第六話
とりあえず、これで寝床の確保と、収入源は確保できた。
「シア。これからよろしく。」
「とりあえず、ご飯食べに行こう。なんだか疲れた。」
美味しいご飯が食べられることを期待しよう。必要ないから服を着ないから、栄養さえあれば死なないから美味しくないに、ならないといいな。
「美味しいものでも食べないと、やってられないわ。トシ、あなたも好きな物頼みなさい。お金ならあるから。」
道具屋で僕が帯を選んでもらっている間に、ライターを高値で売り払ってしまったそうだ。3か月分の稼ぎくらいにはなったらしく、しばらく働かないと言っていた。
「そうは言われても………読めない。」
日本語を話しているからと言って、文字まで一緒だとは限らない。いや、もしかしたら日本語自体を話していなくて、僕の脳味噌が日本語だと理解しているだけかもしれない。壁にかかっているメニューを見て初めて気が付いた。
「じゃあ、おじさん!お酒と…………左から4つ目まで!」
豪快過ぎないだろうか?何を頼んだのか聞いても教えてくれないし。
「美味しいでしょ。」
よくわからない肉料理だが確かに美味い。何かの内臓かな?柔らかくていいね。
「えっと今食べているのが、牛のソテーね。で、さっき食べていたのは豚の煮物。あれが牛の串焼き。羊の脳味噌のフライ。元気になるわよ。」
「………………え?」
「安くて美味しい。その上、物凄く元気になっちゃうわよ。」
シアは、箸の止まっている僕を尻目に、ぱくぱくと料理を食べ続ける。
箸が止まったままの僕とは対照的に、箸が止まらないシアはもう2皿追加で注文し、綺麗に食べきった。
「どうしたの?食欲なかったの?」
「あー。まぁ、そんなところ。」
味付けとかの好みが違うくらいは覚悟していた。でも、シアの好みがそんなニッチな部位が好きだとは予想していなかった。
「一回、家によって荷物置いたら、生活用品とか買いに行かないとね。」
ご飯を食べた後、シアは汁が飛んだし暑いといって、滝シャワーを浴びに行ってしまった。
「ちょっと待っててね。飛んだ汁を流してくるから。」
そういって、公衆トイレに入り、すぐに体を拭きながら出てきた。
「あー。さっぱりした。じゃあ、一回帰るわよ。」
シアは2DKのアパートに住んでいるそうだ。その内の一部屋を僕に貸してくれるという。しかし、物置代わりに使っていたような部屋だそうで、毛布の一枚もないから買いに行かなければならない。
「ようこそ我が家へ。と言いたいけど、本当にウチに置いてあげることになるとは思わなかったわ。領主様のところに空きができたらさっさと出て行ってよね。」
「うん。わかってるって。」
「奥の部屋が私の部屋だから、隣のこっちの部屋を使って。トイレはそこ。お風呂は外で銭湯ね。さ、買い物行くわよ。」
何所の世界の女性も、やはり買い物が好きなようだ。毛布一枚を買うのにあちこち振り回され。枕を忘れたと言ってまた振り回された。
「夕飯には期待しているわよ。」
「期待されても、期待した味になるかはわからないよ?」
昼に食べたゲテモノ系料理の味付けからすると、こちらの世界の人間も、味の好みは似ているだろう。だが、必要な調味料あるかわからないので、味見しながら試行錯誤することになるかもしれない。一番の問題はシアの好きな部位の調理方法なんて知らない事だ。
「それに脳味噌なんて料理したことないよ?」
「脳味噌なんて普通のお肉屋さんには売ってないわよ?」
やはり、ああいった部位は普通捨ててしまうような部位だった。ただ同然の肉を使っているから、あの店は特に安いそうだ。つまり僕が料理するのは、普通の肉屋に売っている、普通の肉でいいという事だ。
「あ、でも。屠殺場までいったらただで分けてもらえるから、たまにはよろしくね?」