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 寛人とまさ君が来てくれた時は本当に驚いた。でも最初扉を開く勇気が出なかった。扉を開けただけで、外気から志乃という外的も一緒に空気と混じってが入り込んで来る、そんな気がしたから。でも。


「ゆき、僕が助けるから」


 まさ君。

 頼りなさそうに見えて、私をいつでも守ってくれるヒーロー。

 私はその声で、扉を開ける決心をした。



 



 私には昔から不思議な力があった。

 昔、まさ君の掌の上で蟻が死んでしまった事があった。さっきまで元気よく走っていた蟻が、嘘みたいにぴたりと止まった。まさ君もすごくびっくりしてた。

 まさ君になんだろうこれって聞いたら、「止まれって思ったら止まったんだ」って言った。だから私は、あーまさ君にはそういう不思議な力があるんだなって、そう思った。

 でも後日、まさ君は一人で同じ事を試してみたがうまくいかなかったらしい。


「偶然だったのかな」


 まさ君は首を傾げながらそう言った。

 

 ――私なら出来るかな?

 

 ふとそんな事を思い、手の上にありを乗せてみた。あの時と同じように、蟻はせわしなく走り回った。私はそれをじっと見つめ、そして強く念じた。


 ――止まれ。


 どうせ何も起きない。しかしその予想は大きく外れ、蟻はぴたりと動きを止めた。

 これは、どういう事なのか。私は戸惑ったが、やがて一つの結論に辿り着いた。

 

 ――まさか……私?


 まさ君の力だと思っていたものは、私の力だったのだ。

 じゃあ何故まさ君が力を使えたのか。推測でしかなかったが、あの日蟻を触る前、私はまさ君と手を繋いで歩いていた。

 何かの拍子に、私の力が一時的にまさ君に渡ってしまったのだ。おそらくきっとそういう事だ。

 

 まさ君にそれを話すと、じゃあもう一度実験してみようと私達は手を繋いだ。あの頃は何の照れもなく、まさ君の手を握れた。

 そして、実験は成功した。

 でもお互い、成功を喜んだりする事はしなかった。

 黙って死んでしまった蟻を二人で見つめていたが、やがてまさ君は普段見せない険しい顔をしてこう言った。


「これは、僕とゆきだけの秘密にしよう」


 私はその言葉に頷いて見せた。


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