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人形姫魔王物語  作者: ムロヤ
二章 魔王暗躍?
33/37

発掘作業

 私は会議室を後にすると、真っ直ぐにある場所へと向かっていた。


「エリスリーゼ~、どこ行くの~?」


 そんな私の後にミリーゼとべんけいは追い付いてきた。他の人たちは能力的に私の速さに付いてこられなかったようで、他には誰もいない。


「宝物庫です。今回の作戦でちょっと穴があったので、その穴を埋めるための物が必要なんです」


「ひょっとして~さっきの相手にプレッシャーか恐怖を与えるってやつ~?」


「プレッシャーや恐怖?」


 二人にもまだ今回の作戦の詳しい内容を説明していないため、二人は首を傾げていた。そんなやり取りをしているうちに、宝物庫もくてきちへと到着した。


「そうです。とりあえず宝物庫についたので、御二人には中で今回の作戦の詳細を説明しましょう」


 そう言っては私は宝物庫の扉を開き、中へと入った。


「あいかわらず汚いね~」


「ひどい散らかりようだな、ここ」


 本来宝物庫とは、美しい物や貴重な物を保管している場所のはずなのに、二人の反応は真逆だった。とはいえ、それも無理はない。

 確かに美しい宝石や貴重な装備、大量の金貨などが保管されているとはいえ、全体的にゴチャゴチャしている状態だ。パッと見、かつての自分の汚部屋を思い出してしまう。


「こほん! ……今はどうでもいいです。それよりも、今回の作戦を説明します」


 私は気を取り直して二人に向き直った。


「今回の作戦ですが、私の予定ではほとんど戦う必要はないはずでした」


「そなの~?」


 ミリーゼが不思議そうに首を傾げながら疑問を口にする。


「はい。前回大規模な民の受け入れを行ったとき、べんけいは気づいていたと思いますが、ローゼリアからかなりのスパイが入り込んでいました」


「ああ、いたな。結構な数を狩ったけど、途中で中止するように言ってたな」


 その時のことを思い出しながら、べんけいがいくら捕まえたのか指折り数え始めた。


「結構、ではありません。入ってきたスパイは、ほぼ全員べんけいに狩られています。私の予定ではほどよく帰ってもらう予定でしたのに……」


 恨めしそうにべんけいを睨んでみたが、彼は特に気にした風もなく平然としていた。

 本来ならほどほどにスパイを逃がし、今回の作戦の肝である呪いを持って帰ってもらう予定が、いきなり破綻しかけたのだ。

 

 わざと逃がしたという疑いを持たれないためにべんけいをスパイに嗾けたのが、完全に裏目に出てしまった。というか、スパイとして専門の教育を受けて育ったプロ中のプロを、一人も逃すことなく捕まえるべんけいがおかしいので、決して私の作戦が悪いかけではない。絶対に。

 

 ……事前連絡をしなかったのは、ちょっと悪かったかもしれない。


「それならそうと先に言ってくれ。こっちは下手に情報を持って帰られるとまずいと思って、本気で狩ってたんだから」


「ええ、今度からはそうします」

 

 報連相が大事なことだと心から思い知らされた。


「それで~? その肝心の作戦って、何~?」


 私とべんけいの会話には興味がでないミリーゼが、地面に座り込みながら話の本題に入るように促してくる。その流れに逆らうことなく、今度こそ本題に入ることにした。


「私の持っている魔法に蔓延る恐怖(フィアー・スプレッド)というものがあります。これはもともとはパーティー単位の敵を恐慌の状態異常にする魔法です」


 蔓延る恐怖(フィアー・スプレッド)という魔法の名前を聞いても、ミリーゼもべんけいもピンとこないようで首を傾げている。

 それも当然だろう。

 この魔法は私の知る中でも最も使い所がなく、使う必要すらなかった魔法だ。

 呪術師などというマイナーなジョブのさらに使い勝手が悪い魔法なんて、知っている人の方が少ない。


「この魔法は対象人数が6~99人となっています。なので個人には使えず、フルメンバーでないパーティーにすら使用できません。おまけにダメージもなく、恐慌の状態異常になったところでプレイヤーにはさして意味がありませんでした」


 そうなのだ。この恐慌という状態異常、プレイヤーには全く役に立たない。

 NPCが恐慌の状態異常に陥った場合は、プレイヤーからの指示を聞かなくなり、勝手に逃げ出すようになる。ようは恐怖で正常な判断ができなくなる状態だ。だがこれがプレイヤーの場合、操作している人間がただのゲームでそんな状態になるわけがない。

 なら恐慌の状態異常を受けたプレイヤーがどうなるのか。

 

 答えは一定時間他人とのコミュニケーションができなるだけだ。

 例えば相手が「こんにちは」と言っても、そのプレイヤーには「$&#)”!」というように意味不明な言葉に変換され、聞き取れなくなる。

 これだけ聞けばパーティー戦やクラン戦で、指令を理解できなくするという効果がありそうに感じる。


「ただ、この魔法には最大の欠陥がありました」


 ミリーゼとべんけいに魔法の説明をしながら、私はその欠陥を思い出して溜息をついた。

 そのあまりにも馬鹿らしい欠陥、それは……。


「VRなのですから、ハンドサインで十分指令が伝わるのです」

 

 これが古いMMOであれば、会話ができないというのは致命的となる。だがVRならば予めハンドサインや別の合図を決めておけば、それで事足りる。

 おまけに大規模戦になった場合は、声では全体に指令が届かないので魔法やアイテムで信号弾を打ち上げたりもする。そうなってくると恐慌の状態異常は何の意味もない。


「完全な外れ魔法ですね」


 私はこの魔法をそうまとめた。というよりも、それ以外に感想がない。二人も今の話を聞いて、何とも言えない表情となってしまっている。


「でもさ~、それがどうして作戦の肝なの~?」


 ミリーゼが当然の疑問を口にした。


「魔法の効果がゲーム時代()と違う場合があることが分かってから、私は一通り自分の魔法を調べてみました。その結果、判明したことがあります。まず、この世界ではHPやMP、SPがありません。そのため、それらが効果を及ぼすものは数値ではなく、直接体調に反映されます。例えばSPを奪われれば疲労し、MPを削られれば精神的に辛くなります」


「あ~、確かにアイテム作った後って~、精神的にしんどいね~」


「武技を使うと確かに疲れるな」


 二人も心当たりがあるようで、納得していた。


「そしてこの実験の中で、新たな発見がありました。それは、一部の状態異常の効果も変化していること、魔法の性質も一部変化していることです。その代表が、今回の蔓延る恐怖(フィアー・スプレッド)による恐慌です」


 ゲーム時代は役に立たなかった恐慌だが、ここに来て驚きの変化を遂げていた。まずこれが掛かた相手は恐怖を感じると、それが凄まじいまでに増幅される。その結果、意味不明な叫び声を上げながら逃げるか、震えてその場から動けなくなってしまう。これはその辺で見つけた盗賊に試したので間違いない。

 本当は捕まえて感想を聞きたかったのだが、私が捕まえると恐怖のあまりショック死する者までいる始末なのでそれもできなかった。


「そして蔓延る恐怖(フィアー・スプレッド)ですが、これは効果人数と効果時間に変化がありました。まず個人に対しても使用できるようになり、魔法発動中はそれがどんどん広がっていきます。さらに一度発動すると、私は魔法を止めるかMPが尽きるまで止まらないという、永続効果的な魔法に変化したようです」


「へ~、すご~い」


「すごいと言っても、これに気が付かせてくれたのはミリーゼですよ? サンタリアとの戦闘で、本来はできない戦闘中の錬金を見て思いついたのです」


「あれか~」


 その時のことを思い出したのか、ミリーゼは手を叩いて納得した。


「それで? それが今回の作戦と何が関係してるんだ? まあ、おおよそ想像できそうだけど……」


「はい、今回はこの魔法をスパイに掛けました。そして、そのスパイが軍に組み込まれることで、蔓延る恐怖(フィアー・スプレッド)の恐慌が文字通り蔓延していき、軍が使い物にならなくなります。ただ、これはあくまで恐怖を増幅する魔法なので、初めに恐怖を与えないといけません」


 それなのにこちらの軍が相手の半分以下どころか4分の1もいないのでは、舐められることはあっても恐怖を感じることはない可能性がある。

 私たちが出撃すれば恐怖を与えられるだろうが、そうすると敵にかなりの犠牲が出てしまい、せっかく労せずして兵力を得ようとしての作戦なのに本末転倒になってしまう。


「そのためにここに来たのです。視覚効果が大きく、もっとも私の戦場に相応しいアイテム。それがここにあります。その名も〈夜を呼ぶもの〉」


「……どこだよ」


「あはは~」


 ミリーゼとべんけいが呆れた目で宝物庫を見回す。

 私が威勢よく指さした先にはその〈夜を呼ぶもの〉の姿はなく、ただただ財宝がゴチャゴチャと積み上げられているだけだ。


「はい。これをどうぞ」


 私は二人にある物を渡した。


「えっと~」


「スコップって……」


「さあ、時間がありません。みんなでこの財宝の山を掘り返しましょう」


 言葉だけを聞けば夢のようなシチュエーションだが、その実はスコップによる発掘作業に等しい。人海戦術で行えば少しは早いだろうが、宝物庫には持つと呪われるアイテムや、使用者のHPと引き換えに攻撃力をあげる武器なども多く存在する。おまけにそれらは最低でもLv200以上を想定したアイテムや武具だ。ゲームではそれ以下では装備も使用もできないが、今の世界ではその保証はない。

 

 そんな場所に私たちよりも弱いロンダル達を連れてくるわけにもいかないため、私達は3人で膨大な財宝から目当てのアイテムを探し始めた。


「あ、べんけい。足元に武器があるので気を付け……」


「げっ!」


 注意するのが遅かったのか、べんけいの足が武器の刃の部分に少し触れてしまった。

 その結果……べんけいの身体が徐々に石化し始めた。


蛇女神の短刀(メデューサ・ダガー)ですね。ランクに対して攻撃量は低いですが、石化能力に特化した武器です。作成難度が高く、ゲーム内で出回ってたのは蛇女神の迷宮でボスが稀にドロップする物がほとんどでした」


 私は蛇女神の短刀(メデューサ・ダガー)の解説をする。


「いやいやいや! 今そんな情報いらないからな! ってか、石化の進行早すぎるだろ!? なんだこれ!」


 高レベルのプレイヤーほど状態異常には高い抵抗力を持っている。ましてやレベルがカンストしているべんけいにもなれば、抵抗力はかなりのものだろう。おそらく大概の状態異常は効かないはずだ。仮に効いても進行はかなり遅い物となるだろう。

 それなのに今べんけいを襲っている石化は、凄まじい速度でべんけいの身体を侵食している。すでに蛇女神の短刀(メデューサ・ダガー)に触れた足は、太腿まで石と化している。


「当然です。私の宝物庫に入っているんですよ。ただのドロップ品な訳がありません。蛇女神の短刀(メデューサ・ダガー)を集めて錬金術のレシピを作って、そのレシピを元にミリーゼが超レアな素材で作成した物なのです。たかがドロップ品ごときと性能は雲泥の差です」


 私は胸を張ってそう答えた。

 ゲーム時代、錬金術でアイテムや武器、防具を作る時に必要になるレシピ。それらは上級までの物はレアドロップや特殊な店で買うことが出来た。だがそれ以上のランクの物を作ろうとするなら、レシピの入手条件は限られる。

 

 一つ目はクエスト報酬で貰う。

 二つ目はイベント上位の景品で貰う。

 三つ目はオリジナルレシピを持ってる人に伝授してもらう。


 そして四つ目は、レシピが欲しいアイテムや武具を100個集めて、錬金術スキルの解析を行って自らレシピを作る。ただこれをやると解析に使用したアイテム類は失われてしまう。


 4番目の方法なら実質どんなレシピでも用意できるが、強力なボスが稀にドロップするアイテムを100個も集めてレシピに消費するより、そのまま使うか売ってしまった方が効率はいい。

 

 ……よほどの廃人錬金術師でもない限りはやらないことだった。


「この宝物庫に保管されている武器や防具、アイテム類はそうして作成されたものがほとんどです。どうですか? 私の自慢の宝物庫と、ミリーゼの作品は?」


「えへへ~、そんなに褒められるとお姉さん照れちゃうな~」


「そんな自慢話はどうでもいいから! 万能薬か石化解除薬をくれ!」


「あ、そうでした。ミリーゼ」


「は~いっと」


 宝物庫自慢に熱中しすぎて、気が付けばべんけいの石化がお腹の辺りまで進行していた。私が指示するとミリーゼが鞄から万能薬を取り出し、べんけいに投げつける。


 ガシャンとガラスが割れる音と共に万能薬がべんけいに降り注ぎ、ようやく石化の状態異常が解除された。


「……こんなのがまだまだ大量にあるのか?」


 石化から解放されたべんけいが凄く嫌そうな顔で宝物庫を見渡す。


「いえ……」


 べんけいの問いに、私は言い淀む。


「あはは~、今のはまだマシな方だよ~。中にはエリスリーゼの影響で呪いの武器になってるものも多いから、もっと面倒なのもあるよ~」


「おいおい……」


 私が言い淀んだことを、ミリーゼが事もなげに告げる。それを聞いたべんけいが天井を見上げて溜息を零した。

 

 武器や防具の呪化。

 一定の条件で起こる現象なのだが、これが起きた武具は性能が変化する。それも性質の悪い変化だ。

 

 例えば今の蛇女神の短刀(メデューサ・ダガー)が呪化すると、石化能力が倍以上になるが装備した者も一定の確率で石化するや、石化能力は上昇するが装備するとステータスが一部低下するなど。呪化すると何かしらの能力が上がる代わりに、装備する者にデメリットが生じる。

 それとお約束で装備したら普通には外すことができなくなる。


 そんな物がゴロゴロしていると言われれば、べんけいの嫌な顔も納得できる。私だってできれば呪化してる武具なんか触りたくない。

 それでも探し物を見つける必要がある私は、べんけいに一声かける。


「まあ、頑張りましょう」


 その一言にべんけいはまた溜息をもらしていた。

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