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人形姫魔王物語  作者: ムロヤ
二章 魔王暗躍?
21/37

準備

 バルディオは《人形の庭》へと無事に潜入を果たした後、一先ずは自分に与えられた家へと向かった。

 家の中には品の良い家具が一通り揃えられており、それを見た彼は今日何度目になるかわからない驚きを覚えていた。


「おいおい、家具まであんのかよ。おまけに魔導式のランプまで……これだけでも売れば一財産だぞ? どうなってんだよこの国は?」


 魔導式のランプは街灯ほど珍しい訳ではないが、それでも普通の家に置いてあるような代物ではない。普通に考えればこの魔導式ランプを勝手に売買する輩が現れても不思議ではない。

 それからバルディオがさらに家の中を探索していくと、次から次へと高そうな代物が笑えるくらい出てきた。

 まずは驚くほど透き通ったガラス製のコップや、銀のような色合いのフォークやスプーン、それにナイフ、さらに陶磁器の食器類などが次から次へと現れる。


「……これがタダだと? この国の王は頭がイカれてんのか?」


 バルディオはこれらの品物を見て、この国の王の正気を疑った。


「まあいい。相手が正気かどうかは俺様には関係ねぇしな」


 グウゥゥゥ


「あ~、そういやぁ、何日か碌なもん喰ってねぇな」


 バルディオは父親から手形を渡された後、すぐに国を出る形になり碌な準備をしている暇がなかった。なにせ手形を持っている移住組の出発までの日数が、かなり短かったからだ。

 そのため彼は一般人に見える服装に着替え、怪しまれない程度の路銀を持ち、慌てて《グライスドア》を出発し《ナハティア》の集合場所へと潜入した。

 そしてそこから集団での移動のため、5日間ほどの時間を掛けてこの《人形の庭》へとやって来た。その間の食料は《ナハティア》の軍から支給されてはいたが、大柄なバルディオにはいささか量が足りなく、ここ数日は空腹を常に感じていた。


「まずは飯だな。たしか先行組がいくつか店を出してるとか言ってたな」


ここに来るまでの間の道中で聞いた話しを思い出した彼は、持ってきている路銀を確認すると家を出た。


「たしか飯屋はあっちだったな」


街に入ってから家までの途中に食堂を見たバルディオは、記憶を頼りに歩いて行く。


「ここか」


しばらく歩いていくと、彼の視線の先に目当ての店が見えてきた。

その外観は見るからに大衆向けの店だった。ただ彼はそんな店へと迷うことなく入って行った。


「いらっしゃいませ! 銀麦亭へようこそ。お一人ですか?」


ウエイトレスの1人が元気に迎えてきた。

そんなウエイトレスに対して、バルディオは慣れたように注文を伝えた。


「おう。適当におすすめと、黒エールを」


本来、一国の将軍という地位を持っているバルディオだが、その性格のため豪華な美食などよりも、安くて早くて美味いという庶民的な物を好むため、彼はこの大衆向けの店を選んだ。


「お前の家はどうだった?」


「すげぇぜ! あんな高級そうな家具見たことねぇよ!」


「うちもだったぞ。家内なんか泣いて喜んでた。あんな家、俺たち平民には本当なら一生縁がないはずだったのによ」


 バルディオは注文をし終えると、情報収集も兼ねて店にいた先客達の話しに耳を傾けた。話しの内容はどれも同じようなもので、家がすごい家具がすごいと彼の抱いた感想と同じものだった。


「本当にすげぇんだって! 俺、貰った店見て腰抜けたんだぜ?」


「ガハハ! 何だよそれ?」


 そこへ新しい客がやって来た。

 片方の男は、バルディオがこの街に入った当初に話しかけてきた男で、彼は自分がもらった店の設備がいかに凄いかを一緒に来た男に語りかけていた。


(家だけじゃなく店の設備も相当な物らしいな)


 会話の端々から聞き取れる内容から、バルディオはそう判断した。


「あ! でもよ、家の中に元からある物を持ち出そうとすると、いつの間にか無くなっちまうんだよ。それで元の場所を見ると、さっきまで持ってたはずの物が戻ってるんだ」


「ああ、それ俺もだ」


(なに? 持ち出せない? まさか家そのものがなにかしらの魔導具なのか!?)


 男達の会話から新たな情報が入ってきた。

 家の中に元々ある物を持ち出そうとすると、いつの間にか消えてしまうという情報だ。これは家その物がゲーム時代の名残のせいで、家と家具がセットで一つの扱いになっているため元からある物を持ち出せないのだ。

 だがそんなことを知らないバルディオは、街にある家そのものが魔導具ではないのかと疑っていた。


(魔導具は魔力がないと動かないのに、どっからそんな魔力を持ってきてんだよ?)


 バルディオは戦慄していた。

 仮に何かしらの魔力の供給源があるとしても、街全てに供給できるなど、それがどんな物なのか予想もつかない。

 またそんな供給源がないのなら、他の可能性としては所有者から魔力を受けていることになる。だがバルディオが家にいる間には、魔力を吸われたような感覚はなかった。


(まさか魔王が街全体に魔力を供給してるってのか? んな馬鹿な)


 バルディオは全く見当違いな勘違いをしながら、一人背筋に冷たい物を感じていた。


 そんな彼の思考を遮るかのように、店の入口の方からざわめきが伝わってきた。


(なんだ?)


 バルディオは思考を中断し、店の入口へと視線を向けた。


(んなっ! 獅子の獣人だと!? 絶滅したはずじゃ……)


 店に入ってきたのは三人だった。

 一人は獅子の獣人の男性。

 もう一人は小人族の女性。

 最後にその二人を率いるように先頭を歩く驚くほど整った顔立ちの少女だった。


 バルディオは混乱の極みにいた。

 まず彼がもっとも驚いたのは獅子の獣人だった。

 獅子の獣人は1000年前にその血筋は途絶えたとされ、現在では一人も存在しないと云われている。

 そして獣人達にとって獅子の獣人とは1000年前には《竜王》と《狼王》の側近として仕えており、その強さも相まって伝説的な存在として語り継がれていた。 

 そんな風に驚きで動きを止めている間に、その3人はテーブルへとつき注文を始めていた。


(落ち着け! 今は情報を集めるしかねぇ。とりあえずあの集団は何なんだ? 冷静に考えて、まず魔王と無関係じゃないな)


 バルディオはなんとか冷静さを取り戻し、不自然さが出ないように努めながら獅子の獣人と一緒にいた二人の観察を始めた。

 だが次の瞬間、彼は今まで感じたことがないような悪寒を感じた。


「っ!!」


 それは二人を率いて店へと入ってきた美しすぎると言っていいほど整った顔立ちをした少女を見た瞬間だった。

 思わず声が出そうになったバルディオは、その強靭な精神で何とか声を抑えた。

 ただその背を見ただけで彼の勘が、今まで感じたことがないほどの警鐘を大音量で打ち鳴らし始めたのだ。

 獣人としての優れた感覚と、幾多の戦場を潜り抜けたことで培われてきた彼の第六感ともいうべき感覚が、その少女を見た瞬間に鮮明に死を連想させた。


(やばい! あれは魔王だ!)


 何の証拠もないままに、バルディオは目の前の少女こそが自分が調査しに来た存在(魔王)だと確信した。

 そしてそれと同時に、自分が何をしても魔王あれには勝てないことも悟ってしまった。


(本当に復活してやがった! あれはマズイなんてもんじゃねぇぞ。あれが魔王だとすると、一緒に来た二人は魔王の部下か?)


 最後の一人である小人族の方にも視線を向けた。

 小人族特有の小柄な体躯ではあったが、バルディオはあの小人族もかなりの強さを持っていることを何となくではあったが感じ取った。


(……3人で国を落す。あの3人なら可能だろうな)


 バルディオは万が一見つかることを考え、さっさと料理を片づけると金を置いていそいそと店を後にした。



「うふふ」


「なんだよ? 突然笑い出して」


「エリス~。お姉さんはそういうのは怖いと思うよ?」


 私が突然笑い出したことに若干引き気味の二人はそんなことを言ってきた。

 ただ私としては笑わずにはいられなかった。

 何せ自分で立案し密かに実行している計画が、今のところは驚くほど順調に進行しているのだ。よく悪役が上手く作戦が進むと高笑いをしているが、今ならその気持ちがよくわかる。

 これは笑いたくなってもしょうがない。


「いえ、それよりもべんけいは気が付きましたか?」


「ん~? 今の男か?」


「え? 何が~? お姉さんまた仲間外れ?」


 やはりと言うべきか、べんけいはこういった状態でも周囲に気を配っていたようで、先ほど出て行った男についても気が付いていたようだ。


「うふふ、その通りです。今はまだ内緒ですけどね」


「「うわ~、悪い笑顔」」


 私がそう言って人差し指を立てて笑顔を向けると、二人は同時にそう言った。

 失礼な。


「内緒って言われても、俺の方は念のためあの男を張ってるぞ? いくらなんでも無視はできないしな。街の治安を任されてるんだから念には念を入れるぞ?」


 大丈夫だとは思っていても、念には念を入れてしまう性格のべんけいはそう言った。

 彼は元の世界では自分のことを社畜と言っていたが、ひょっとするとこの性格のせいでいろいろと頼られたり、自分でいらない苦労を背い負込んでいたのではないかと思えてくる。


「かまいません。ただし、手は出さないでくださいね? おそらくは数日で居なくなるはずですから」


「お姉さんは~仲間外れ~。寂しいからべんけいの肉を奪う!」


「あ! こら! 返せ! とりあえず了解だ。って、だから返せって!」


 私の指示に納得してくれたべんけいはミリーゼに奪われた肉を取り返そうとしながら、私にそう返してきた。


「それで大丈夫です。ありがとうございます」


 べんけいも納得してくれたことを確認した私は、残りの料理を片づけることにした。



 月が一番高くにまで上った真夜中に、私は城から抜け出していた。


「もう少し先ですね」


 私は音も立てずに民家の屋根から屋根へと移動し、目的の場所を目指していた。

 

「ここですね」


 ようやく目的の家を見つけた。

 私は目を閉じてその家の中に昼間では赤表示されていたが、今は緑表示となっている人物がいることを確認した。

 そして不自然なほどにこの一帯だけに、住人が誰もいないことも確認する。 


「うふふ、【蔓延る恐怖(フィアー・スプレッド)】」


 私はそんな住人に対してある魔法を使用した。


「さあ、準備は整いました。これからどうなるか、とても楽しみです。うふふ、ふふふふ」


 誰も聞いていない空に向かってそう言い放ち、私は漏れ出す嗤いを抑えることができないままに夜の闇へと紛れて行った。



唐突ですが、読んでくださっている皆様にご質問です。

現在この作品は予告等はなしで更新をしていますが、更新予告などを活動報告で出した方がいいでしょうか?

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