表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形姫魔王物語  作者: ムロヤ
二章 魔王暗躍?
30/37

珍騒動(下)

お久しぶりです。

かなり更新が途絶えてしまい申し訳ありません。

「うふふふ♪」


 視線の先にいる痴女と言ってもいい変態は、何が楽しいのか、とても清々しい表情で楽しそうに微笑みを浮かべながら、まるで自分こそがその場所の主であるとでもいうように堂々と歩いている。

 その姿を男が見たのなら、それだけで虜にされそうだが、同じ女である私からすればドン引きするぐらいにはいろいろとさらけ出し過ぎていた。

 倒さないといけないモンスターではあるが、できることなら全力で関わりたく無いと考えていた。


「あはは〜、りっぱな変態さんだね。 お姉さんはあんまり関わりたくないな〜」


「私も同意見ですね」


 ミリーゼが苦笑いしながら漏らした言葉に、私も全力で同意した。


「あうあう。エ、エリスリーゼ様! な、なな、何ですか、あの人は!?」


「ぴよーぴよー!!」


 一人と一匹にとっては見たこともないモンスターであることと、常識では考えられない姿に二重の意味で衝撃を受けたせいか、リジュとシャモが私の足下でスカートの裾を掴んで震え上がっていた。


「落ち着きなさい。あれは夢魔というモンスターです。こちらから攻撃しなければ女性・・には無害です」


 私はリジュとシャモを安心させるように、優しく頭を撫でてあげた。


「で、でも、何だかいろいろ見えてます!」


「確かにいろいろ見えていますけど、見なければ問題ありませんよ」


「あはは~さすがにそれは無理じゃないかな~」


 ただ無駄に存在感のある夢魔の存在を無視するのは少し無理があったようで、ミリーゼが苦笑しながらそう言って、未だに廊下を移動している夢魔に視線を送る。


「あれ~? なんだかこっちに向かってきてるように思うんだけど~」


「き、来てます」


 ミリーゼとリジュの言葉通り、夢魔は踊るなどの無駄な行動が目立っていながらも、迷いなく私たちのいるこの部屋に向かって来ている。

 そして私は夢魔などの一部のモンスターにだけある特異性を思い出した。


「確か夢魔などの一部モンスターは、特定の存在しか襲わない代わりに、襲う対象の位置が分かる能力があったはずです」


 私がそう言うと、ミリーゼとリジュの視線がある一点に集中した。

 その視線の先には先ほどこの部屋に転がり込んできたトリトンがいる。べんけいがダークエルフ達を連れてレベル上げに行ったというのなら、城にいる男の数はそう多くない。

 その結果、あの夢魔は現在トリトンをターゲットにしているのだろう。


「はあ。トリトンが魅了されて城で暴れられては堪りません。私が処分してきます」


 私はそう言って部屋の扉を開けた。

 部屋から出てきた私に気が付いたのか、夢魔はこちらに視線を向けてくる。だが夢魔が男性をターゲットにしている間は、女性に対しては攻撃しない限り敵対しないため特に戦闘態勢を取ったりはしていない。


「あはは~がんばれ~」


「が、頑張ってください! エリスリーゼ様!」


「ぴよ~!!」


 後ろの方からミリーゼとリジュ、そしてシャモの応援が聞こえる。


呪弾カースブレッド


 私がそう唱えるともはや見慣れたコールタールのような黒い球体が夢魔へと向かって放たれた。


「ぎゃああああああ――――!!!」


 呪弾を受けた夢魔は魔法ダメージに加え、呪いの状態異常による追加ダメージにより悲鳴を上げた。


「あら、さすがは夢魔の最上級。魔法に対する抵抗力はかなりのものですね」


 ダメージとしては最弱である呪弾だが、魔王である私が放った魔法ものなら大概のモンスターは即死するが、さすがに最上級ともなるとまだかなり余裕があるようだ。

 まるで仇敵を見るかのような眼つきで私を睨みつけてくる。


「きしゃああああ!!!」


 猛獣の鳴き声のような声を上げ、夢魔が完全に私をターゲットとしてロックした。そして夢魔の周囲に詠唱陣が出現し、夢魔の口から呪文が聞こえてきた。


「あはは~、呪文の詠唱って久々に聞いたな~」


「ですね! 僕も久々に聞きました!」


 後ろの方で暢気な話しをしているミリーゼとトリトンを無視し、詠唱中の夢魔に向かって私は走り出した。そして手が届く位置まで一気に距離を詰め、問答無用で魔法を放つ。


封じの呪い(カース・シール)


 魔法が正しく発動し、私の中から大量のMPが消費されるのを感じた。

 

 【封じの呪い(カース・シール)】は対象のMPの使用を禁止する呪いで、この魔法を喰らった場合は呪いを解くまでMPの使用ができなくなる。

 ただし使用するには相手に直接触れ、なおかつ相手の現在のMPと同じ量のMPを消費するため、相手のMPが多い場合は今回のように大量のMPを消費してしまう。


「あぁ? あ?」


 私の魔法が発動すると夢魔の身体に黒い紋様が浮かび上がり、先ほどまで行っていた詠唱が強制的に中断され、夢魔が戸惑いの声を上げている。

 

「確か夢魔は死ぬ間際に【魅了の断末魔】を使って、かなりの広範囲の人を魅了の状態異常にしましたね。ですが、【封じの呪い(カース・シール)】を受けたあなたはもう魔法を使うことはできません。さようなら」


呪弾カースブレッド


「がぁああああああ――――!!!!」


 もう一度呪弾を打ち込むと先ほどよりも大きな悲鳴を上げる夢魔。


「流石に呪弾だと威力が弱すぎですね」


 あまり城を壊したくはないのでできる限り低威力の魔法を使っていたが、結果的にそれが夢魔を苦しませてしまった。

 この夢魔自身は特に悪さをしたわけではないのでこれ以上苦しませては可愛そうなので、私は次の魔法で終わらせることにした。


憎悪の剣(ヘイトレッド・ソード)


 私が魔法を発動すると手元に一本の大剣が現れた。

 その大剣からは禍々しいオーラが溢れ、剣の側面には生き物の血管のようなものがドクドクと脈打っている。自分で出したものだが想像以上に不気味な剣だ。


 【憎悪の剣(ヘイトレッド・ソード)】は呪術師の魔法には珍しくダメージ重視の魔法で、対象が呪いの状態異常ではないとターゲットにできないという条件があるが、かなりの攻撃力を持っている魔法だ。 

 

 呼び出された【憎悪の剣】は2発の【呪弾】によって弱り切っている夢魔を獲物と定めると、クルリと一回転し凄まじい勢いで夢魔へと突き刺さり、その勢いのまま城の壁を突き破って外へと飛んで行った。


「……壁が壊れてしまいました」


 夢魔が飛んで行った方角から微かに断末魔のようなものが聞こえた気がしたが、私にはそんなことよりもこの壊れた壁の修理をどうするかの方が頭の大半を占めていた。


「あはは~派手に壊れたね~」


「すぐに修理できますか?」


 期待を込めてミリーゼに視線を送るが、彼女は首を横に振った。


「ん~、この城の素材って加工が面倒だから、少し時間が掛かるかな」


「そうですか。城を壊さない様に注意してたのですが、さすがにあれ以上いたぶるのは趣味ではないので……」


 私がそう言い訳すると、ミリーゼは笑っていた。


「あはは~。こっちも見ててあれ以上はね~。魔法の見た目のせいもあって、かなりあれだったよ。リジュちゃんとシャモなんてドン引きしてたし」


 身内にドン引きされたと聞かされた私は、さすがにショックだった。

 まあ、呪術師の魔法は見た目もおどろおどろしいので、私も立場が逆ならきっとドン引きしていただろうから、リジュ達を責めるつもりはない。


「そ、そんなことありません! エ、エリスリーゼ様はお優しい方です!」


「ぴよ!」


 リジュはそう言って一生懸命フォローしようとしてくれていた。シャモもおそらくリジュに賛同しているのだろう。ペットは飼い主に似るというが、良い部分で似てくれてうれしく思う。


「僕はちょっと引きました! ぐほっ!?」


 とりあえず全ての元凶であるトリトンを殴っておいた。

 私の場合、魔法の能力にステータスを集中しているので物理攻撃は強くはない。むしろ弱い部類だが、トリトンの種族も物理的に強いわけでもないため、腹部に突き刺さった私の右ストレート(怒りの鉄拳)にトリトンが悶え苦しんでいた。

 それを見て少しは溜飲が下がった。


「……そうですね」


「どうしたの~? エリスリーゼ。何か思いついたの?」


 溜飲が下がり冷静になった私が考え事をしていると、疑問に思ったのかミリーゼが顔を覗き込んできた。


「はい。いい機会ですから、現状と昔でのアイテムの相違点を洗い出そうかと考えていました。今回の件はそれが原因で起きた側面も大きいと思うので」


 今回の件は確かにトリトンの不注意もあるが、その根幹は私たちプレイヤーのアイテムに対する認識が原因だ。

 昔のゲームだった時代の考え方でアイテムを使用していたが、今はこの世界が現実だ。ゲームでは使用可能な場所と不可能な場所がシステムによって保護されていたが、この世界にそのシステムがあるのかと言われても私には分からない。

 ならシステムそのものがないと考えて行動するほうがいい。

 本来ならもっと早く確認しておくべきことだったと後悔した。


「確かにそうだね~。それじゃあどこで試す?」


「中庭にしましょう。リジュ、ロンダルに伝えてください。私が許可するまで中庭への出入りを禁ずると」


 私が安全面を考慮しリジュにそう伝えると、リジュは元気に返事をして部屋を出て行った。


「トリトンは今回の罰として、ターゲットが必要なアイテムの的になってもらいます」


「ええぇ!? 僕、的ですか!」


「あはは~、諦めなよ」


 私とミリーゼがトリトンの両脇をがっちりと固め、どこぞの宇宙人のように中庭へと連行していった。



 中庭へとやってきた私たちは、早速自分たちのアイテムボックスの中からゲーム時代は一部のイベントでしか使えなかったクエストアイテムや、戦闘中のみ使用可能なアイテム、味方には使用できなかったアイテムなどを取り出した。


「まずは戦闘用のアイテムから試しましょう」


「そうだね~。それじゃあ爆弾類からいこうか」

 

 私とミリーゼはそれぞれ爆弾類のアイテムを手に持った。


「僕はどうして突き立てた丸太に縛られてるんですか!?」


 中庭に来てすぐに拘束されたトリトンが身体を揺すって抗議の声を上げる。


「的ですから当然です」


「あはは~ごめんね。まあ、死にはしないと思うから、我慢してね」


 私はトリトンの講義には取り合わず、着々と実験の準備を進めていく。

 爆弾類を最初に、次は状態異常類に回復類、フィールド専用にイベント専用と様々なアイテムを分類し並べる。

 アイテムの中には幾つかネタアイテムなども混じっていた。

 

「トリモチ……」


「あはは~、懐かしいね。確かぶつけるとトリモチで動けなくなるんだっけ?」


「はい。あと食べるとHPがかなり回復します。ですが―――」


 トリモチで動きを封じるまではまだいいが、これを考えた運営のスタッフは何故かこれを食べ物にも分類している。

 そのためこのアイテムには投げると食べるの選択しがあるが―――。


「食べると口が開かなくなり、魔法が使えなくなります。しかも24時間」


「……なんでそれが食べ物なのかな~」


 ゲーム時代試しに食べた友人がいるが、食べ終えた後は一日中口が開かずに「んー! んー!」と唸っている姿を目撃した。


「どうしましょうか」


「どうって~?」


「いえ、使い道が二つあるので投げるべきか食べさせるべきか悩んでいます」


「そこはせめて投げてください!」


 私の提案にトリトンが投げるの選択肢に懸命に一票を投じてきた。


「あはは~、さすがに可哀想だからそのトリモチは勘弁してあげようよ」


「冗談ですよ。さすがの私も後に残りそうなトリモチ(これ)を仲間に投げたりしません」


 冗談のつもりで言ったのだが、トリトンにもミリーゼにも本気で使うと思われていたようだ。さすがに心外だ。そこまで外道ではない。

 少し頭に来たので無言で〈ニードルボール〉通称雲丹(うに)を手に取って、それを動けないトリトンに投げつけた。


「あいたぁああ!! 痛いです! めっちゃ痛いです!! 刺さってます!」


「あはは~いたそ~」


「さあミリーゼ。どんどん逝きますよ。たまに回復も忘れずに」


 私はミリーゼにもアイテムを持つように促し、次のアイテムを手に取った。


「ノオォォォ!! なんか逝くの発音がおかしいです!」


 その後しばらくの間、中庭にはトリトンの絶叫が木霊していた。



「……何してんだ?」


 いつの間にか中庭にやってきていたべんけいが、私たちの状況を見て何とも言えない表情で周囲を見渡していた。


「べんけい。帰ってたのですか?」


「あ、お帰り~」


「……きゅぅ」


 私は状態異常類のアイテムを手に持ち、ミリーゼは回復類とイベント専用のアイテムを手に持ち、トリトンは丸太に縛られ気絶している。

 この状況を見てさすがにべんけいも若干引いた表情をしている。


「本当に何してるんだ?」


「あはは~、トリトンにちょっとお仕置してるところ~。ついでに実験も兼ねてた」


 ミリーゼがいろいろな部分を省略して現状を端的に説明した。

 まあその説明で間違ってはいないので、私も特に訂正はしない。


「流石に惨いからそろそろ許してやれよ」


 確かに少しやりすぎた感はあるので、べんけいにもそう言われてはこれ以上続けるわけにもいかない。私達はトリトンを縛っている縄を解いた。


「それよりもレベル上げにしてはずいぶん時間が掛かりましたね」


 空を見上げるといつの間にか日が沈みかけていた。ずいぶん実験に熱中してしまったようだ。


「ああ、それについても報告だ。レベル上げの途中でダークエルフの集落を見つけてな。こちらの事情を説明したら、ここに住みたいという者がかなりいた」


「あら、そうですか。それで連れてきたのですか?」


「いや、まずは許可を取ってからと伝えてきた。ついでにその集落の近くにもいくつか集落があると聞いたから、そちらも回って移住希望者がどれだけいるか把握していた」


 べんけいはそう言って移住希望者の人数をまとめた紙を渡してきた。

 

 ざっと目を通すと集落ごとに希望者を分けていて読みやすくまとめられている。

 集落の数は全部で8つ。

 そしてそれぞれの集落から半数以上が移住を希望している。

 その中で希望職ごとに分けられ、名前の横に年齢まで記載されている。

 ついでに回ったにしてはかなり細かくまとめられている。 


「よくこれだけまとめましたね」


「このくらいは別段大した手間じゃないから気にするな」


 本当に大したことではないのか、べんけいは普段と変わらない口調でそう言った。

 相変わらず驚きの有能さだ。

 

「……問題ありません。彼らの移住を許可します」


「了解。明日護衛隊を編成して準備を整えたら、明後日の朝に出発する。ついでにこれは医務室に放り込んでくる」


 べんけいはそう言って気絶しているトリトンを担ぎ上げて、そのまま城内に入っていった。


「ミリーゼは護衛隊に必要なアイテムなどを見繕ってください。私たちもそろそろ仕事をしましょう」


「あはは~、りょうか~い」


 息抜きも終わったことですっきりとした私たちは、それぞれの仕事に取り掛かるため、持ち場へと向かって歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ