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人形姫魔王物語  作者: ムロヤ
一章 魔王誕生?
6/37

会議

いつの間にかお気に入り登録が100件を超えててびっくりしました。

「それとミリーゼにも聞いたのだけれど、べんけいもこっちにいきなり呼ばれて怒らないのかしら?」


 拗ねて部屋の隅に行ってしまったミリーゼを無視して、私はべんけいにもこっちに呼ばれて迷惑ではなかったのかを聞いてみた。

 例え迷惑だと言われたとしても、戻す方法など知らないので自己満足でしかないが、これから一緒にやっていくうえでどうしても聞いておかなければならないと思ったからだ。


「いや? もう自立してるし、割とブラックな企業に就職して、毎日疲れた疲れた言ってる日々の繰り返しだったから、むしろこれからのことを考えると感謝してるくらいだ」


「そう。ならこれからよろしくお願いしますね」


 私たちは互いに笑いあった。


「お姉さんだけまた仲間外れ~? ふ~ん?」


 そこへ先ほどまで部屋の隅で小さな体をさらに小さくして拗ねていたミリーゼが戻ってきた。


「ミリーゼもよ。これからよろしくお願いしますね」


「相変わらず酔っ払いみたいな絡み方だな。とりあえずよろしくな」


「こちらこそよろしくね。あと酔っ払いは余計よ! それとエリスリーゼってば何だかいきなり口調がゲーム時代に戻ってない?」

 

「魔王エリスリーゼはこれが普通です。今までの自分に別れを告げるという意味でも、これからはこちらの口調で話すことにしました」


 私はこれから一緒に歩んでいく二人をしっかりと見据え玉座から立ち上がり、ドレスのスカートの端を摘まみながらお辞儀をした。


「これから末永くよろしくお願いいたします」



「それよりさっきミリーゼに聞いたが、俺が呼ばれたのは攻略情報も必要だからなのか?」


「それもあります。ただ当初の目的は戦闘スキルが豊富で詳しい人というのが、第一条件でした」


 べんけいの質問に私が答えると、べんけいは何やら考え込むように顎に手をやった。


「どしたの?」

 

 そんなべんけいの様子にミリーゼが首を傾げながら質問していた。


「ん~、戦闘スキルに関しては問題ないんだけど、詳しい攻略情報に関しては期待されてるほど役に立てないかもしれないと思ってな」


 ミリーゼの問いにべんけいは困ったように頭を掻きながら答えた。


「そうなのですか?」「そうなの?」


「ああ。元々攻略情報は俺のいたギルドで集めてたもので、情報の種類によって役割分担してたんだ。それで集まった情報をギルマスが編集して、サイトにアップしてたんだ。それで俺の担当は戦闘スキルと武器スキル関係で、アイテムドロップとか生産系何かはあんまり知らないな」


 べんけいはそう言って自分のいたギルドや攻略情報についての説明をしてくれた。

 

 私もゲーム時にはよく攻略サイトのお世話になっていた。そしてVRMMOの広大な世界に対して、攻略情報のアップされるスピードが速いことに疑問を持っていたが、分担しての情報収集というならあのスピードにも納得できた。


「それでも普通のプレイヤーよりは詳しいでしょ? ならいいんじゃないかな~とお姉さんは思うな。エリスリーゼはどう?」


「私も構いません。というより、戦闘系のスキルを調べていたなら必然的にモンスターにも詳しいのではありませんか?」


 私はそう確認をしてみた。


「ああ。モンスターに関してならモンスター組とも情報交換を良くしてたし、自分でもよく狩りをしてたからそこそこは詳しいぞ。それにしても……エリスリーゼはモンスターアバターなのにモンスターを倒すってのも変な話だよな」


 べんけいは笑いながらそんなことを言っているが、魔英伝で魔王になったとしても、自分の配下ではないモンスターは普通にフィールドモンスターとしてこちらにも攻撃してくる。

 そのため魔王がモンスターを倒すということも別に不思議ではなかった。

 

「正確には私は闇陣営・・・のモンスターアバターであってモンスターその物ではありませんから。モンスターは文字通りの怪物で闇陣営にも光陣営にも攻撃してくるんですよ。ですからもし戦うことになってもきっと躊躇いはないですよ」


「あはは、そういえばそうよね~。お姉さんはエリスリーゼと付き合い長いから不思議じゃないけど、あんまり魔王と関わりのない人だとそう感じるのが普通なのかな~?」


 私がそう言うとミリーゼも相槌を打ちながらそう疑問を口にした。


「そうなのか? 魔王と英雄に関してはあんまり情報がないからな。俺たちからすると魔王はモンスターを支配してるんだと思ってた。まあいいや、それより今後はどうするんだ?」


「あ、お姉さんも聞きたい」


 ミリーゼとべんけいがそう言ってこちらに視線を向けてきた。 

 その視線を受けた私はこれからのことについてを考える前に、部屋の外へと退出していった三人を呼ぶことにした。


「今後についてのお話は、先に人を紹介してからにしましょう」


「紹介? 俺たち以外にも誰か召喚んだのか?」


「あ! ひょっとして最初にここにいた?」


 最初にロンダル達がいた時に召喚されたミリーゼはすぐに思い至ったが、べんけいは自分たち以外にも呼ばれた人がいるのかと勘違いをしてしまったようだ。


「ロンダル。入りなさい」


 部屋の前で待機していることはわかっていた私は、扉の向こうにも聞こえるように声を掛けた。


 ギィィィィイ


 ロンダルは私の許可を得ると扉を開け再び部屋へと入ってきた。


「……え? ロンダル?」

 

 ゲーム時代から私と共にこの城を拠点としてきたミリーゼは、当然その名を知っている。ただ知ってはいても、まさか先ほどまでここにいた老人がロンダルとは夢にも思わなかったようだ。


「はい。お久しぶりですミリーゼ様。こうしてエリスリーゼ様を含め、再びお目に掛かれて光栄でございます」


 そんなミリーゼの問いに、ロンダルは本当に嬉しそうな表情で膝をつき頭を下げた。頭を下げる瞬間、ロンダルの目尻に涙が浮かんでいるのが見えた。

 私たちにとっては昨日のことでも、ロンダルにとっては1000年ぶりの再会となっている。そんな彼だからこそ、いろいろな感情が胸のうちに渦巻いているのだろう。


「ほ、本当にロンダルなの? あ、でもこうして見ると確かに面影はあるわ。これはさすがにお姉さんもびっくりよ」

 

 そしてミリーゼはゲーム時代の面影を残してはいるものの、年老いてすっかりと変わってしまったロンダルに驚きの表情を浮かべていた。


「まずはお互いに自己紹介を致しましょうか」


「そうしてもらえると助かるな。ミリーゼは知ってるみたいだけど、俺の方はさっぱりだからな」


 私の提案にべんけいが賛成を示した。


「それでは私から。この城の主にして魔王が一人、人形姫エリスリーゼと言います。以後よろしくお願いします。レベルは最高の300で、主に魔法での戦闘を得意とします」


「次はお姉さんね~。お姉さんはミリーゼ! エリスリーゼと一緒にこの城に住んでた小人族よ。炊事、洗濯、お城の整備に武器の作成から薬の作成までなんでもござれな、一家に一台は必需品! お困りの際はなんでもお申し付けを! でも戦闘はあんまり得意じゃないのであしからず~。ちなみにレベルは250」


「長い自己紹介だな。次は俺か? 一応このやかましいミリーゼの友人だ。名前はべんけい、現在レベルは290。武器スキルのことならいろいろ聞いてくれ。魔法は使えないが弓や投槍のスキルもあるから接近戦でも遠距離戦でも戦える。以上」


 私の自己紹介が終わると、まずはプレイヤー組が続いて自己紹介をしていった。

 ミリーゼはノリのいい喋りで小人族特有の小さな体でくるくると回りながら、にぎやかな自己紹介をして、べんけいはそんなミリーゼに呆れた視線を向けながら腕を組んだままの姿勢で、簡潔に自分のできることだけを述べた。


「それでは次は私ですかな。エリスリーゼ様とミリーゼ様には不要でしょうが、私の名はロンダルと申します。1000年前この城で執事をしておりました。立場としてはミリーゼ様の部下となるでしょう。今はダークエルフの村の村長をしております。レベル53ですがミリーゼ様と同様、戦闘はあまり得意ではありません」


「わ、私はリジュっていいます! あの、村ではお婆ちゃんが薬師で、私もそのお手伝いをしてます。レ、レベルは8……です」


 ロンダルはさすがは執事をしていただけのことはあり、きっちりとした礼を取りながら挨拶を終えた。それに続いて私が初めて見つけたダークエルフの少女リジュは、緊張しているせいか硬い表情で自己紹介をしていき、自分のレベルを言うところでは恥ずかしそうにもじもじとしながら自分のレベルを告げた。

 関係ないことではあるが、その様子を見ていたミリーゼがハアハアと荒い息を上げながら「リジュたんは可愛いな~」と小声でもらし、それを聞いたべんけいが溜息交じりに呆れている。


「……ぁだっ!?」


 そしてそんな私たちのやり取りに参加せず、気に入らないといった表情でこちらを睨んでいたロンダルの息子は、父親に拳骨を喰らっていた。


「おまえは挨拶もできないのか?」


「……レドル。レベルは22」


「まったく。愚息が失礼しました」


 そんなレドルの態度にロンダルは怒りを覚えたのか、レドルの頭を押さえつけ私たちの方に向けて頭を下げさせた。


「私は気にしてはいません」


「お姉さんも~」


「俺もだ」


 とはいえ私たち三人はその程度のことで怒る理由もないので、特に何か言うわけでもなく全員がそう言った。


「さて、それでは自己紹介も終わりましたので、今後について話し合いましょう」


「さんせ~い」


 異議はないようで、ミリーゼの言葉がこの場にいる全員の意思を代弁となった。


「それではまずはこの1000年で世界がどう変わったのかをロンダルに伺います。よろしいですか?」


「畏まりました。エリスリーゼ様たちがお隠れになられてから1000年で多くが変わりました。まずは光の陣営についてですが、詳しい情報は隠れ里に住んでいた私にはわかりません。一般的にかつての英雄の子孫たちが大きな力を持ち、彼らによって我ら闇の陣営は領土の多くを奪われました。それに対して、闇陣営(我ら)は隠れ住む者。力ある一族である吸血鬼や竜などが新たに魔王を名乗るなどで闇陣営を何とか立て直そうとしております。ただ……どうしてもかつて居た魔王の方々には及ばず、現状は光陣営の侵攻を何とか防いでいるといったところです」


 その説明を聞いて、ミリーゼやべんけいは「あ~継承システムね」「そんなのあったな」などと、光陣営の子孫たちについては私と同じ答えへと辿り着いたようだ。


「わかりました。新しい情報に関しては追々ということに致しましょう。それでは当面の私たちの目的ですが……」


「はいは~い! お姉さんは城の修繕を一番先にやるべきだと思いま~す! ていうかこんなに荒れてるのは許せないわ!」


 私が何かを言う前にミリーゼが横やりを入れてきた。

 たしかにこの城を拠点とするのならミリーゼの言うことも一理ある。

 たださすがのミリーゼでもこれだけの城を一人で修繕するのは不可能ではないだろうか。


「それよりまずは現状での人手の確認が先だろ。何をするにもそれからだろ? ロンダルさん。今ここにいるダークエルフって何人くらいいるんだ?」


「ロンダルで結構です。べんけい殿。隠れ里には50名ほどのダークエルフが居りましたが、年齢を考慮し、労働力として考えるならば使える者は全部で30名ほどになります。それにその者たちですら、持っているスキルと言えば弓か農業程度で、とてもではありませんが城の修繕など不可能です」


 ロンダルがべんけいの問いに、淀みなく答えていく。


「30名ですか。……確かにそれでは城の修繕は不可能ですね」


「というか、城を修繕するにしても素材はあるのか?」


 私とべんけいが現状での城の修繕は不可能と結論付けると、それまで静かにしていたミリーゼが不敵に笑いだした。


「ふっふっふ! あっま~い! このお姉さんがそれを考えないかったと思うの? これをっ! 見よ!」


 そしてミリーゼは自分のアイテムボックスから何かを取り出した。


「「「「「笛」」」」」


 ミリーゼ以外の全員がミリーゼの取り出したアイテムを見てハモってしまった。


「そう! これぞ小人族専用アイテム《小人のホイッスル》よ! これを吹くと……ピピーーーー!!!」


 そう言ってミリーゼはおもむろに笛を咥えると、吸い込んだ息を一気に吐き出して笛を鳴らした。

 

「どう?」


「やかましい!」


 スパン


 予想以上に大きな音が鳴り響いた。

 リジュやレドルなどは驚きすぎて口をパクパクとしている。

 そしてミリーゼの突拍子もない行動に、べんけいはアイテムボックスからわざわざハリセンを取り出してミリーゼの頭を引っ叩いていた。

 

 余談だが、ハリセンはピコピコハンマー同様のダメージが1しか入らないネタ武器で、ゲーム時代は全員がハリセンを装備してスパンスパンと叩きあうハリセン合戦などという運営の正気を疑うイベントもあった。


「いった~!? 何するのよ! お姉さん怒るわよ!?」


「こっちのセリフだ! なんだよ今のは? 気でも狂……た………か」


 ミリーゼとべんけいが口論になりかけたとき、べんけいの言葉が途切れ途切れになっていった。そしてべんけいはこの部屋の扉のところに視線を向けて固まっていた。

 そのことに気が付いた全員がそちらに視線を向ける。


 視線を向けた瞬間は何の変化もなかった扉だが、少しして誰もが変化に気が付いた。

 なんと部屋の扉が徐々に開いていったのだ。おそらくべんけいは獣人の感覚により、扉を開けようとしている存在に気が付いて驚いたのだろう。

 そしてその少し開いた扉からは、次々と何かが入ってきた。


「小人……ではないですよね?」


 入ってきた何かはミリーゼ以上に小さく、全長が30cmほどだった。

 私は代表としてミリーゼにあれはなんなのかを問いただした。

 

「あれは《働く妖精(コロポックル)》よ。小人の笛を吹くと、吹いた小人族のレベル10につき一体召喚できるの。お姉さんのレベルは250だから25体まで呼べるのよ~。それで彼らは召喚者の7割の能力を持っているの。お姉さんの7割だから、相当使えるわよ」


 ミリーゼは自慢げに胸を張ってきた。


「それはすごいですね。なるほど……彼らに素材集めと修繕を手伝ってもらうのですね?」


「残念! ちょ~っとハズレかな~。この子たちは安全地帯でしか召喚できないの。だから外に狩りに行くのは無理ね。そこでよエリスリーゼ。ここに来た動けるダークエルフたちには、べんけいと一緒に狩りに行ってもらって食材と素材を集めてもらってくるのよ。そうすればレベル上げにもなって一石二鳥じゃないかしら?」


「なるほどな。確かにいい考えかもな」


 いつの間にか硬直が解けたのか、べんけいも顎に手をやりながらミリーゼの意見に賛成を示した。


「……そうですね。確かにそれが現状で取り得る最善かもしれません。ロンダルはどう思いますか?」


「私もミリーゼ様の意見に賛成です。エリスリーゼ様の復活を聞きつけ、こちらにもいろいろな輩が集まって来るかもしれません。ならば村の者にはせめて自衛できる程度の強さが欲しいところです」


 ロンダルに意見を聞いてみたが、特に反対ではないようだ。


「わ、私も! 皆さんのお役に立てるように、少しでも強くなりたいです!」


「り、リジュ!? なんでお前まで!? ……リ、リジュが行くなら俺も行くぞ! あ、安心しろリジュ。お、お前のことは俺が、ま、守ってやるぞ?」

 

 そしてリジュも自分も強くなりたいと志願し、それに引っ張られる形でレドルも賛成を示した。

 

「それでは私やミリーゼ、そしてべんけいも感覚を取り戻すという意味で戦闘に参加いたしましょう」


 前回の戦闘ではほとんど動くことなく魔法のみで戦っていたため、実際に体を動かしての戦闘で自分たちがどれだけ動けるの確認する必要を感じた私は、ミリーゼとべんけいも参加させることにした。


「それでは当面の目的は、食料の確保、素材の確保、並びに村民のレベル上げということで決まりですね。それではロンダルは村民への連絡を。べんけいは自身のコンディションのチェック。ミリーゼは城にある素材で、村民用の簡単な武具の作成をお願いします。各自準備に取り掛かってください。出発は明日です。それでは解散です」


 こうして私たちの会議は幕を閉じた。

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