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「志乃」


 僕は一人で廊下の先を歩いていた志乃を見つけ声を掛けた。振り向くとふわりと髪がCMの女優のようになびき、大きな瞳が僕を見つけた。


「あら、まさまさ。どしたの?」


 にこっと微笑みながら、志乃は僕の方に近寄ってきた。


「一人で何してんの?」

「べっつにー」


 志乃のべっつにーは口癖で、その言葉でこちらの質問が片づけられてしまう事も多い。

 まあいいと思いながら、僕は志乃の手をちらりと見る。唐突に僕の中で止めどない衝動が沸き起こり、僕は慌てて自分を押し留める。

 ダメだ。今そんな事をしても意味がない。それどころか全てが台無しになってしまう。


「あ、そうだ。今週さ皆でTRPいかない?」

「皆って誰とよ?」

「3バカ」

「え、3バカの中に私だけ放り込むつもり!? 馬鹿言わないでよ! 絶対やだよ!」


 TRPとはいわゆる大型アミューズメント施設の事だ。連日多くの人達で賑わう人気の場所だ。

 志乃は嫌だと言いながらもその拒絶は別にあの三人を嫌っているからという訳ではない。


「そんなわけないだろ。ほら、小春とかいつものメンツで」

「だよねー。いいよー全然。でもまさからそんな事言ってくるなんて意外」

「そうかな?」


 急にずいっと志乃が顔を近付てきた。細めた目は、僕の中から真意を抜き取ろうとしているようだった。


「まさまさ、誰か狙ってるんでしょ?」

「は?」


 志乃のあまりにも遠慮のない問いかけに、僕は一瞬本気でどきりとする。


「あ、図星? やだー! 誰よ誰よ?」

「違うって」

「照れなさんなって。ほら言ってみなさいよ」

「だから、違うって」


 言いながらも僕の心臓は鼓動をどくどくと速めていた。

 そんな事、言える訳がない。

 君だけには。


「達雄がさ」

「ん? たっくん?」

「そう。あいつさ、どうも気があるらしいんだよね」

「え、マジ!? 誰狙いよ」

「小春ちゃん」

「うっそー!」


 志乃は驚いて大きな瞳を更に見開いた。

 





「俺は小春ちゃんだな」


 達雄のこの発言には僕を含め、寛人と保之も相当驚いた。

 どの女子が好きかという話題はそれだけでも妙にテンションが上がるものだが、その中において達雄の告白は僕達にかなりの衝撃を与えた。


「お前、そんな事今まで一度も言ってなかったじゃん!」

「いやー、これがマジなんですよー」


 と照れくさそうに耳たぶをかく達雄の様子からその気持ちがいかにまっすぐかという事が窺えた。


「俺も最初はなんとも思ってなかったんだけどさ、なんかこう話してると波長が合うっていうの? すんげえ落ち着くんですよねー」


 へえーと僕は声を漏らした。皆と同様、僕も達雄の気持ちに全く気付けなかった。小春と言えば、丸めの顔立ちとおっとりした雰囲気そのままの喋り口調で、確かに癒しを与える存在と言える。だが特段二人が仲良さげに話している場面があったかと思えば僕にはあまりその印象はなかったが、達雄は僕らの知らいない内に彼女にすっかり惹かれていったようだ。







「へーそっかそっかー」

「と、いう事があったんだ」

「ちょっと何よ。キュンキュンしてきちゃうじゃない」

「ところで小春ちゃんって好きな人いるの?」

「どうだろ? でもたっくんの評価は悪くないと思う。話してておもしろいーって言ってたし」

「ほんと? じゃあ割とあいつ脈ありじゃん」

「分かんないけどねー」


 そう言いながらも志乃にやにやとした表情には大いに二人に可能性がある事を物語っているように僕には思えた。


「まあつまり、ここで二人の距離をぐっと縮めてやろうと」

「そう言う事。頼むよ」

「お安い御用」

「今度寛人達と作戦会議するからそのつもりで」

「はいはーい」


 約束をとりつけた僕はとりあえずほっと息をついた。

 今回のイベントは達雄と小春の為にある。

というのは僕達からすれば隠れ蓑で、本当の目的は全く別の所にある。


『作戦開始。よろしく』


 僕はスマホを取り出し、LINEでメッセージを送った。


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