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夜と、巡る冬  作者: 罰歌
1/7

snow



 雪が降ってきていた。最初は、見間違いかと思った。けれど、つぎつぎと降ってくるそれは、見間違うことも無く雪だった。

 私は窓越しにその雪を眺めていた。

 明日、雪は積もるのだろうか。積もったら、辺り一面銀世界になるのだろうか。そんな事を考えていた。本当ならば明日の通勤の電車の事とか、飲み会の事とか、色々考えなくてはいけない筈なのに。

 そっと窓の鍵を開けて、外へと手を伸ばす。たくさん降っている筈なのに、なかなか指先には降ってこない。ようやくそれに触れたと思えば、すぐに溶けてしまった。指先に出来た雫が零れた。

 私は部屋がずいぶんと寒くなっている事に気づいて、慌てて窓を閉めた。ストーブの炎がさっきより勢いを増して、ゴウゴウと燃えていた。少し外に手を伸ばしただけなのに、お風呂に入った後の私の体は、すっかり冷めてしまった。


 ストーブの前に座り、淹れたコーヒーを飲みながら、最後に雪を見たのはいつだったのだろうかと思い出していた。

 けれど、なにひとつ思い出す事は出来なかった。それはまるで、私の中にまで雪が降ってきて、積もり、蓋をしてしまったかのようだった。

 それなのに、どこか虚しさを覚えるのはなぜだろう。きっと私の雪の中で、小さなガラス片のような記憶がいくつも残っているからなのだろうか。そしてそれを、気付けないまま足の裏で、そろりと撫でているからなのだろうか。


 飲み終えたコーヒーのコップを洗い、歯を磨き、ぼんやりとしながら布団に潜り込む。

 ちらりと窓をもう一度覗いて見ても、雪はまだ降っていた。


「おやすみなさい」


 呟いたそんな一言も、きっと雪に埋まってしまうのだろう。



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