第二話
「シア?僕無一文なんだけど?通行料とか払えないよ?」
悲しいことに、そこら辺のガキにも劣る経済状況である。しかも、稼ぐあてすらない。
「ライター貰ったし、私が出しておくわ。」
それよりも、そもそも入れるのかが心配だ。シアによると、今の僕が着ている服は相当変わっているそうだ。つまり、何所に出しても恥ずかしくない立派な不審者様というわけだ。さすがにこれでは心配だ。シアは入れるだろうが、僕は門番に留められるかもしれない。そういっていると、シアが教えてくれた。
「たぶん大丈夫よ。血塗れだとか、ヤバそうな人に追いかけられているとか、よっぽどじゃないと入れてもらえないなんてないから。たぶんね。たぶん。」
そのたぶんが心配なんだけどね。
町を囲う壁は高さが5メートルくらいの立派な物だ。そこに門が口をあけ、その前には衛兵かな?鎧に身を固めたオッサン達がたむろしている。
「おーい。真面目に仕事しろー。」
シアが叫ぶが何時もの事なのだろう。
「シアちゃん。おかえり。で、だれ?彼氏?シアちゃんもそんなお年頃かぁ。性病とか、望まない妊娠とか気を付けなよ?一生モノの問題になっちゃうからね。」
「これが彼氏の訳ないじゃない。もっとかっこいいのを引っ掛けますよーだ。」
「おじさんみたいなのとかかなぁ?」
「おじさん鏡見たことないの?あ、見たら鏡が割れちゃうのか。」
どちらも口が悪すぎないか?特にシア。性格が変わっているような気がする。もしこっちが素なら気を付けておこう。
「で、誰なの?」
「自称異世界から来た人。」
やっと思い出したのかオッサンが僕に話しかけてきた。そしてシア。自称はいらない。こちらでは不思議なアイテムのライターをあげたじゃないか。
「はぁ?コンーニチハ。アナターダレ?ナニーシニキタ?」
「オッサン何してるの?」
「いや、異世界人なんだろ?言葉が通じるのかな?と思って。」
「あんたは変な外国人か!」
そのころ僕は、漫才コンビのような掛け合いをしている二人を、他の衛兵たちと眺めながら一緒に爆笑していた。
「で、誰?」
シアとの漫才を切り上げたオッサンが聞いてきた。
「サタケトシアキです。シアの言った通り、異世界から来ました。」
「はぁ、異世界からね。」
そういうとオッサンは、シアの方を振り向いた。
「シアちゃん。こいつ大丈夫?頭とか強く打ったりした?」
「そんなこと知らないわよ。とりあえず面白い話とかできそうだから、領主様に売っちゃおうと思って連れてきただけなんだから。早く通してよ。脳味噌弱そうだし危険人物じゃないでしょ?」
「ま、いいか。通って良し。シアちゃんまたねー。」
こうして何とか、市壁を越えることができた。売るって何?
「あー、面倒くさかった。今度から見物料でも取ろうかしら。」
壁は厚みが10メートルほどもある分厚いものだったが、下半分は刳り抜かれて店舗や倉庫のスペースになっているそうだ。門の通路も、壁の内側の方は幅が広がって小部屋になっていた。
「脱いだら、ギルドによって領主様の館に行くわよ。面白い話考えておかないと、路頭に迷うことになるわよ?」
その時はシアの家に転がり込もう。そう思っていると、シアはベンチに座ってすね当て代わりのゲートルと、アームガードの代用なのか左腕に巻いていた布を外した。なお、シアは弓を使うが、大きさ的に邪魔にはならないのだろう、胸当ては付けていない。
「その時はシアの家においてよ。料理も少しはできるからさ。」
「知らないわよ。勝手に野垂れ死になさい。」
そういいながら鞘ごと鉈を抜き、まるで大工の腰袋のような袋のついた帯を解いた。あれ、便利そうだな。金ができたら僕も買おう。
「まぁ、食い扶持を自分で稼いで、掃除洗濯料理をするのなら少しの間くらい、置いてあげてもいいわよ?」
そういいながらズボンを下ろし、シャツも脱いでしまった。