第五話
領主の館に向かう途中、ある事に気が付いた。下の毛を剃りあげている人と、整えてはいるが剃りあげてはいない人、全く手を加えていないのか伸ばしほうだいの人が居る。シアは剃りあげているようでつるりとしている。なぜなのか聞いてみた。
「なんで、そこがぼうぼうの人とツルツルの人がいるの?」
「なんでって…………おしゃれ?男の人の髭と一緒よ。私はツルツルの方が可愛いと思うからツルツルにしているけど、ちょこんと残すのが可愛いって人もいるし、短くしてハートにしたり、逆にタテガミみたいに伸ばす人もいるわ。ナチュラルなのは大概、願掛けをしている人ね。人それぞれよ。」
いちいちこんな風だと教えてくれる。
町の中心部に領主の館はあった。周囲の2倍くらいの大きさで、装飾などもそれほど豪華ではない。
「ここが領主さまの館だよ。領主さまはそんなに礼儀作法には煩くないけど、それなりには敬意を払ってよ。」
領主の前に出たら、まずお辞儀をする。言葉遣いは丁寧に。あとは困ったら聞くように言われた。節度を持って行動すればいいようだ。
「領主様。面白そうな男が居たので連れてまいりました。自称ですが、異世界から来たと申しております。よろしければ食客として養ってやってはいただけませんでしょうか?」
領主は普通のオッサンだった。当然全裸だ。うん。オッサンの後ろに控えている美人さんの方を見ていよう。
「初めまして。佐竹敏明と申します。」
「やぁどうも。初めまして。シアちゃんはあったことがあるね。うんうん。それでサタケ君はどういったことができるのかな?何か特技があるなら就職先の斡旋とかもできるんだけど。」
「はい。私の生れた国は面白いお話がたくさんございました。ですので、領主様に面白い話をして差し上げることができます。他には、…………そうですね。異世界からの知識を披露することもできるでしょう。」
自分で話を考えるのは無理でも。散々、小説やマンガを読み漁ったんだから、そのあらすじを話すことはできる。異世界だから著作権とか関係ないよね。後でシアに聞いたら、あの領主様と話をしたことはあるけれど、もう5年は前の話だそうだ。異常な記憶力を持っているのか、魔法なのかは分からないけど、役所で書類になるような事は何でも知っているらしい。
「面白い話か。それはいいね。でも、残念な事に置いてあげたいけど、部屋が空いてないんだ。だから、シアちゃんの家からの通いの食客って事でいいかな?もちろんシアちゃんにお礼はするし、サタケ君にもお小遣いくらいはあげられるけどどうかな?時々ここにきて話し相手とかをしてくれればいいからさ。部屋が空いたら移ってきてくれてもいいし。それでどうかな?」
「僕は構いませんが、シアがどうか…………」
「だってさ。シアちゃんはどうかな?サタケ君も料理とかできるでしょ?」
「一応できますが………」
掃除洗濯料理は多少できるがそれほど得意なわけではない。食客にしてもらえなかったら置いてくれると言っていたし、たぶんおいてくれるよね?
「わかりました。家に置いてあげます。じゃあトシ?掃除洗濯料理、全部よろしくね?」
こうして僕の異世界での主夫業が始まった。