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人形姫魔王物語  作者: ムロヤ
一章 魔王誕生?
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侵入者

 お風呂から上がり食事を終えた私は、自分の部屋にミリーゼとべんけいを呼んだ。


「どうかしましたか?」


 ミリーゼは部屋に入るなり私を寝台の前に座らせ、丁寧な手付きで私の髪に櫛を通してくれている。

 そしてその様子をべんけいは扉の横の壁に背を預けながら観察していた。

 私はべんけいの視線に気が付いていたので、彼にそう尋ねてみた。


「いや……こうして関節部分を見ると本当に人形なんだと思ってな。そういう関節って何ていうんだったかな?」


「これですか? これは球体関節です。文字通り関節部に球体があるので、稼働域が大きいことが特徴です。ですがそんなに珍しい物でもありませんよ?」


「や~ん。べんけいのエッチ~。いくらナイトドレス姿のエリスリーゼが可愛いからって、ジロジロ見るのはマナー違反だとお姉さんは思うな~」


「いや十分に珍しいだろ。元の世界でだって見たことないぞ」


 べんけいはミリーゼを無視して私にそう言った。


「あれ~? お姉さんは無視?」


「そうですか。ですがやはりじっと見られているのは落ち着きません」


「そいつは悪かったな。それで? なんで俺まで呼ばれたんだ?」


 べんけいは口調こそ荒かったが、素直に頭を下げて謝罪をしてきた。

 そのとき獣耳もペタンと倒れていたので、本当に悪いと思っているのだと思う。


「それなのですが……お二人は今日の戦闘はどうでしたか?」


「ん~お姉さんは戦闘が始まってすぐに体の違和感がなくなったかな~」


「俺は五感の鋭さに一気に慣れた。あの時なら後ろから攻撃されても見ないで避けられたと思うぞ」


 やはりあの時の二人も私と同じように、体の感覚が一気に馴染んでいたようだ。


「そうですか。私もあの時に体が馴染んできました。理由の方はよくわかりませんが」


「なぞだよね~」


「いや、そうでもないぞ?」


 私とミリーゼが首を傾げていると、べんけいだけは何か予想が付いているようだった。


「俺はこの体になって感覚が鋭くなったから、二人よりも体が馴染んでいく感覚がはっきりしてた。それで何となくだが分かった」


「「それは?」」


 私とミリーゼは身を乗り出すようにべんけいに質問をした。


「チュートリアル」


「「チュートリアル?」」


「ああ。俺は初心者といろいろ接してたからよく見る機会があったから覚えてるんだが、チュートリアルって最初は体の動かし方で次が会話、そして戦闘やスキルの使い方だったろ? それをやっていくとだんだんVRのアバターの動かし方に慣れていった。今の状況で体が一気に馴染んだのはそういうことじゃないのか?」


 言われてみればその通りだった。

 チュートリアルなんて相当昔のことだったので覚えていなかったが、たしかに体が馴染んでいったときの行動の順番はチュートリアル(あれ)と同じだったと思う。

 ミリーゼも納得したのか、感心した表情でべんけいを見ていた。


「それでは今の私たちはチュートリアルを終えたところ、ということですね?」


「たぶんな」


「チュートリアルとか懐かしいな~」


 何にしても体の違和感がなくなったのだから喜ばしいことだった。

 

「それでは全員が完全に今の体に馴染んだという結論でよろしいですね。では本題に入りましょう」


 そう言うとミリーゼは私の髪から手を放し私の正面へと回り、べんけいは背中を壁から放し姿勢を正した。


「会議の時には当面の目標だけを伝えましたが、私にはやりたいことがあります」


 私はそこでいったん言葉を切り、一度深呼吸をしました。


「……私は真の魔王になりたいのです」


「「……は?」」


 私が言った言葉が理解できないといった表情で、べんけいとミリーゼが呆けた顔をしている。


「なんですか? その顔は? ようは世界征服がしたいのです。そしてそのあとに大魔王と名乗りたいのです」


 握り拳を作って二人に自分の意気込みを伝えたが、二人の反応はあまり良くなかった。

 

「いや~お姉さんもさすがにそう言うとは予想外かな~」


「俺は完全に予想外だった」


 ミリーゼもべんけいも体を震わせながらそう言った。


「そんなに変でしょうか?」


「いや~、ぷぷっ、お、お姉さんは良いと思うな~。夢はでっかくて言うしね~。ぷぷぷっ決して子供っぽいなんて思って……ぷぷっ」


「くくっ、いや、そうだな。向こうでの常識なんて今は関係ないもんな。くくくっ良いと思うぞ」


 二人は笑いを堪えていたが、堪えきれなくなり私の前に噴き出した。

 そして二人は一度笑いが漏れると、私のことなどお構いなしに大笑いを始めた。


「…………」


 しばらくその状態が続いた。


「あ~笑った~。お姉さん久しぶりに笑ったな~」


「ほんとにな」


「……お二人とも満足そうですね?」


 私は自分でも分かるほど声が硬くなっていた。

 きっと今の私を漫画などで表現すると青筋が立っているだろう。


「あ~ごめんごめん。お姉さん謝るから機嫌直して~。協力もするから」


「悪かったって、別に馬鹿にしたわけじゃない。世界征服なんて夢が有っていいじゃないか。俺も協力するぞ」


「……本当に協力してくれますか? 戦うことも多くなりますよ?」


「この体だとそのくらいしかできないからな。それに今日の戦闘でも、生き物を殺すことに抵抗はなかったから大丈夫だろ」


「お姉さんはあんまり強い敵とは無理かな~? でも生産系は任せておいて!」


 二人の答えに私は自分の頬が緩むのを感じた。

 どうやら私は最初から最高の仲間を見つけることができたようだ。


「それではまず手始めに、私の国を元の姿に戻しましょう。こんな誰もいない町や城では国とは言えませんから」


「了解。これから忙しくなるな」


「お姉さんも頑張るよ~」


 こうして私たち三人の夜の秘密の会議は幕を閉じた。



 昨夜そんなやり取りがあったとは知らないダークエルフたちは、今日からは二手に分かれての作業になった。

 狩組は昨日の戦闘で活躍したものを上から選び、合計20名の集団で今日も狩りへと向かっていった。べんけいは昨日の夜の話を聞いて、今いるダークエルフの中で戦闘スキルの高い者を兵士として育てることにしたようだ。


 もう一組は生産組でこちらはミリーゼが率いている。

 基本的に昨日の戦闘に参加していない者を中心に組まれ、ミリーゼが少しずつ何かしらの生産スキルを覚えさせていく予定だ。

 そしてある程度生産スキルを覚えたところで、町を復興するための店などを担当してもらう計画を立てていた。

 

 二人とも昨日の私の話を聞いた後、自分に今できることを考えて実行してくれているようだ。

 それならば私自身も自分のできることはなんだろうかと考えていた。


「ですが……これしかできることがないというのは情けないことです」


「申し訳ありません。私が鑑定か分析のスキルを持っていないばかりに」


 そう愚痴を零すと、近くにいたロンダルがそれを聞いて頭を下げてくる。


「ロンダルが悪い訳ではありません。今の状況で私にできることがないのは仕方がないことです」


 そして私が今何をしているかというと、今はロンダルと共に宝物庫へと足を運び目録を作成しているところだ。

 べんけいとミリーゼが本格的に働いている中で、私はロンダルが用意したテーブルに紅茶とマカロンを乗せて、ロンダルが持ってくるアイテムに鑑定の魔法を掛けて、それをロンダルが紙に記すという作業を延々と繰り返してる。

 なんだか申し訳なく感じてしまう。


「そう言っていただけると心が軽くなります。それでこれなのですが……」


「それは宝石の原石です。ミリーゼに加工していただくので、ミリーゼ行きです。……あら?」


 その時、私はあるものに気が付いた。


「いかがなさいました?」


「……不思議なことですが、どうやらこの町に何者かが入ってきたようです」


 この城と城下町は私が魔王となった時に支配領域の中枢として建てた物で、この人形の庭(ドールガーデン)内に限り私には町にいる人数がわかる。

 その他にもその人が敵なら赤色で味方なら青色で、未確定では緑色として認識できる。

 そして現在私の知覚には緑色で、数は10人の存在が映し出されている。


 そのことを私が言うと、ロンダルは一瞬驚きの表情を浮かべた。

 

「すぐにミリーゼ様にもご報告して参ります」


 だがその驚きも一瞬で、ロンダルはすぐに冷静な判断を行いミリーゼの元へと向かった。


「お願いします。ミリーゼには東の植物園の近くと伝えてください。私は先に向かいます」


 私はロンダルの背にそう言うと一足先に城を出ることにした。



 城を出て目的の集団のいる方へと移動していく。


「彼らは一体何をしに来たのかしら?」


 私は移動しながらそんなことを考えていた。

 城にある宝が目当てなのかとも思ったが、1000年もの間誰も侵入できなかった城に今さらそんなことを考えるというのも変な話だ。

 ならば何か別の目的があるのかとも考えたが、私にはいまひとつピンとくるものが浮かばない。


「直接訪ねるのが一番ですね」


 結局そう結論付けた時、ちょうどその謎の集団を見つけることができた。


「……あからさまに怪しいですね」


 見つけた集団は全員が黒いフード付きのローブを身に纏い、外見だけでは性別すら分からないようにしている。

 そして周囲を警戒しながら統制の取れた動きで言葉を放つことなく、ハンドサインのみで合図を送り合い徐々に私の方、というよりも城の方へと向かってきた。


「本当に何なんでしょうか?」


 私は民家の屋根の上からその様子を窺っていた。おそらくはスキルか何かで索敵のようなことをしているのだろうが、残念なことに死霊系のモンスターは《霊感》という特殊なスキルがないと、索敵系のスキルで見つけることはできない。

 そのため私はさして隠れているわけでもないのに、彼らは私を見つけることができないでいた。

 

 念のため集団のレベルを見てみると平均が50前後なのだが、その中の一人だけがレベル71という高レベルだった。

 おそらく彼?が隊長なのだろう。


「すいません! 何か御用ですか?」


 私は不意打ちをしようかとも考えたが、万が一戦闘が目的でなかったときのことを考えて、攻撃ではなく声を掛けることにした。


「!!?」


 私が声を掛けると集団は急停止し、隊長以外は瞬時に建物の影や物陰に隠れた。

 その乱れの無い動きに、前にテレビで見たどこかの大学の団体行動を思い出した。


「それで……どういったご用件ですか?」


「……」


「だんまりですか……困りました」


 体はゲーム時代の魔王のものだが、精神は所詮は10代でしかない私には、見るからにその道のプロである彼らから情報を得る術が思い浮かばない。

 ぱっと思いつくことと言えば拷問と言う言葉だが、実際はどんなことをしたらいいのかなどわかるわけがなかった。


「……円」


 私がどうしようかと考えていると、黒ずくめが小声でつぶやいた。どうやら声の感じから隊長らしき人物は男であるようだ。


 そして男の声に反応して、先ほどまで物陰に隠れていた他の者たちが一斉に飛び出し、私を中心に円陣を作り出した。


 シャリンという金属同士の擦れる独特の高い音と共に、全員が一斉に短刀を構えた。


「疾っ!」


 その状態で隊長格の男が鋭く声を上げると、全員が手に持った短刀で私へと切りかかってくる。その攻撃は完全に連携が取れており、一太刀躱しても躱した先にはすでに次の凶刃が私の首目がけて迫り、今度はそれを防ぐとさらに別の凶刃が私の死角から首を狙ってくる。 


「本当によく訓練していますね。ですが……残念なことにそれでは私には届きませんよ?」


 全員に聞こえるように私はそう宣言する。

 そして私は微笑みながら動くことを止めた(・・・)

 突然の予想外の行動に敵たちの間に一瞬動揺が走ったが、すぐにその動揺を消し去り全員が私の首目がけて短刀を振り下ろしてきた。


「《呪縛カースバインド》」


「!?」


 彼らの凶刃が私の首に届く直前、私がそう唱えると彼らの足元から鎖が伸び全身に巻き付いた。

 基本的に魔法スキルは単体と範囲を自分で選択できる。

 単体では威力や成功率が上がり、範囲では威力や成功率は下がるが文字通り集団へと掛けることができる。

 そして今使ったのは範囲版の《呪縛カースバインド》だ。

 《呪縛カースバインド》は拘束系の呪い魔法ではあるが、対象を動けなくするわけではなく、他の呪い魔法と同様に対象に状態異常を及ぼす。

 そして《呪縛カースバインド》によって与えられる状態異常は鈍化だ。

 本来ならば動きが遅くなるだけだが、魔英伝では状態異常には深度という隠しパラメーターがあり深度が深いほど効果が強くなり、それは状態異常を掛けた者の能力と掛けられた者の能力の差によって変わってくる。

 この場合は魔法スキルのため私の魔法攻撃力と、掛けられた者の魔法防御力によって深度は決まる。


「う、動けない!?」

 

「魔法だと!? 詠唱はなかったはずだ!」


 今まで一言も喋らなかった者たちも驚きを口にしていた。

 

「驚きましたか? 私、魔法には自信がありますから」


 私は動きが止まった彼にそうと言って微笑みかけた。

 彼らが動けないのはある意味で必然の結果だ。

 私の魔法攻撃力はゲーム時代、魔王や英雄の中でも最高値となっていた。そのため彼ら程度の魔法防御力では問答無用で最高深度の状態異常となってしまう。

 

「それと私は詠唱無しで魔法が使えます。私の専用スキルで《人形の歌(オルゴール)》と言います」


 《人形の歌(オルゴール)》は私が魔王になった時にもらったスキルで、本来は魔英伝では魔法を使う際は詠唱が必要だが、私はこのスキルによって詠唱無しで魔法を使えるようになった。

 ただ運営に申請する際に、何のリスクも無しでは通らないとメールがあったため、このスキルは詠唱無しで魔法を使った際には、魔力の消費量とクールタイムが増加するという制約が付けられた。 能力にしては制約が緩いのは、一応は魔王の専用スキルのためだ。

 そしてその制約も装備のエンチャントで消すことができ、私をチート状態に押し上げた理由の一つに数えられた。

 本来は教える必要はないのだが、教えたところで私には何のデメリットもないためゲーム時代から名刺代わりに教えている。

 そのため今回も癖で黒ずくめの人たちに教えてしまった。


「あら、ミリーゼが来たようですね。それではお話の続きはお城で致しましょう」


 私は捕獲した彼らを城へと連れ帰ることにした。


 


 


 



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