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人形姫魔王物語  作者: ムロヤ
二章 魔王暗躍?
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作戦会議

お久しぶりです。

本当にお久しぶりです。



 べんけいが先日言っていたダークエルフの集落からダークエルフたちを連れてきた。

 当初は半数ほどの予定だったが、装備もしっかりとした護衛隊を組んで迎えに行ったことで、こちらがかなりの力を持っていることを悟ったのか、8つの集落が丸々移住してきた。

 そのおかげで私の街の住人は増え、かなり賑わってきた。


「非常に喜ばしいことです」


 私はテラスから城の下に広がる街を眺め、そこを行きかう人々を見ながら微笑みを浮かべた。


「あ~、エリスリーゼってば、また悪い顔してる」


 そんな私の微笑みをどう捉えたのか、テラスに来ていたミリーゼがそんなことを言ってきた。


「失礼です。これは慈愛の微笑みです」


 私はむっとした表情でミリーゼを見た。だがミリーゼの顔を私が見ることはなかった。

 振り返った私の顔の前に、ミリーゼが封蝋された一枚の手紙を翳したからだ。


「これが証拠だ~」


 その手紙にある封蝋の刻印は、この国では決して使われることのないものだ。というよりも、持っている人がいないと言った方が正しい。

 その手紙がどうしてミリーゼの手の中にあるのかは分からないが、どうやら何らかの手違いで私に直接届くはずの手紙がミリーゼの手に渡ってしまったようだ。


「……はて? 何のことでしょう」


 私はとぼけて紅茶に口を付ける。

 ミリーゼは楽しそうに意地の悪い笑みを浮かべて私の前に手紙をヒラヒラさせている。

 

「ふっふっふ~、さあさあ! お姉さんにも話しなさ~い」


「はぁ……わかりました。わかりましたから手紙を返してください。というか、どうしてその手紙がミリーゼの手にあるのですか?」


 手紙を受け取り、私はミリーゼにそう尋ねた。


「うん? えっとね~、昨日の夜に整理してた罠を片づけ忘れてたら、今朝になって伝書鳩が入ってたの~」


 罠といっても人が掛かるようなものではなく、単なるネズミ取りらしい。しかも餌も何も置いていない状態の物で、何故鳩がそんな物に引っかかったのか謎だ。


「かなり間抜けな伝書鳩ですね。……はぁ~」


 私は溜息と共にミリーゼにどう説明しようかと考え始めた。


「……初めに言っておきます。私は決して仲間を裏切りません」


 今回の件で私が裏切り者だと考えられたとしたら、せっかくまとまってきた国が分解しかねない。だから私は大前提としてそういった。


「知ってるよ~。エリスリーゼとどれだけ付き合ってると思ってるの~?」


 そんな私の言い訳にも聞こえる大前提を聞いて、ミリーゼは呆れたようにそう言い切った。その信頼がとても嬉しく、同時にくすぐったかった私は照れくささをごまかすようにティーカップに口を付ける。


「エリスリーゼ~、それ、空っぽだよ~」


 ニヤニヤしているミリーゼが非常に腹立たしい。


「……こほん」


 咳払いを一つして話を戻す。


「この手紙ですが、戦後・・処理ものです。今回の作戦がうまくいけば、今度の戦争はほとんど何もせずに勝てるはずです。そして労せずにたくさんの兵を得ることもできます」


「ん~。今度のってことは、例の獣人さんの国?」


「はい」


「ふ~ん。それで、それはあちらの内通者さんからなの~?」


 そういってミリーゼは私の手の中にある手紙を指差した。


「ええ、その通りです」


 私はミリーゼにそう返事をしながら、手元にあったペーパーナイフで便箋の封蝋を剥がし中の手紙を取り出した。


「……なるほど、なるほど」


 手紙の内容は現在の獣人の国ローゼリアでの主だった動きについてと、私の名前に異常なほどの怯えを見せている国王について。さらに今回の軍事行動に参加する兵士の総数、補給に使うルート、幹部クラスの名前や所属までもが事細かに記されていた。

 手紙の相手が誰なのか知らない者が見ても、この手紙の内容だけで送り主がローゼリア国内でかなりの地位にいる存在であることが伺えるだろう。


「それよりさ~、どうやって接触したの~? お姉さんの知る限りでは、エリスリーゼが長期間いなくなったことなんてないよ~?」


「別に私が直接出向く必要はありません。というよりも、あそこは獣人の国なのですから、私が言ったら変に注目を浴びてしまいますよ」

 

 獣人の国にアンデットである私が行けば変な目で見られる。

 私はゾンビなどではないので、死臭や腐敗臭がするわけではないので、一見大丈夫なように思える。だが逆に、本来生き物が持っているべき汗の臭いなどもないため、鼻の効く獣人にはかなり違和感があるらしい。

 そのため獣人の国に居ても目立たない人に行ってもらった。

 ここまで言えば私がどうやってこの手紙の主とコンタクトを取ったのか、ミリーゼにも理解できたようだ。


「また、べんけいか~」


「はい。困ったときのべんけいさん、です」


 最近ではこの城内において一種の合言葉のようにすらなっている、「困ったときのべんけいさん」。べんけいが有能なせいとあまり頼みごとを断らない、日本人らしい彼の性格のせいで最近ではそんな言葉が囁かれ始めている。


 本来は一人の存在におんぶに抱っこは褒められたことではないのだが、あまりにもなんでも問題をスパッと解決してくれるべんけいに、自然と皆が頼みごとをしてしまっているのだ。とはいえ、彼は一応将軍の身分になっているため、頼みごとがある場合はロンダルかミリーゼを経由することになっている。

 そして本当にべんけいではないと厳しい案件のみが、べんけいへと届けられる。


 ―――そうでもしないと彼の下に依頼が集まりすぎてしまいそうだからだ。


「もういっそべんけいを青くしてお腹にポケット付けよっか~」


「べんけいが狸になったら大変ですから却下です」


 ネタを入れてきたミリーゼの提案を速攻で却下する。


「それよりも近々戦争になります。ミリーゼの方にも、これまで以上にいろいろと仕事を頼むことになりますが、お願いしますね」


「りょうか~い、お姉さんに任せなさ~い!」


 小さな体で精一杯胸を張るミリーゼ。

 外見はともかく非常に頼りになるお姉さんだ。


「それでは朝の会議で皆にも伝えましょう」


 私は朝食を摂り終えた後、ミリーゼと共にいつもの会議室へと向かった。



「おはようございます。皆さん」


 会議室へと入ると、そこにはこの城の主要メンバーであるべんけい、トリトン、ミリーゼのプライヤー組とロンダルとレドルの親子、新たにやって来たダークエルフたちの代表であるウルトゥーナ。そして今日は重大な話があるからと予め連絡していたため、ナハティアからもクライス達兄妹と騎士団長であるガルドが参加していた。


「全員揃っていますね。……今日は重大な発表があります」


 私は席について全員の顔を見回す。

 約一名トリトンが机に突っ伏して寝息を立てているが、起きても面倒なので放置することにした。


「すでに気が付いている方もいると思いますが、最近ローゼリアで動きがあります」


 ローゼリアと言う言葉を耳にした瞬間、ルナリアとローレが顔を顰めた。二人にとってはあまり面白くない名前なので、それは仕方ない。

 クライスやガルドとしても面白い名前ではないはずだが、そこはさすがに国を治めていた者と騎士団を束ねている者だ。表情には出さずに静かに私の話に耳を傾けている。


「現在ローゼリアでは戦の準備を急速に進められています。そしてその目的は、私の支配領域であるアライアとナハティアです」


 私の言葉にプレイヤー組以外が喉を鳴らし、緊張した面持ちでこちらの言葉に耳を傾ける。


「せ、戦争になるのか?」


 レドルが乾いた声で不安そうにそう呟いた。


「戦争になります」


 私はそんなレドルの呟きに、躊躇うことなくはっきりと答えた。

 その答えに対して全員の反応はまちまちだった。


 べんけいとミリーゼはあらかじめ知っていたこと、プレイヤーとしてゲームで戦争を経験していたことから別段緊張した様子もなく普段通りだった。

 トリトンに至っては未だに寝ている。


 ロンダルは過去のNPC時代でも思い出しているのか、何かを懐かしむように遠い目をしている。

 そして新たに加わったダークエルフの代表、ウルトゥーナは戦争と聞いて嫌そうな表情を一瞬浮かべてはいたが、さすがにいくつもの集落を代表してこの場所にいるだけあってそれ以外は何も変わらずにいた。


 クライスとガルドは戦争へ向けての兵やお金、戦場についてを話し合いを小声で始めている。この辺りはさすが一国の王と国の最高戦力と言いたい。

 ルナリアとローレも一国の王女として覚悟があるのか、特に何もいうことはなく目を閉じて静かに落ちついていた。


 ただレドルだけは年若く、戦争など経験したこともない、立場も覚悟も必要としていなかった身のため、戦争と聞いて尻込みしていた。

 

「怖いですか?」


 私は静かにレドルにそう問いかけた。

 

「こ、怖くは……いえ、怖いです。死ぬのも誰かが死ぬのも、怖いです」


 私の問いにレドルは虚勢を張りかけたが、何かを思い出したのか素直に自らの恐怖を認めた。この反応にロンダルが驚いた表情をしている。

 この間の巨人との戦闘で感じた圧倒的な恐怖。それがレドルを変えたのだろう。

 会ったばかりのころのレドルなら、「怖くない」と虚勢を張って、戦争というものを正しく認識していなかったに違いない。虚勢それは必ずしも悪いことではないが、人を率いる戦いでは邪魔でしかない。

 

「個人での戦いなら虚勢はブラフとなって相手に躊躇いを作ることができます。……ですが、集団戦で指揮官が虚勢を張ったところで、全体を見れば虚勢そんなものはすぐに看破されて格好の餌食となります。恐怖にすくむのはダメですが、恐怖を否定するのもだめです。怖いと思えるということは、逃げるという選択肢も持てるということです。指揮官としてはとても重要なことです」


 私はレドルに語りかけながら、ゲーム時代のことを思い出す。

 魔王となって初期の頃。人手が足りずに臨時で仲間に入れた無能な指揮官は、貢献ポイント欲しさに部隊全体がガタガタであるにもかかわらず、虚勢を張ってまだいけると報告してきた。

 私はその報告を信じてその部隊に奇襲を命じたのだが、すでにガタガタの部隊では奇襲を行う戦力としては不十分だった。

 奇襲部隊が現れてすぐは敵部隊は動揺していたが、行軍速度が遅く、全体的に動きが悪いことを見抜かれ。敵部隊の一部が反撃を開始した。すると、本来なら囮部隊と奇襲部隊で攻撃するはずの作戦が、敵部隊に奇襲部隊はあえなく返り討ちにあい、囮部隊だけが敵部隊の前に晒される羽目になった。

 結果は囮部隊を丸々失い、私はその戦争で負けてしまった。


 その時に私は戦闘と戦争、戦術と戦略は違うのだと理解した。 

 個人の戦闘では怖いから逃げるでは絶対に勝てない。だが集団の戦争では、場合によっては無理だから逃げる、勝てないから逃げる、という選択肢が取れないと負けてしまう。


「え?」


 怖いと言ったレドルは私の言葉と思いがけない高評価にハトが豆鉄砲を喰らったような表情をしていた。

 

「集団戦で逃げることができない。それは致命的です。よく覚えておきなさい」


「……はい」


 ロンダルが嬉しそうな顔でレドルを見ている。

 やはり親は子の成長が嬉しいようだ。

 

 私としてもレドルのこういった成長は予想外ではあったが、人材が不足している現状では嬉しい誤算だ。

 

「さて、話がそれましたが本題に入りましょう。今回の戦争では兵の殆どがナハティアから出してもらうことになります」


 その言葉を聞いたクライスとガルドが難しい顔をしていた。


「どうしました?」


「ナハティアはこれまでローゼリアと何度もことを構えてきました。ゆえに彼の国の実力をよく知っています。これまではあくまで防衛が主体であり、彼の国もさほど本気ではありませんでした」


「前置きはいいです」


 クライスの言葉を遮り、私は本題に入るように促した。


「私の元へと届いた情報では、彼の国が此度の戦に動員する兵数はおよそ20万。これはこれまでに経験したことがない兵数です。おそらく農民から多く徴兵されているのでしょうが、それでもこの数は異常です。……対して、我が国はどれだけ集めても5万に届きません。彼の国のように農民を徴兵することもできないため、まともに戦えるとは思えません」


「徴兵できない?」


 徴兵できないと聞いて私は首を傾げた。

 

「はい。獣人は種の特徴として、高い身体能力を有しています。それは平民でも貴族でも変わりありません。ゆえに戦時では平民を徴兵しても、その高い身体能力によりある程度の働きができます。対して我々ヴァンパイアの強さは血と魔力に依存します。それゆえ、純潔に近い貴族や王族は身体能力も魔法能力も基礎がかなり高いのに対し、平民は他の種族に比べて圧倒的に弱いのです」


 だから徴兵したとしても何の役にも立たない。むしろ足を引っ張るだけだとクライスは言う。


「……ありましたね。そんな設定が」


「あったね~」


「チュートリアルの説明にあったな」


 トリトンを抜かしたプレイヤー組全員がその設定を思い出し苦い顔になった。

 

 最初の種族選択の説明で出てくるヴァンパイアの説明に、確かこうあったはずだ。

 ヴァンパイアは物理能力値はMPの絶対値に依存する。また、ゲーム内での結婚時、同種族以外との結婚の場合、自分よりも相手の方が上のLvでない場合は子供の能力にペナルティが付く。

 

 そしてプレイヤーが消えてからの1000年で、数が減ってしまったヴァンパイアたちは種を残すため他種族と混じりあい続けた結果、ペナルティに次ぐペナルティを受け続けて弱くなりすぎてしまったようだ。


「……つまり兵として使えるのは、最初に言った5万だけ、ということですね?」


 初めに確認しなかった私のミスだが、想像以上に相手との差が開きすぎてしまった。

 

「……」


 私は静かに思考を巡らせた。

 魔王である私に、最高レベルであるべんけい、それにトリトンとミリーゼ。この4人が参加すれば戦争自体には最終的には勝てる。

 ただその場合はかなりの数を撃ち漏らしてしまう。


「(エリスリーゼ~ さっき言ってた仕込みは?)」


 ミリーゼが小声で話しかけてくる。


「(仕込みは完了しています。ただ、このままでは発動するか少し怪しいのです。せめてもう少し相手にプレッシャーを与えないと……)」


 今回の仕込みの肝は相手がこちらに対してプレッシャーや恐怖を感じないと意味がない。さすがに20万対5万では相手にプレッシャーや恐怖を与える以前に舐められてしまい、仕込みが無意味になってしまう。


(人が大きな恐怖を感じるとき……)


 視線の先は自然とレドルへと向いた。

 

(レドルが変わったのはサンタリアと私たちの戦闘を見たため。なら私が敵軍に大魔法……ダメですね。私の呪い系では大軍相手ではそこまで効果がないです。なら、べんけいが暴れて……これも無理ですね。いくらべんけいでも一人では一度に相手どれる数は限りがあります)


 理想は視覚や聴覚、触覚で恐怖を煽ることのできる存在。あのサンタリアの巨体のように分かりやすいくらいがちょうどいい。


(何か……何か……)


 私が必死に思考を巡らせている中、会議が進まないのを見かねたべんけいがかじ取りを行い会議を進めていた。

 そして兵士に装備させる武具をこちらで用意することをクライスに伝え、ミリーゼが見本を並べていた。


「は~い。とりあえず~、これがサンプルね剣に槍~、それと~弓。あとは~軽鎧に、革鎧~。あとあと~……」


 次々よミリーゼが装備の見本を並べていく。

 並べられている装備は一般兵向けの装備ではあるが、Lv250という高レベルの錬金術師であるミリーゼが造った装備だ。並みの装備では歯が立たない性能を誇る。

 現実逃避するように思考が脇に逸れていたその時、ミリーゼがある物を取り出した。


「それと~魔導師用の杖~」


それを見た瞬間、私はあるアイテムを思い出した。


「それです!」


 私は大慌てで会議室を飛び出していった。


 

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