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人形姫魔王物語  作者: ムロヤ
二章 魔王暗躍?
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散策

「街に行きましょう」


 いつものようにミリーゼとべんけいを部屋へと呼び、夜の密会をしている最中に私はそう宣言した。


「いきなりだな」

 

 べんけいはその何の前触れもない宣言に、呆れていた。


「たしかにね~。でもお姉さんは賛成かな~」


 その彼とは対照的に、ミリーゼはそれはいい考えだと言わんばかりの笑顔で私の意見に賛成票を投じてくれた。


「いきなりではありません。前々から考えていたことですよ? ようやく移住に区切りが付いたのですから、住民が馴染んでいるのかを確認するのは王の務めです」


 私は恥じることなどないと、堂々とそう言った。


「本音は~?」


「折角ですからリアルなファンタジーを見に行きたいです」


 ミリーゼの絶妙なタイミングで入ってきた質問に、私はあっさりと本音を漏らしてしまった。


「はぁ~」


 それを聞いたべんけいは予想通りという表情で、いつもと同じように溜息をついていた。

 

「あはは~! でもお姉さんもエリスリーゼと同じかな? こう、酒場でがやがやしてる住民とかさ~」


「別に行くなとは言わないけど。二人が期待してるような状態ではないぞ?」


 べんけいの言葉に私とミリーゼは首を傾げた。

 彼の言い方だと、まるで街まで行って様子を確認してきたような言い方だった。


「べんけいは街に行ったの~?」


「行ったのですか?」


 私たちはべんけいへと詰め寄って問いただした。


「行ったぞ? というか、俺は外に出る時には街を通るだろ。あとは帰りにも通らないといけないからな」


 私とミリーゼは声を揃えて「ずるい」と口にした。


「ずるいってな……」


「お姉さんに街の話しを詳しく」


「私にも聞かせてください」


「抓るな! 痛い! わかったから!」


 仕方がないこととはいえ、私たちが行きたいと思っても我慢していた街に一人だけ行っていたべんけいに、二人で罰を与えながら街の様子を話すように強要する。

 さすがに高レベル二人の抓るはかなり効いたようで、べんけいは耳と尻尾の毛を逆立てて降参した。


「よろしい! さあ、お姉さんに聞かせなさい」


「街はどんな感じですか?」


「街はどんなって言ってもな、まだ移住してきた奴のほとんどが職人か商人だ。そのせいで、店は多いのに買い物客がいないってのが今の状態かな? だからほとんどは開店準備になってるぞ」

 

 確かにべんけいの言う通り住人の移住は職人か商人を優先させていた。そのせいで今の街は店はあるのに、それを買いに来るお客が少なく寂れた印象になってしまったようだ。


「そうですか……残念です。それと早急になんとか対策を立てた方がよさそうですね」


 街に住人が増えたとはいっても、街の大きさに対して移住してきた人が少ないため、まだまだ寂れた状態なのは残念だった。だがそれ以上に大変なことがあるようなので、私は頭を切り替えた。

 このままでは折角、この街に来てもらった職人や商人が破産してしまうかもしれない。


「いや、そこまででもないぞ。そもそも人のいない場所ってのは、クライスが伝えていたようだからしばらくは赤字覚悟で大手の商会が出て来たり、一人で出てきた若い職人達はその商会が囲って面倒見てくれて、うまくやってるみたいだったぞ」


 私の考えを読んだかのように、べんけいは現状は急いで対処する必要がないことを教えてくれた。

 

「ああ。クライスもその辺のことはしっかり理解してるから、移住についてはあいつに任せて問題ないと思うぞ」


「なんかさ~? べんけいってクラっちと仲良いの?」


「クラっちってなんだよ。まあ……数少ない男友達って感じだな」


 いつの間に仲良くなったのか、どうやら私たちの知らないところで交流があるようだ。

 まあよく考えてみると、次のヴァンパイアの王として城で育てられ、気軽に付き合える同性が居なかったクライスと、この城ではダークエルフ達に様付で呼ばれて、落ち着かないべんけいが週一回のペースであっているのなら、仲良くなっても不思議ではない。


「なぜか知らないけど気が合うんだよな。あとクライスってシスコンなのかな? なぜかいつも妹の話をするんだよ」


 べんけいは照れ臭そうに笑ってそう言いながら、クライスのよくする話題に首を捻っていた。


「……埋められてる?」


「埋められてますね」


 私とミリーゼはその一言で通じ合っていた。


「? 何がだ?」


「なんでもないよ~」


「ええ。なんでもありません」


 べんけい。それはきっと、あなたとルナリアをくっ付けるために、あなたの頭に彼女のことを刷り込もうとしていますよ。

 

「あっと、そうだ。街の話題からそれたな」


「いえ、面白いお話が聞けたので構いません。それに、やはり自分の目で見てみたいのです」


「お姉さんも~。と言う訳で、明日行ってみよ~!」


 こうして私たちは明日、街へと出ることが決まった。



「どれがいいかしら?」


 今日は街へと行く日で、もうすぐミリーゼとべんけいがやってくる時間なのだが、私は支度ができずに非常に困っていた。

 

「お姉さんが来ましたよ~」


「起きてるか?」


 悩んでいるうちに、とうとう時間になってしまったようだ。

 部屋の扉越しにミリーゼの陽気で元気な声と、いつも通り落ち着いたべんけいの声が聞こえてきた。


「起きています。ただ少し支度に手間取ってしまっています。入って待っていてください」


 城の中とはいえ、部屋の前で待たせておくのは気が引けるため、私は二人に入室を促した。


「は~い。お邪魔す……きゃああああああ!!?」


「どうした!? ……んな!」


 ミリーゼは部屋に入り私の顔を見るなり大声で悲鳴を上げ、その悲鳴を聞いたべんけいも慌てて部屋へと入り、私の顔を見て絶句している。


「なんですか? 淑女レディの顔を見てする反応ではありませんよ?」


 二人の反応に私は少しムッとして答えた。


「めめめめ……目が……ない。エリスリーゼ~! 目がないよ~!?」


「……」


 二人は私の顔に指を指してそう言ってきた。


「目ですか? ええ、無いですよ。……ああ! 二人は知らないのですね」


 そこでようやく私は二人の驚いている理由に気が付いた。 

 

「アバターには専用装備がありますよね? 獣人なら爪、小人なら小槌など。私の人形アバターにとって目が専用装備それに当たるのですよ。装備ですから当然外せますし、別の物を付けることもできます」


 そう言って私は一番近くにあったルビーの瞳を手に取り、おもむろに自分のぽっかりと空いている眼孔に押し込めた。


「「うわっ」」


 その光景を見ていたミリーゼとべんけいが、なんとも言えない表情でそんな声を漏らした。


「どうですか? 赤い瞳です。似合いますか?」


 ルビーの瞳をはめ込んだ私はいつものアメジストの瞳の時とは違う瞳で二人を見つめた。


「いや~、似合うかどうか以前に……お姉さんにはちょ~っと刺激が強かったかな~?」


「似合うとは思うが、出来れば瞳の無い状態は見たくなかったな」


 ミリーゼは引き攣った顔のままそう言い、べんけいは一応は似合うとは言ってくれたが、その表情はミリーゼと大差ないものだった。


「その反応は失礼すぎませんか?」


「え~、今のはかなりトラウマものだよ~」


「なまじ顔立ちが整いすぎてるから、余計にホラーだった」


 まあ、初めて自分でこの装備を交換した時は私も似たような感想を持っていた。

 なのでその気持ちは分からなくもなかったが、他人ひとにここまで言われると地味に傷ついてしまう。


「エリスリーゼ~? ひょっとして、ちょっと怒ってる? ごめんね」


「すまん」


 表情に出てしまったのか、二人は私の方に頭を下げてきた。


「もういいですよ。ちょっと頭にきましたけど、私も初めは自分でもちょっと引きましたし」


 素直に謝られたのでは、これ以上怒るわけにもいかないため私はそう言って二人の謝罪を受け入れた。


「それよりも相談に乗ってください」


「いいよ~!」


「なんだ?」


「こっちのルビーの瞳とサファイアの瞳……どちらがいいと思いますか?」


 私は支度で困ってしまった原因を二人に見せた。

 

「今日は曇り空ですから、合わせるなら雨を連想させるサファイア()がいいと思うのですが、逆にこういった天気だからこそルビー()で気分を盛り上げようかとも思うのです」


 この二つは装備としての性能は変わらないため、どちらを付けるかは完全にその時の気分によって決まる。そして、今はどちらも捨てがたいと考えた私は出かける時間になっても支度ができていなかったのだ。


「お姉さんとしては、いつもの紫色がいいかな~」


「今日はお忍びということになるのですから、それはダメです。お忍びなら変装は必須です」


「俺がいる時点でばれてるから……というか、まだ一度も顔を見せたことがないのに変装も何もないだろ?」


「私の気分の問題です。それと街にいる間はエリスと呼んでください」


 ミリーゼとべんけいの消極的な意見を、私は一刀のもとに切り捨て、街にいる間の呼び方を二人に伝えておいた。

 

 結局どちらも選べない私に、ミリーゼは「もう両方でいいよ~」という一言を投げてきた。そしてゲーム時代にはなかった二つ同時装備を思いついた私は、試しに右と左にサファイアの瞳とルビーの瞳をはめ込んでみた。

 驚いたことに、私の両目には何の抵抗もなくその二つがはまり、見事オッドアイが完成した。

 こうして私は二人が訪ねてきてから1時間以上の時間を掛けて、ようやく出発の準備が整った。



「う~ん……なんだかお姉さんの思ってたのと違うな~」


 ようやく街に出たのはよかったのだが、街に出てみるとミリーゼの言うように想像していたものとはだいぶ違っていた。

 

「そうですね」


 まず第一にヒトが入ったというのに、街中にはヒトの姿がまったく見当たらない。


「だから言ったろ?」


 たしかにこの光景を見せられてしまっては、べんけいの言葉に納得するしかなかった。ただ、折角ここまで来たのだからこのまま何もせずに帰るというのは、なんだか負けてしまった気がする。


「あっ! エリス! あそこのお店は開いてるみたいだよ!」


「本当ですか? 行ってみましょう」


 どうやらミリーゼが開店している店を見つけたようで、道の先にある一店を指さした。

 私たちはその店を目指して移動を開始した。

 

「お~い、待てよ」


 べんけいはそんな私たちの姿を見ながら、後ろからゆっくりと追いかけてきた。


「ここは……食堂でしょうか?」


「ん~お姉さんには宿に見えるかな?」


 店の前に着いた私たちは、その店を見上げそこが何の店なのかを考えた。

 ミリーゼの言う通り建物はゲーム時代の宿をそのまま使っているが、店の中から漂ってくるいい香りを嗅いでいると、どちらかと言うと食堂に思える。


「ここは一応は宿だよ。ただ今は宿泊客がいないから、昼と夜に食堂として開店してる。ダークエルフたちがよく利用してる」


 追いついてきたべんけいはそう言って、目の前の店について説明してくれた。


「じゃ~レッツゴ~」


「そうですね。そろそろお昼ですし、ここで食べていきましょう」


 べんけいの説明を聞いた私たちは、早速お店へと入っていく。


「いらっしゃいませ!」


 お店に入ると、ウエイトレスをしている女性店員が元気な声で出迎えてくれた。

 店内には私たち以外にも数名の御客がいた。


「お~! 雰囲気がいいね~」


「ええ。これぞファンタジーといった雰囲気です」


 私とミリーゼは雰囲気のある店内に感動し、キョロキョロと店内を見回した。

 ただそんな私たちの反応に、ウエイトレスは困ったような表情で固まったままになってしまった。


「すまないな。三人だからテーブルを頼めるか?」


「あ、べんけい様。えっと……こちらになります」


 私たちがそんな状態の中、べんけいはウエイトレスと知り合いなのか、何やら謝罪を入れながら席をお願いしていた。


「ほら二人とも、行くぞ」


「は~い」


「分かりました」


 べんけいに促された私たちは素直に彼の後に続いて、案内された席へとついた。


「ご、ご注文は?」


「う~ん? エリスはどうする?」


「そうですね……べんけいは何にしますか?」


「俺? そうだな、飛兎フライラビットのシチューと一角猪ホーンボアのステーキ、あとは黒麦のパンを頼む」


 べんけいはそう言って慣れた感じで注文をした。


「ならお姉さんは~、飛兎フライラビットと白麦のパンをお願い~!」


「なら私も彼女と同じ物をお願いします」


「はひ! 少々お待ちください! 父さん!!」


注文を受けた少女は、慌てて厨房へと駆け込んで行った。

その様子を見て、私とミリーゼは首を傾げていたが、べんけいは少女のことを気の毒そうに見送っていた。


「どうしたのでしょうね?」


「何だか慌ててたね〜」


「当たり前だ。二人の格好を見たら、誰だってああなる」


べんけいにそう言われて、私達は自分の格好を見降ろした。だがそこにあるのは、いつもよりも少しシンプルなゴスロリ服に身を包んだ自分の身体だった。

ミリーゼも同じようなもので、いつものメイド服ではなく、私と同じようなゴスロリ服身を包んでいた。


「何かおかしいですか?」


私のその質問に、ベンケイは溜息を吐いて答えた。


「周りを見ろ。そんな見るからに上等な服着てる奴はいないだろう? 要するに、かなり場違いに見えるんだ」


言われて周囲を見渡すと、確かに他のお客と比べてかなり浮いていることに今更ながら気が付いた。

初めて街を見られるということに、思っていた以上に舞い上がってしまっていたようだ。

よくよく周りを見てみると、周囲のヒト達もチラチラとこちらを盗み見ている。


「お、お待たせしました!」


そんな風に反省をしていると、ウエイトレスの少女が、器用にお盆に料理を乗せてやって来た。


「ありがとうございます。どうやら私達が驚かせてしまったようですね。申し訳ありませんでした」


「ええ!? そんなこと無いです! べ、べんけい様のお知り合いなら当然です!」


何が当然なのかは分からないが、べんけいの知り合いということで、納得されているようだ。


「そうですか。それよりも、今の言い方ですと、べんけいはよく来るのですか?」


「はい。3日に2度くらい」


城でのべんけいの口振りでは、そこまで頻繁に街のお店には来ていないように言っていたが、どうやら私達には内緒で街を堪能していたようだ。

これは後で問い詰める必要がありそうだ。

ミリーゼもその事に思い至ったのか、べんけいをジト目で見ている。


「ずるいな~」


「そうですね。一人で街を堪能するなんて、ずるいですね」


私達にジト目で睨まれたべんけいは明後日の方へと視線を泳がせ、自分の一言でこの何とも言えない空気が生まれたと思っているウエイトレスの少女はオロオロとしていた。


「これは今日はべんけいの奢りかな〜」


「それはいい考えですね」


「もうそれでいいよ」


べんけいへの罰が決まったところで、私達は料理が冷めないうちに頂くことにした。


余談だが、飛兎の肉は大味な鶏肉のような味なのに、肉の柔らかさはマシュマロみたいに柔らかくとても癖になりそうだった。

ほのぼのとした日常を書いてみました。


飛兎のイメージは耳が大きな羽で、高くジャンプした後、パラグライダーのように滑空して移動するモンスターです。

雑魚なのでよく狩られて、煮込まれて食べられます。

煮込むほど柔らかくなり、シチューなどの具に最適です。

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