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人形姫魔王物語  作者: ムロヤ
一章 魔王誕生?
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エピローグ

 ヴァンパイアの国を支配下に置いてから2週間がたった。

 私は宣言通り、ヴァンパイアの国にはあまり干渉はせず、何かで読んだ「君臨すれども統治せず」を体現していた。

 そして今もこうして、女5人でティータイムを楽しいでいる。


「ミリーゼ様が入れてくださった紅茶は、本当においしいです」


「ん……おいしい」


「ふふ~ん。お姉さんにかかればこんなものよ」


「ミリーゼが作ってくれた、このクッキーもとてもおいしいですよ。リジュも遠慮することないですよ」


「あ、あわわ! わ、私がこんなところに居ていいのでしょうか!?」


 テラスへと来る途中で、私たちに捕まったリジュはガチガチに緊張したままカップを持つ手が震えていた。

 本当はべんけいも誘ったのだが、彼は「無理」と一言だけ言ってどこかへ行ってしまった。


「それにしても、本当にのどかですね」


「姉様……クッキー取って」


「はい、ローレ。あ~ん」


「リジュちゃんも! あ~ん!」


「ミ、ミリーゼ様!?」


 ミリーゼがリジュをからかいマカロンを持った手を彼女の前に持っていき、「あ~ん」と差し出している。あれはリジュが食べるまで、絶対に引かないつもりだ。

 リジュの方は困り果てて、顔を真っ赤にしながら慌てふためいている。


「ふぅ」


「エリスリーゼ? どうかした~? 悩みならお姉さん聴くよ~?」


 私がこぼした溜息を聞いたミリーゼが、そんなことを言ってくる。


「いえ、悩みと言うほどではありません。ただ……ここ少し暇が続いてるので、そろそろ何かイベントが欲しいと思っただけです」


 ここ最近ののどかな時間も楽しかったのだが、そろそろ飽きてきてしまったのだ。

 やはりここはどこか他の国に攻め込むという案を真剣に考えていた。


「ん~……でも、エリスリーゼが街に移住するヒトがもう少し安定してからの方がいいって言ったんでしょ~」


「それはそうなのですが……暇なのです」


  ミリーゼが言ったように、今は街が安定して住民達が落ち着くまでは大人しくしていようと提案したのは私自身だ。

 だがクライスに依頼した移住者の募集は、私が思っていた以上に多くのヒト達が希望してきたのだ。

 クライスの話によれば魔王である私の御膝元とも言える《人形の庭》は、言うなれば常に私の庇護下にいるということを意味し、いつか起こるか分からない戦争から身の安全を図るために移住を希望するヒトが最も多い。

 

 次に多いのが職人や商人だ。

 利に聡い商人は新たな市場の開拓のために、まだどこも進出していない大きな街というのは非常に魅力的なのだそうだ。

 今はまだ住人が少ないため、こちらに進出してきても赤字にしかならないが、将来性を考えるのなら今から店を構えたいよ言う。


 そして職人の方は、比較的若い職人が多く希望しているそうだ。

 その理由は、昔からそこに店を構えている古参の職人が住んでいると、新しく店を出そうとしている職人にとっては大きなハンデとなってしまうため、若い職人もまだ誰もいない大きな街である私の元へ来ることを希望しているということらしい。


 クライスの元へ移住を希望する申し込みが殺到した。

 そして彼の方もすべての申し込みを受け入れては国が傾く恐れがあり、かと言ってどうでもいい人材だけを出しては私や商人達の不興を買ってしまうため、慎重に選抜をしながら送り出しを行っている。

 その結果、私が予想していた以上に移住には時間が掛かってしまっている。

  

「それにしても、いったいどれだけ移住してくるのでしょうか?」


「さぁ~?」


 私とミリーゼには大規模の移住というのは無縁であるため、いったいどれだけのヒト達が移住してくるのかも想像つかない。


「おそらくですが……現状は多くても3千前後ではないでしょうか?」

 

 そんな私たちの疑問にルナリアが答えてくれた。


「そうなの~?」


「思ったよりも少ないですね」


「潜在的な希望者はかなりの数になると思います。ですか、全てを移住させるわけにもいきません。その上、移動させるにも最初から大量に移動させては物資などが追いつかなくなってしまいます。ですから、お兄様は段階的に移住を進めていくつもりなのでしょう」


 ルナリアはそう言って私たちの質問に答えた。


「そうですか。確かにすべてを移住と言う訳にはいきませんね」


「だね~」


 その答えには私たちも納得できた。

 

「それよりも、ルナリアは政治に詳しいのですか?」


「詳しいと言うほどでもありません。ただ……お父様が伏せられて外交で国を開けている間はお兄様に代わり、わたくしが内政担当しておりましたので」


 なるほど。 

 未熟な分は兄妹で補いながら国の運営をしていたようだ。


「むぐむぐ……あれ~? でも、それじゃあルナリアをここに連れて来たら、大変なんじゃない?」


 ミリーゼはクッキーを食べながら、ルナリアにそう尋ねた。


「それは問題ないと思います。お兄様が外交で国を開けていた理由の多くは、《ナハティア》と同規模の二国と隣接しているせいです。仮にこの状態で戦争が起こってしまいますと、挟撃される可能性が高く敗北は必至です」


「そういうことですか」


「どういうこと~?」


 私は納得した。

 そこに私という魔王が加わったことで、現状が大きく変わったのだろう。

 奇襲とはいえたった三人で国を落すような存在が支配しているのだ。おそらくはクライスの元には他国の間諜が居り、そこからその情報も伝わったのだろう。

 

「それなら最近多くなった侵入者の数にも納得です」


「はい。おそらくはエリスリーゼ様の保有する戦力の調査に訪れたのでしょう。……まさか誰一人として生きて出られないとは思いもしなかったでしょうけど」


「私は何もしていませんよ?」


 私はそう答えた。

 確かに侵入者については気が付いてはいたが、私としては放って置いても問題はないと思っていた。だが侵入してきた対象をべんけいが文字通り嗅ぎ付け、見つけたそばから捕らえてきてしまう。

  

「そういえばさ~、最近はべんけいが捕まえてくるヒトも減ったね~」


 捕まったヒトたちはミリーゼの実験体になってしまったため、ミリーゼは少し残念そうにそう言った。

 なぜミリーゼが実験などしていたかというと、彼女曰く魔法やアイテム、果てはスキルまでが元のゲーム時代とは若干の違いがあるそうだ。

 魔法やスキルはその辺のモンスターに使えばいいが、アイテムになると少し事情が変わってくる。

 

 例えば忘却薬という薬がある。

 これは本来スキルポイントで覚えたスキルを忘れ、スキルポイントに還元するためのアイテムだったが、この世界ではそれを飲んだ者はスキルだけでなく、数日の記憶まで忘却してしまう。

 モンスターに使ったのでは記憶の忘却という付属効果を知ることはできなかっただろう。

 こういった違いがあるために、ミリーゼは日夜実験に励んでいる。


「そうですな。普通に侵入するのでは無理だと悟ったのでしょう」


 私は次はどんな方法で侵入してくるヒトがいるのか、実は内心で少し楽しみにしていた。

 

「そういえばべんけい様は今日はいらっしゃらないのですか?」


 ルナリアが少し頬を染めながらべんけいの姿を探していた。


「むむ! お姉さんの勘がラブを感知したよ~!」


「……惚れましたか?」


「姉様は助けられたとき意識有った」


 私とミリーゼがじーっとルナリアを見ていると、先ほどまで我関せずだったローレが爆弾を落とした。

 それで私たちは納得した。

 あのヘルマンの腕に握られていた時、意識がないように見えてはいたが辛うじて意識があったようだ。

 そしてその時に颯爽と救出を行った、べんけいの姿を目撃したのだろう。


「ち、違いますよ? わ、ワタクシはそんな?」


 ルナリアは目に見えて動揺し、言葉遣いまでおかしくなってしまっていた。


「ふふ~ん」


 そんなルナリアの様子にミリーゼがニヤニヤしながら視線を送る。


「ミリーゼ。そういうことは当事者同士で話すことですよ?」


「……エリスリーゼ様もミリーゼ様と同じ顔」


 一応はミリーゼを注意したが、ローレがこちらを見ながらそう言ってきた。

 だが仕方がない。

 他人の恋バナほど気になるものは早々ないのだから。


「さあさあ! お姉さんにくわ~しく聞かせてごら~ん!」


 ミリーゼに詰め寄られ、タジタジになっているルナリアの悲鳴がテラスに響き渡った。



「おい! 親父オヤジ!」


「なんだ騒々しい。少しは静かにできんのか?」


 品のある調度品で飾られた部屋で書類に目を通していた初老の男性の元へ、扉を蹴破って一人の青年が入り込んできた。


「うるせぇ! それよりもだ! あの国王デブがまた間諜を送れってうるせぇんだよ!」

 

「またか……。それとバルディオ、デブではなく国王と呼べと何度も言っておろう」

 

 初老の男の名はガイラス・ローマス。

 獣人の王が総べている《グライスドア》の宰相を務めている。

 

 そしてその彼を父と呼ぶ青年は、バルディオ・ローマス。

 若いながらもその実力を買われ《グライスドア》の将軍の一人。


「それにしても……またか。国王は随分とヴァンパイアの第二王女にご執心のようだな」


「けっ、女の追うために不帰かえらずの街に部下を送るこっちの身にもなれってんだ」


 バルディオを今にも唾を吐き捨てそうなほど表情でそう言った。

 

「不帰の街か……。かつての《人形の庭》には多くのヒトが行き来していたと伝え聞くがな」


 ガイラスは眼鏡の位置を直しながら、かつて読んだ文献のことを思い出す。


「どうだかな。あの《呪われた大地》を作った魔王の街だぜ? その伝承が本当なのか怪しいところだ」


 バルディオを近くのソファーにドカッと座ると、足を組んでつまらなそうにそういった。


「確かに伝承の正確性など図りようがないが、今回は単純に何者かが妨害していると考えた方が正しいだろうな」


「はっ! 俺様が把握してるだけでも他国と合わせて相当な数が入ってるのにか? 仮にそうだとしたら、あちらさんは相当な戦力だぜ?」


 本来はべんけい一人ですべてを捕まえているのだが、さすがにそんなことができる存在がいるなど信じられないバルディオは、《人形の庭》にかなりの戦力が存在していると勘違いしていた。


「だが聞いた話では、ヴァンパイアの国はたったの三人で占領したという話だぞ?」


「んなもんデマに決まってる。そんなことができんなら、軍の存在意味がねぇ」


 軍の一部を預かるバルディオとしては、国という物を落すのがどれほど大変なことかは身に染みて理解している。だからこそ今の報告が入ってきたとき、報告に来た奴の正気を疑った。

 だがそんな報告の中に魔王という単語が見つかった時、その報告を聞いていた全員に緊張が走ったのも真実だった。

 魔王の伝説はこの国にも多く残っている。そしてこの三人による征服とくると、その存在を無視できないという者も多く現れていた。


「魔王ね……本当にいると思うか? 親父?」


「知らん。それを調べるのがお前の仕事だ。……これを受け取れ」


 バルディオの質問を切り捨てると、ガイラスは一枚の金属板を投げ渡した。


「? なんだこれ?」


「《ナハティア》から《人形の庭》へと移住するのに必要な手形だ」


 ガイラスは事もなげにそう言った。


「おいおい。なんで親父がそんなものを? 俺様の部下でも手形こいつを手に入れられなかったのに……」


「ふん。私とてそれなりの草を持っているだけだ。だがあるのはそれ一枚だ」


「……つまりは絶対に帰って来れる奴が行けってことか?」


 バルディオはガイラスの意図を察していた。

 つまりは堂々と《人形の庭》へと侵入できるというなら隠れて行動する理由が減る。ならばあと必要になるのは確実に帰って来れる実力が必要ということになる。


「俺様が行けと?」


「今あの国に流れている人材の多くは若者だ。それにヴァンパイアの国と言っても、ずべての住人がヴァンパイアと言う訳ではない」


 ガイラスはそれだけ言って机にある書類を手に取った。


「……面白れぇ」


 バルディオは獰猛な笑みを浮かべながら立ち上がった。

 そしてそれ以上は何も言わずにガイラスの執務室を後にした。


「……扉くらい締めて行け。馬鹿者が」


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