透き通る冬の夜明け前にて、始発、君と待つ
僕らは、始発を待っていた。
僕が彼女と共にこの旅を計画したのは随分と前からだった。
その頃はまだ暖かく、この旅ももう少しゆとりのある、前向きなものだっただろう。
しかし、今のこの旅は予定と大きく違っていた。今の季節はとても冷たい風の吹く冬で、雪が積もっている。なにより、決してこの旅が前向きなものではないのだ。
この旅は、『家出』なのだ。
僕らは、始発を待っていた。
彼女の横顔をちらりと覗いて見るが、マフラーで顔を半分隠し、そして俯いてしまっているため、何を考えているのかわからなかった。
お互いに、吐く息はとても白く、まるで汽車の吐く煙のようだった。
僕はと言えば、誰からの連絡がある訳でもないのに携帯電話を確認したりする。電池の残りが減るだけだから、止めればいいのに。
お互いに、どこまでも無言だった。
果して彼女は、本当はどう思っているのだろうか。ココアを美味しそうに飲む彼女を眺め考えた。後悔は、していないのだろうか。付き合ってもいない僕との家出なんて、と。
しかし、今の僕にそれを聞く程の勇気は残っていなかった。
僕らは、始発を待っていた。
時刻はもうすぐ、始発が来る十分前。
「これ、飲む?」
僕は彼女の好物であるココアを自動販売機で購入した。僕は、紅茶だ。
「ありがとう」
そう言って彼女はココアを受け取り、手袋外して蓋を開ける。手袋が外れたその指は、雪のようにとても白く滑らかだった。その指先を温めるかのように、ココアの缶を包んだ。そこからジワリと桃色に変わる指先を見て、僕は安堵を覚えた。
僕も手袋をはずし蓋を開ける。一口飲むと体全体が十分に冷え切っていたことがわかった。
僕らは、始発を待っていた。
普段利用して登校する筈のホームは、普段と違う顔をしているように見えた。
まだ空には星が沢山輝いており、ここは空気が澄んでいるのだと再確認した。今から向かう所ではきっと、ここより空気が淀みどこもかしこも眩しいせいで、星が全くと言っていい程見えないのだろう。この田舎で育ち、出た事の無かった僕にはよく解らないことだったが、都会からやって来た彼女が言うのだからそうなのだろう。
なんだか、とても寂しくなる。見飽きた筈の風景をこれからは、見る事が出来なくなってしまうのだ。
それでも、僕らは二人きりで始発を待つ。
今日、二人で逃げるのだ。




