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人形姫魔王物語  作者: ムロヤ
一章 魔王誕生?
7/37

出発

気が付くとアクセス数が4倍近くに跳ね上がっていました!

(; ・`ω・´)ナン…ダト!?

何事かと思ったら、気が付いたら日刊ランキングに乗っていました。

(・∀・)ニヤニヤ

 会議を終えた翌日、狩りへと出発するための最終確認のために私とミリーゼ、そしてべんけいは昨日の広間へと集まっていた。


「ミリーゼ。昨日頼んでいた武具の作成はどうなりましたか?」


「一応は問題なくできたよ~。とはいっても城に有った素材で、村人のレベルで装備できそうなのは鉄製の剣くらいだったかな。多少エンチャントを付与してあるけど、気休め程度よ」


 そう言ってミリーゼは「これ見本ね」と言いながら、アイテムボックスから一振りの剣を取り出した。

 見た目はオーソドックスな両刃の普通の剣で目立った特徴はないが、しっかりとエンチャントが掛けられている。ゲーム時代に初心者が装備する物としては、破格の性能と言える物だ。


「ただね~、お姉さんはちょっと困ったことに気が付いたのよ」


「……それは五感補正フィードチューナーが失われている件ですね」


 私はミリーゼが何を言いたいのかに確信を持って答えた。昨日の会議が終わってから解散する時に、ミリーゼが部屋を退出しようとしてバランスを崩すのを見た私は、ミリーゼが私と同じでゲーム時代はかなり五感補正フィードチューナーの恩恵を得ていたのではないかと予想していたのだ。


「そうなのよ~。お姉さん昨日部屋に移動するまでで5回も転んじゃってさ~。それで武器を作る時も、自分でも作ろうとしたけど全然だめなのよ~。でね? 結局用意した武器は全部《働く妖精(コロポックル)》に作らせたのよ」


 ミリーゼはガクリと肩を落として言った。


「身長が違うとそんなにバランスが悪いのか」


 そして私たちのやり取りを聞いていたべんけいは、なるほどと言いたげな表情で興味深そうに私たちを見ていた。


「べんけいはどうなのよ~」


「俺は元々このくらいの身長だから問題ない。ただ……この耳が聞こえすぎるせいで、物音なんかに敏感に反応しちまう。あと尻尾って寝るときに意外と邪魔だった」


 べんけいはそう言って頭付いている獣耳を指で触れ、後ろの尻尾を揺らしていた。


「そうですか。それで若干目の下に隈ができているのですね」


「ああ」


 べんけいにも結局は五感補正フィードチューナーがなくなっていることでの弊害があるようだ。


「まあでも武器を振り回したりする分には問題はなかったから安心してくれ。あとは本当の戦闘とゲームの時の違いを体感するくらいだな」


「お姉さんはちょっと心配かな~。元々戦闘向けの種族じゃないから戦闘スキル系もないし、武器で戦わないといけないからね。まあその分はレベルの高さでカバーするしかないか~」


「私は魔法が主力ですので問題ありませんが、いざという時のためにも今回の狩りでこの体に慣れたいと思っております」


 私たちはそれぞれの状態と、今回での戦闘の課題を口にした。


 コンコン


「エリスリーゼ様」


「ロンダルですか。お入りなさい」


 キィィィイ


「失礼いたします」


 私が許可を出すとロンダルは丁寧な所作で扉を開き、一礼をしながら広間へと足を踏み入れた。


「外へ行く者たちの準備は整いましたか?」


「はい。現状で姫様たちに同行できる者、総勢28名がミリーゼ様より賜った装備に身を包み、城の門で待機しております」


「そういえば今さらだが、戦える者が全員城を空けても大丈夫なのか?」


「そのことなら問題ないと思います。私がこの城で目を覚ました時、城と城下町は随分と長い間放置されていたようでしたので、おそらくはここに近づく者はいないのだと思います」


 私はべんけいの心配していることに対して、自分の考えを述べた。もしも人が多少でも出入りしていれば町があれほど荒れていることはなかっただろう。


「それに城は外敵が来ても耐久力が0にならなければ侵入はできません。なので城の中にいる限りは安全だと思います」


「ちなみにお姉さんが造った、この城の耐久力はかなり高いよ~」


「なるほどな。確かに前に戦争に参加した時は、城攻めで城落すのに苦労したな」


 べんけいは私とミリーゼの説明で何かを思い出したのか、城の中が安全だということを理解してくれた。


「そういう訳ですので、ロンダルは城に残る者たちに私たちが戻るまで、城から出ないように伝えてください」


「承りました」


「それでは行きましょうか」


 私は立ち上がり、ミリーゼとべんけいを引き連れ広間を後にした。

 そんな私たちに、ロンダルは「いってらっしゃいませ」と声をかけてきた。



 城を出たところで、門の前にはダークエルフの一団が待機していた。

 その全員がミリーゼの呼び出した《働く妖精(コロポックル)》が作った剣や防具に触れながら、嬉しそうな表情をしていた。

 ダークエルフは元々ゲームでは戦闘や狩りを生業とする種族と言う設定だったためか、いい装備に身を包んでいることが嬉しいのかもしれない。


「そういえば、エリスリーゼは団体戦とか部隊の指揮ってしたことあるのか?」


「いえ、ありません。私は魔王になる前は魔法職での後衛で、魔王になってからも直接部隊を指揮していたことはありませんでした」


「お姉さんもないよ」


「ミリーゼは元々前線には出ないだろ。なら今回の狩りの方法と部隊の指揮は俺に任せてもらえるか? こういった初心者を連れてのレベル上げは結構慣れてるから」


 べんけいはそう言って私に許可を求めてきた。

 ミリーゼの話では初心者の手助けもよくしていたと聞いていた私は、拒否する理由もないのでべんけいの提案を許可することにした。


「構いません。ミリーゼからもべんけいが初心者の助けをしていたと聞いておりますので、今回はあなたに全てお任せします」


「そうか。なら任された」


 べんけいはそう言ってダークエルフの集団の前に出ていった。

 そして全員を視界に収められる位置まで移動する。

 ダークエルフたちは突然現れた獣人に戸惑っているようで、ざわざわとざわめいている。


「ガアアァァァアアア!!!!」


 すると突然べんけいが咆哮を上げた。

 

 そのあまりの突然の行動に私とミリーゼは驚き、体を跳ねさせた。だがそれ以上にべんけいの正面に立っていたダークエルフたちは、驚きのあまり完全に体を硬直させ静まり返ってしまった。


「これから狩りについての説明を始める。まずはこの場にいる全員は俺の指揮下に入ってもらう。そして今回の狩りは集団で行う。これから向かう場所の敵の平均レベルはおよそ30前後だ。俺やミリーゼ、エリスリーゼは別として、この場にいる全員が単独で戦ってもまず勝ち目がない。」


 全員がまだ硬直している中、べんけいが慣れたようにスラスラと説明を始めた。

 今の流れから見て、べんけいにとってはこれがいつものやり方なのかもしれない。


「だが集団で戦うとなれば別だ。一体の敵にこの人数で襲い掛かれば、傷は負うかもしれないが負けることはない。そしてここからが肝心なことだ。今ここには高レベルの存在が三人いる。そして野生のモンスターは、極端にレベル差がある敵からは逃げてしまう。そこでまずは俺がこの場にいる全員を部隊編成で一つの部隊に編成し、その上で部隊スキルの《隠蔽工作ステルスミッション》を使用し、敵から姿を隠しながら接近する。ただこのスキルは移動以外の行動をすると解けてしまい、敵は逃げていってしまうだろう。そこで今見せた俺のスキル《咆哮》を使い、敵の動きを一時的に阻害し、そこを全員で取り囲み一斉に攻撃し、敵を撃破する。以上」


 べんけいはそう言って空中に視線を向けた。

 おそらくは先ほど言った部隊編成をしているのだろう。

 部隊編成はゲーム時代にギルド同士の戦闘のためにあるシステムで、10~100人の間での登録が可能で、部隊に所属すると戦闘での経験値が分配されていく。

 分配は貢献度で変動はするが、それでも個人個人でレベルを上げるよりは効率がいい上に、部隊長のレベルによって補正が付いたはずだ。

 べんけいの初心者の手伝いは昔からこれを使ってやっていたのだろうと、私は確信した。


「何と言いますか……手馴れていますね」


「お姉さんはとってもびっくりした。事前に教えてほしかったな~」


 私とミリーゼはそう言ってお互いの顔を見合った。


「お~い、エリスリーゼ。準備できたぞ」


 そんな私たちのことなど特に気にする様子もなく、べんけいは私にそう報告をしに来た。


「わかりました。それでは出発しましょう」


「べんけい~。次からはお姉さんにも事前に教えてね」


 そんなべんけいにミリーゼは恨めしそうにそう言っているのが聞こえてきた。


「了解。あとミリーゼは知らん。そもそも《咆哮》はレベル差が大きくないと大して効果ないから問題ない」


 べんけいはそれだけ言ってダークエルフの集団へと戻っていった。



「エリスリーゼ」


 城下町を出てしばらく移動した後、戦闘をする前にいったん休憩をしようとのべんけいの提案で休憩していたところ、部隊の先頭にいたはずのべんけいが私たちの所にまで来た。


「何か問題でもありましたか?」


「どしたの~?」


 べんけいが困ったといった表情だったため、私とミリーゼは何か問題が起きたのかと考えていた。


「あ~、問題っていえばそうなんだが……出てこい」


 後ろに向かってべんけいがそう言うと、彼の影に隠れて見えなかったがそこにはリジュとレドルの姿があった。


「あら、リジュ。それにレドルも。二人がどうかしましたか?」


「いや、昨日の会議の後で俺の方から言ったんだ。リジュのレベルだと低すぎるから今回の狩りには連れて行かないと。だけどどこぞの馬鹿が男物の服や装備を着せて、今回の狩りに紛れ込ませていた」


 べんけいはどこか怒った様子でそう言った。

 そして私はリジュの方へと視線を向ける。たしかに今のリジュは男物の服と鎧に身を包み、そして脇には兜を抱えているの。

 そしてその隣では機嫌の悪そうな表情で、ムスッとしたレドルがべんけいを睨んでいた。


「あ、あの、申し訳ありません! 勝手についてきたことは謝ります! でも、私も強くなりたいんです!」


 どこまでも真剣な表情でリジュはそう言って私とべんけいに頭を下げた。


「リジュが謝ることじゃないだろ! なんでリジュだけ置いてくんだよ! 俺が守ってやるんだからあんたたちには関係ないだろ!」


 そう言ってレドルはべんけいに食って掛かった。

 ただべんけいの方はどこかめんどくさそうな表情で、呆れたと言いたげに溜息をつきながらレドルのことを無視していた。


「とりあえず邪魔だからこいつはエリスリーゼが預かっててくれ」


「そんな! あの、絶対邪魔はしません!」


 そんなべんけいにリジュも引き下がろうとはしない。


「う~ん? べんけい。どうして邪魔なの~? お姉さんにはそこがわかんないな~」


 そこにミリーゼが仲裁をするように割り込んだ。


「はぁ~。この周辺はお前らの拠点のあるエリアだろ。出現するモンスターの種類くらい把握しろよ」


「お姉さんは高レベルになってからは、あんまりモンスターと戦わないくなったからな~」


「私もあまり城から出ませんでした」


 さらに言えばダークエルフたちの住んでいた村はこことは真逆の方向なので、おそらくは彼らもこの周辺に出現するモンスターは把握してないだろう。


「いいか? この草原にいるのは同レベルでは持っている経験値が多い代わりに、極端に防御の高いモンスターがほとんどだ。その上、攻撃優先度はレベルの低い者を先に狙ってくるんだ。前に戦ったときに統計を取ったが、レベル差が5程度なら狙われる頻度にそこまで差はないが、リジュほど離れてると確実にリジュだけが狙われる。リジュのレベルじゃあ一回攻撃されるだけで、最悪死ぬぞ?」


 べんけいがそういうと、リジュもレドルもさすがにまずいと悟ったのか、顔を青ざめさせた。


「あちゃ~、それはさすがにまずいね。さすがにお姉さんも、いきなり仲間が死ぬのは見たくないな~」


「確かにそうですね。参考までに聞くのですが、他の方々は大丈夫なのですか?」


「それは問題ない。ここのモンスターは防御力は高いけど、攻撃力は高くないから他の連中は数回なら耐えられる。それに俺が《咆哮》で最初に行動不能にするから、攻撃は受けて4人くらいだろう」


 それに加え一戦ごとにアイテムで回復をすると、べんけいは言っていた。

 

「わかりました。それではリジュは私がお預かりします。レドルもそれでよろしいですね?」


 私がそういうと、レドルも渋々と首を縦に振った。


「ちょっと待った! お姉さんいいこと思いついた!」


 そこに先ほどから空中を眺めていたミリーゼが乱入してきた。


「なんだミリーゼ?」


「ようはリジュちゃんがダメージを受けなければいいのよね? ならお姉さんがこれあげる!」


 そう言ってミリーゼはアイテムボックスから一着の服を取り出した。


「それは……メイド服でしょうか?」


 ミリーゼが取り出した服は確かにデザインはメイド服だが、その服は首から臍下まで大きく開かれ、背中も大きく開いている上に、一緒についているスカートは驚くほど丈が短い。おまけに狙ったかのようにニーハイソックスにガーターベルトまで付いていた。

 女の私から見たその服の感想は、とにかく露出が多すぎる。


「あうあう」


「な、なな!?」


「うっわ~……お前それって」


 レドルはその服を見て、それを着たリジュを想像したのかチラチラとリジュを見ながら顔を赤くし、べんけいはそれが何なのか知っているようで呆れ返っている。

 そしてそれをあげると言われたリジュは、エルフ特有の長い耳と褐色の肌を真っ赤に染め上げて「あうあう」と言葉にならない何かを呻いていた。


「ふっふっふ~。そう! これこそ期間限定ガチャのシークレット! 性能は馬鹿みたいにいい上に、装備レベルの制限がない優れ物! でもあまりのデザインに誰も着てくれなかったという伝説を作った、伝説のメイド服! その名も《色欲の乙女(ラスト・メイデン)》!」


「そ、それを……私が着るのでしょうか?」


 じりじりと服を持って詰め寄ってくるミリーゼに、リジュは徐々に後ずさる。


「大丈夫! お姉さんは優しくするよ! というわけで、お着替えタ~イム!」


 男二人はそんなリジュを見ないように後ろを向いていた。

 戦闘前なのに平和だなと私は思いながら、空を仰ぎ見た。


 辺りにはリジュの悲鳴が木霊していた。

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