手伝いを1番にやってくれました」

「そうですか。偉いな夕月」

褒めると、抱き上げている夕月がふふんと胸を張った。


「それでは、先生、さようなら。ほら、夕月も」

「先生、さようなら」夕月が先生に手を振る。

「はい。さようなら」先生も手を振りかえしてくれた。

夕月を行きと同じように自転車の後ろに乗せ、家路についた。

帰りももちろんすれ違う人たちへの挨拶を忘れてはいけない。



夕食を食べ終え、夕月を風呂に入れた。

時刻は20時頃。夕月はそろそろ眠くなっているみたいで少しうとうととしていた。

「もう寝ようか?」と聞くと夕月はこくんと頷く。

俺は夕月の頭に手を乗せてなるべく優しい声で

「夕月、崎守家の家訓、挨拶はしっかりとだよ」

「うん。おやすみ、パパ」

その後夕月を抱き抱え棚の上の写真の前まで連れていく。

「おやすみ、ママ」

夕月は写真の中で笑うママにもおやすみの挨拶をした。俺も続けて写真に向かっておやすみを言い、夕月を寝室に連れていき布団に横たえた。

「おやすみ、夕月」

初投稿になります。今回は完全に2人だけの普通の日常でしたが、これから2人の日常を描く中で夕月の母のことや他の登場人物にも触れていきます。ゆっくりとにはなると思いますが、執筆を続けていきます。よろしくお願いします。

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