見つけた
「さてと、これからどうしようかしら?」
私は意味もなく部屋の中でバレリーナのようにクルクルと回りながら考えていた。
そしてここが本当に魔英伝の世界なら、スキルや魔法があることに気がついた。
「くすくすっ。そうね、魔法かしら。せっかくだから試してみないと」
本当の魔法を使えるかもしれないと気が付いた私は、回るのを止めてさっそく試してみることにした。
そしてゲーム時代にこのアバターに覚えさせたスキルや魔法に、何があったかを思い出そうした。
すると頭の中に自分が使えるスキルや魔法がリストとして浮かんできた。ステータスは見れないが、習得した魔法やスキルは忘れることはないようだ。
「う~ん、どうしようかしら。……ここはやっぱり小手調べで、一番弱いのかしら?」
使う魔法を決めた私は、右手を銃のように構えて何もない壁に向かって魔法を放った。
【呪弾】
パンッ!
軽快な音とともに壁を指していた私の指の先から、どす黒くおどろおどろしい塊が放たれ、壁に激突しベチャッと音を立ててはじけ飛んだ。
「……相変わらず嫌なエフェクトね」
呪弾は生きる無機物や死霊系統のモンスターが使う初級魔法で、威力は魔弾系の魔法で最弱だ。だが威力と引き換えに、命中すると高確率で呪いの状態異常にかかるという効果がある。
呪いということもあって運営が見た目にこだわり、今のようなコールタールの塊のようなものが出る魔法になってしまった。
「使い勝手はいいけど、見た目が優雅ではないのよね」
使った魔法の感想は微妙になってしまったが、どうやら魔法やスキルは問題なく使えるようだ。
本当ならもっといろいろ試してみたいが、やっぱり魔法は戦闘で使いたいので今は我慢することにした。
「次は、城の探索かしら?」
探索とはいえ城は自分でデザインしたものなので、どこになにがあるかはわかっている。
なのでまずは本来ならいるはずの城内のNPCを探すことにした。
だがほこりの積もり具合から見てもかなりの間、人が立ち入っていないように感じ、少しだけ無駄なような気はしていた。
私は城内を歩き回りながら、あることに気がついた。
「う、動きにくいわね」
どうやらゲームの時とは違い、五感補正が存在しないため、私自信がこの体をうまく動かせないようだ。
とくに長い距離を歩いていると、違和感が大きくなりよく転びそうになってしまう。
「はぁ、やっと中庭についたわ。……って草だらけじゃない!」
中庭についた私の目に飛び込んできた光景は、まるでジャングルのように草木が生い茂った中庭だった。
私はショックのあまりその場にへたり込んでしまった。
「そんな……、あんなに頑張ってデザインした中庭が……」
この城を作る際に外装に内装、そして中庭のデザインには特に力を注いだ。
それがせっかくこの世界に来ることができたのに、見るも無残なジャングルとなっている。
私は目の前の光景にかなりショックを受けていた。
「くぅっ、また作り直しね。……まあいいわ。それよりNPCだった人たちもいないのね」
城の中を見回ったが人影はおろか、人がいた形跡すら見当たらなかった。
これ以上城の中を探し回っても何もないと思った私は、城の外にあるはずの街に行ってみることにした。
私は中庭を後にし来た道を戻り、正門へと向かっていった。
「うん、だいぶ慣れてきたかな」
廊下を歩きながら私は徐々に馴染んできた体の感触楽しんでいた。
もともとゲームのときから使っている体なので、馴染むのにはそこまで時間はかからなかったようだ。
そうしているうちに正門に到着した私は、正門に手を当て開こうと押してみたが、門はびくともしなかった。
「あれ? 鍵が掛かってる」
鍵は私と数人しか所持していないので、誰が鍵を掛けたのか気になるが、とりあえずアイテムボックスから鍵を取り出し門の鍵を開錠した。
「……アイテムボックスは普通に使えるのね」
使った後に気がついたが、どうやらアイテム関係もスキルや魔法と同じように残っているようだ。
ガガガガァ
重厚な門は重苦しい音を立てながら、ゆっくりと開いていった。
そして門の外には、ゲームで仲間たちと発展させていった街が広がっていた。
ヒュゥゥゥ~
「……誰もいない。どうしたのかしら?」
確かに街は所々古くなってはいるが、ほとんどはゲームの時と変わらない状態で健在だった。
だがそこは人が一人もいないゴーストタウンと化していた。
あまりの光景に私は寂しさを覚え始め、その場に座り込みそうになってしまった。
カタン
その時、物陰から何かが落ちる音がした。
私が音のした方を振り向くと、一瞬だけ人影のようなものが見えた。
「……誰かいるのかしら?」
「―――っ!」
タタタッ
物陰にいた人影は、私に気づかれると慌てて走り去っていった。
【追跡】
私は去っていく人影に向けて、スキルを使った。
追跡は視界内の対象に掛けると、一定時間はその対象の位置がわかるスキルだ。
「ふふ、あの子はきっと人のいるところに逃げるはず。なら後を追えばきっと人がいるはずね」
私は笑みを浮かべながらゆっくりと、そして優雅に立ち上がり追跡の掛かった対象を追っていった。
・
・
・
side???
「はぁっはぁっ……。」
私は全力で森の中を走っていた。
いつもの日課で古都の隅に群生している薬草を取りに行っていたが、いつもと違い、何故か今日は鳥や虫の声が聞こえなく不思議に感じていた。とはいえ、獣の気配がするわけでもなく、危険はないと判断した私はいつも通りに薬草の採取をしていた。
「な、なんで、お城の門が開いて、それにあの女の子は?」
そんなとき古都の中心にあるお城から、大きな音が聞こえてきて気になった私は覗きに行った。
そしてそこには信じられないほど美しい少女が座っていた。
少女を見たときまるで女神のようにさえ見えたが、なぜか身体の芯から震えが湧き上がってきた。
私は訳が分からないまま、その場を走り去ってしまった。
「お、おばあちゃん!」
「おやおや、そんなに慌ててどうしたんだい?」
村まで走ってきた私は、大慌てで家に戻りおばあちゃんに飛びついた。
おばあちゃんは震える私の身体を優しく抱きしめ、優しい口調で問いかけてきた。
「おや? 婆さんに甘えるとは……リジュもまだまだ子供だのう。どうしたんじゃ? まさか魔物でもでたんか? かっかっかっ。」
声のする方には年老いたダークエルフの老人が立っていた。
彼はこの村の村長のロンダルさんで、村で一番物知りなおじいちゃんだ。
「そ、村長! あの! 大変なんです!」
「これこれ、落ち着かんか」
「そうそう、いったいどうしたの?」
二人が私に落ち着くように頭を撫でてくれた。
気持ちが落ち着いてきた私は、先ほど見た光景を話し始めた。
「こ、古都のお城から女の子が出てきたの。すっごく綺麗で女神様みたいなのに、でも見ているとなんだかとっても怖くなって……私、急いで逃げて……」
私が先ほど見たことを話していると、おばあちゃんは首を傾げるだけだったが、村長の顔がどんどん険しくなっていった。
「リジュよ。その少女はどういう容姿じゃった!」
村長が突然私の両肩を力いっぱい掴み、身体を揺さぶってきた。
「そ、村長、あの痛いです」
「お、おお。す、すまぬ」
私がそう言うと村長は正気を取り戻し、私の肩から手を放した。
「それで、そ、その女の子は……」
私が女の子のことを語ろうとしたとき、外から先ほど聞いたばかりの声が聞こえてきた。
それはまるで高価な宝石で作られたようにさえ感じる、とても澄んだ美しい声だった。
「うふふ、見つけた」
外には整った顔立ちに、雪のように白く透き通る肌、銀月の光が降り注いでいるような流れる銀の髪、宝石のような澄んだ瞳、そして華奢な体を黒いドレスで身を包んだ少女が顔に笑みを浮かべながら優雅に立っていた。