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人形姫魔王物語  作者: ムロヤ
一章 魔王誕生?
16/37

完了

「それにしても……あの醜さは、かなり気持ち悪かったですね」


 私は今しがた倒したばかりのヘルマンの姿を思い出し顔を顰めた。

 あの時のヘルマンは、唯々肥大したように体中がブヨブヨで、ヘルマンが動くたびにブルブルと全身が震えていた。

 もしもこの先、光の陣営が同じようなことをすると、私はこれからもあのブヨブヨの怪物を目にしないといけないのかと思うと憂鬱である。


「いやいや、気にするところが違うだろ。醜いのはとりあえず置くとして、それよりもまず気にするのはなんであんな姿になったかだろ?」


 べんけいが呆れた顔をしながら、そう指摘してきた。

 

「分かりました。たしかに、あの醜さは思い出すのも嫌ですしね」


「なんか違うんだけどな。まあ、いいか」


 べんけいは「何かズレてるな」とブツブツと言っていたが、私は気にすることなくローレの方に向き直った。


「ローレ? あれは本当にヘルマンという男だったのですか?」


「ん……間違いない。でも、あそこで太ってなかった」


「確かに、あれはヘルマンだった。それは私も保障しよう」


 私の質問にローレだけでなく、クライスも同意した。

 

「そうですか。……べんけい。この先にヒトの気配はありますか?」


「ない。多分誰もいない」


 つまりこの先にはヘルマンが指示を受けていたという、光陣営の男はいないということになる。

 これはどう考えても、ヘルマンがその男に利用され、最後には男が逃げるまでの時間稼ぎの捨て駒にされたと見て間違いはないだろう。


「べんけいはどう思います?」


「ん? まあ、普通に考えて素捨て駒かな? ただあのヘルマンの姿は尋常じゃなかった。あんなのは今まで見たこともない」


 べんけいはヘルマンの姿を思い出しながら、少しでも似たようなモンスターはいなかったかと必死に記憶を探っていた。

 そもそもヒトがモンスターになるなど聞いたことも見たこともない。


「この状況ですと、ヘルマンの部屋を探しても何も出てこないでしょうね」


「だろうな。でも当初の目的である侵略と、穏健派の排除は済んだんだから上出来なんじゃないのか?」


 確かにべんけいの言うとおり、イレギュラーは有りはしたが当初の目的はすでに済んでいる。これ以上の成果を求めるのは、少し欲張りすぎかもしれない。


「それもそうですね。と言う訳です。この国は今を持って私の支配下になります。今後は私の指示に従ってください」

 

 私はクライスの方を向きながら、笑みを浮かべてそう言った。

 その際に私の手の中では畳まれた《無数の悪カウントレス・ヴァイス》が、その存在を主張していた。


「……わかっている。ただ……この国を明け渡す前に、私たちの父に会ってもらいたい」


「構いませんよ」


 会わなかった所で問題はないが、逆に言えば会ったからといって不都合があるわけでもない。そのため私はクライスの要求を二つ返事で了承した。


「そうか。ならばこちらだ」


 クライスは気絶したままのルナリアを抱きかかえ、私たちに背を向けたまま先行していった。


「私たちも行きましょうか」


「了解」


 私たちはそのクライスの後について行った。



 しばらく城の廊下を歩いたが、なかなか目的の場所へと到達しない。


「まだですか?」


 私は足をブラブラとさせながらクライスの背中に語りかけた。


「もう少しだ」


「先ほどもそう言いましたが?」


「……てか、なんで俺はエリスリーゼを肩車してんだ?」


 べんけいは本日何度目か分からない溜息をつきながらそう言った。

 先ほどまではしっかりと自分の足で歩いていたが、途中から同じ景色ばかりで歩くのにも飽きた私は、べんけいの肩に飛び乗りそのまま肩車の状態で移動を開始したのだ。

 最初は抵抗してはいたべんけいだったが、何度もトライする私に根負けし最後には諦めて、大人しく私を乗せたまま移動をしていた。


「とても楽です」


「いや答えになってないぞ?」


「私は軽いですよ? 人形ですから」


「いや軽いけどよ……そうじゃなくてな」


「……べんけいの耳がピコピコ動いてます」


「や、やめろよ? 触るなよ?」


 べんけいは焦ったようにそう言ってきたが、今のはひょっとして振りというやつなのだろうか。

 私は一人で今のは振りだと判断し、目の前でピコピコ動いている耳を両手で片方ずつ捕まえた。


「―――っ! おわぁ!? 触るな!」


「……ビックリしました。突然どうしたんですか?」


「突然耳を触るからだろが!」


「いえ……振りかと思いましたので」


「振りって何のことだよ!?」


「それよりなぜそんなに耳が嫌なのですか?」


 私は首を傾げながらべんけいに質問してみた。

 いくらなんでも今の反応は耳を触られたにしては、反応が大げさすぎる気がする。


「くすぐったいんだよ。なんか脇腹をくすぐられた時みたいに」


「そうなんですか?」


「そうだよ。だから触るな」


 べんけいはそう言って自分の耳をペタンと畳み、獅子の鬣のような髪の中に耳を仕舞い込んだ。


「残念です」


 先ほどまで耳がピコピコと動いている光景が面白かったので、それがこうして完全に見えなくなってしまうと名残惜しさがある。


 私たちがこんなやり取りを続けていると、目的の場所に到着したのかクライスは扉の前で停止した。


「ここだ」


「ん……ここは? お兄様。それにローレも」


 ちょうどその時、タイミングよくクライスに抱えられたルナリアが目を覚ましたようだ


「目が覚めたかルナリア。一人で大丈夫か?」


「はい。それよりも……ここは一体」


「本当はルナリアとローレをここには連れてきたくはなかった。だが、こうなっては仕方がない。二人とも……何を見ても気をしっかりと持ちなさい」


 それだけ言うと、クライスは抱えていたルナリアを床に立たせると、鍵を取り出して開錠した。

 

「ずいぶんと厳重ですね」

 

 私はクライスの背中を見ながらそう言った。

 ここまで来るのに城の中をかなり移動した上に、私たちは階段を上るのではなく下ってきた。

 いくら自分たちの父親が病気だとは言っても、このように暗くジメジメした地下の一室に、鍵まで掛けて隔離するのは不自然すぎる。

 おまけにここに連れて来られたとき、ローレはここの存在を知らなかったような反応をしていた。そして今も、ここに父がいると聞き驚いていた。


「仕方がないのだ。……これから見せる光景を見れば、なぜこのようなところに父上を閉じ込めているのかを理解して貰えるだろう。では……開くぞ」

 

 クライスはそう言って、扉に手を掛けた。その表情には何やら覚悟を決めたような、あるいは諦めたかのような、あるいは両方の感情が見え隠れしていた。


 キィィ


「おいおい」


「まあ」


「そんな!」


「……と…う……さま?」


 扉が開くと、そこには異形としか言いようのない物体が存在していた。異形は全体として見れば木のような形をしていたが、その所々には枝の代わりに無数の手や足、目や耳が生え、それらが部屋に入ってきた私たちのことを捉えた。だがその異形をより異形足らしめている要因があった。 

 その異形の物体には先ほどのヘルマンの時と同様にヒトと判別できる顔が存在し、その顔を見たローレはあの異形を父と呼んだのだ。


「これはさっきのヘルマンとかいうのと同じと判断していいのか?」


「そうですね。ただ、先ほどよりも雰囲気があっていいと思います」


 私は目の前の異形を見て、そう評価した。


『……クライスか? 先ほどから城内に強大な魔力を感じるが、何が起こっている? それになぜルナリアとローレをここに連れてきた』


 目の前の異形は先ほどのヘルマンとは違っていた。

 言葉こそ聞き取りづらいものの、しっかりと疑問を口にし、その瞳には知性を感じる。どうやら彼はあの姿になってしまっても、しっかりと理性が残っているようだ。


「父上、勝手なことをして申し訳ありません。ですが、現在この国は魔王によって征服されてしまったのです。この国はこれから大きく変わってしまう可能性があります。そのためにも、ローレたちにも真実を知ってほしかったのです」


『魔王だと? 何を馬鹿な。あの方々がお隠れになって1000年も経つのだぞ? それが今さら』 


「あら? 馬鹿なこととは失礼ですね」


 私は異形とクライスの会話に割って入った。


『む? 何者だ?』


「先ほど紹介された魔王です。初めまして」


 私は異形の前まで行くと、スカートの裾を摘まみあげ挨拶をした。


『……まさか! 人形姫!?』


 異形は私の姿を見ると、ゲーム時代の私の二つ名を口にした。


「あら、驚きました。私を知っているのですか? 私の姿を見てその名が出てきたヒトは初めてです」


 ロンダルは元から私の城にいた存在であるため私を知っているのは当然なので除外すると、私のこの姿を見ただけで人形姫の名を口にしたのは目の前の存在が初めてだった。 

 そのことに私は驚きを感じていた。


『おぉ! その御姿! 忘れるわけはあり得ません! 我はかつて、あの《呪われた大地》が生まれた戦場で、あなたの元で戦った者の一人です』


 異形は昔を思い出し興奮しているのか、あちこちから生えている手足や目が忙しなく蠢いていた。

 

「ああ。あのときの戦場にいた一人ですか」


 おそらくはあの時に大量に雇ったNPCの傭兵か何かだろう。

 あの時は友人の集まりも悪かったため、普段はしないようなNPCでの軍団を作り出しての戦いだった。


『ええ! 今でも昨日のことのように思い出します! あの時の圧倒的なあなた様のお姿を!』


「そうですか。それにしても、まさかその時の一人が王となっているとは、驚きました」


 私はただ純粋に驚いたのでそう口にしただけだったが、目の前の異形は私のいない間に勝手に国を作ったことを咎められたと思ったのか、覚悟を決めた表情で私に語りかけてきた。


『そのことに関しては申し開きもありません。魔王様方が帰還するまでの留守を守ろうと思い、国を建てたはずが、今では自分こそはなどとふざけた貴族たちにいい様にかき回されてしまっております。そして今ではこのような姿にまで……』


「ひょっとして、私の支配領域である《アライラ》に人があまり立ち入った形跡がないのは……」


「父上があの地を不可侵の地と定め、何があろうとそれだけは徹底していたのです」


 私の疑問にクライスはそう答えた。

 なんでもクライスの父は私の領地である《アライラ》への立ち入りには重い刑罰を定め、例えそれが王族や貴族であっても必ず罰していたという。


「そうでしたか。それは感謝いたします。そして今までご苦労様でした」


『勿体なきお言葉。そのように言っていただけるのであれば、我もこのような姿になってまで生きた買いがあります。ですが……もう思い残すことはありません。これでようやく楽になれます』


 クライスの父は何か重い荷物を下ろしたかのような、憑き物が落ちた穏やかな表情でそう言った。


「そうですか。楽になる前に一つお聞きしたいことがあります。その姿は何が原因か分かりますか?」


『残念ながら』


「ならいつ頃からそのような姿になり始めたのですか?」


『……記憶が曖昧ですが、我がこうなり始めたのは穏健派の動きが活発になり始めた頃だと思います』


 それを聞いたこの場の全員が、ヘルマンに付き従っていたという光陣営の者の存在を思い浮かべた。

 穏健派の動きが活発になり始めたのは、ヘルマンが公爵になってから。

 そして先ほどのヘルマンの姿と、クライス達の父の異形化。

 それら全てが、そのヘルマンに付き従っていた男が現れたのと、時を同じくして起こり始めている。


「偶然ではないですよな?」


「まあ、だろうな。ヘルマンが現れたのに、そいつの姿が見えないって時点で完全に黒だろ」


 私とべんけいはその男については警戒が必要なのではないかと考えた。

 ただ武力で攻めてくるだけならいくらでも対処はできる。だが今回のような内側から来られてしまうと元の世界ではそんな腹の探り合いなどする機会などなかった私には、かなり厳しいことになってしまう。

 ましてや相手は私たちの知らない何か(・・)を持っているのだ。警戒しておくのは悪いことではないだろう。

 

「いずれは調べてみる必要がありますね」


「了解」


『うぅ……』


「どうしました?」


 クライス達の父が突然呻き声を上げた。


『最近は意識を保っていられる時間が短くなってきたのです。このままではいずれ、我の意識は眠ったままになるでしょう。今までは国のことが心配でしたが、その心配も今日で終わりです。クライス、お前は人形姫様にお仕えしろ。そして今後この国は全て人形姫様のものとする。よいな』


「はい」


『ルナリアもローレも……クライスを支えてやってくれ』


「はい。お父様」


「ん……わかった」


 三人は父親の言葉に頷いた。


『人形姫様、我の最後の願いです。どうか我が子らを使ってください。皆、優秀な子です』


「分かりました。悪いようにはしません」


『ああ、ありがとう…ござ…い…ま…す』

 

 もはや意識が保てないのか言葉は切れ切れだっが、クライスの父は最後にそう言った。そして最後の言葉を言い終えた瞬間に、目の前の存在は灰となって崩れ落ちた。

 

「安らかに眠りなさい」


 私はそれだけを言い残し、この部屋を後にした。


 

 そんな少しシリアスな雰囲気で部屋を出た私たちだが、ミリーゼの元に戻るとその雰囲気は木端微塵に砕け散った。


「お姉さんを崇めよ~!」


「「「「「おぉおおお!!」」」」」


 目の前では、どこから取り出したのか2mほどの台の上に上ったミリーゼが、小さな体をいっぱいに使い自己主張していた。

 そしてそのミリーゼの周りには、先ほどまで倒れていた兵や騎士たちが、そんなミリーゼを見て歓声を上げていた。その光景はどこぞのライブ会場のような、異様な熱気に包まれていた。 


「「「「……」」」」


 私たちはその光景に、思わず絶句してしまった。


「あ! エリスリーゼ~! おかえり~」


 台の上にいるミリーゼは、私たちの姿を確認するとこちらに手を振っていた。

 そしてその姿を見た兵や騎士たちは、またも歓声を上げて、もはや収集が付かなくなっていた。


「クライス様! それに姫君たちもご無事で!」

 

 そんな中、一人だけ話の通じる相手がこちらにやって来た。

 騎士団の団長であるガルド・リージュだった。


「ガルド……これは何事だ?」


「それが……ミリーゼ様が、傷ついた者たちに高価な薬を惜しげもなく与えてくれた上、死んだ者すら蘇らせると云う伝説に語られる反魂結晶で生き返らせてくれたのを見て、兵たちの誰かが彼女を「女神様だ」などと言い出しまして、この有様です」


 ガルドは頭が痛いと言いたげに、こめかみを押さえながらクライスにそう報告した。


「ミリーゼの悪乗りが出てしまいましたね」


「だな」


 ミリーゼは昔から明るい性格で周囲の人を明るくさせる雰囲気と、その行動力で多くの人から好かれていた。 

 だがそんな彼女にはどうしようもない悪癖がある。それは彼女のテンションが上がりすぎると、その明るい雰囲気で、周囲にいる人たちを自然と惹きつけ、その行動力で彼女の雰囲気に惹きつけられた人を巻き込んで騒動を起こすことだ。

 傍から見ていると祭をしているようにしか見えないこの現象は、ゲーム時代の友人たちはミリ祭などと呼んでいた。


「皆さんとっても楽しそうですね」


「ん。皆、元気」


 すでにその祭りのような雰囲気に当てられたのか、ルナリアもローレもあの集団に混ざりたいのか、そわそわとしていた。


「これも何かのスキルか魔法ですか?」


 クライスが今の異様な状況は魔法かスキルによるものではないかと、真剣に考えだしていた。


「べんけい」


「了解。すぅ~~~っ……ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 ビリビリと空気が激しく震えた。

 

 べんけいの【咆哮】によって騒いでいた集団は水を打ったように静まり返り、中には驚きすぎて気を失っている者もいた。

 

「では、団長さん」


 私は近くにいたガルドにこの場を譲った。


「全員……持ち場に戻れえええええ!!!」


 先ほどのべんけいほどではないが、それでも十分に大きな声で命令された兵士や騎士たちは蜂の子を散らす勢いで全員がこの場からいなくなった。


「まったく。ミリーゼ! 少し遊び過ぎですよ?」


「あはは~。ごめんね~。お姉さん反省してるよ~」


 ミリーゼは手を合わせて「許して~」と何度も謝ってきたが、こんなことで彼女が懲りないのはゲーム時代に経験積みな私は溜息をつきながら「もういいです」と言うだけだった。


「それよりも準備はできてますか?」


 私は先ほどまでの大騒ぎで、ミリーゼをここに残した本来の目的を忘れているのではないかと心配になった。


「ん~? あっ! 大丈夫だよ! 準備完了してるよ」

 

 ミリーゼはサムズアップしながらそう言ってきた。


「そうですか、それならいいのです。それでは皆さん。行きましょうか」


「は~い!」


「了解。ほら、あんたたちも行くぞ」


 私が歩き出すとその後にミリーゼが続き、さらにべんけいがクライス達を引き連れて歩いてきた。

 クライス達はいきなりのことに戸惑いながらも、べんけいに促されるまま後を追ってくる。


「ここでいいのでは?」


 ある程度開けた場所へとついた私は、ミリーゼにそう言った。


「おっけ~! 《妖精の鈴(フェアリーベル)》起動! 目的地、《人形の庭(ドールガーデン)》!」


 ミリーゼは周囲の広さなどを確認した後、アイテムボックスから《妖精の鈴(フェアリーベル)》というアイテムを取り出しそう叫んだ。


「なっ!」


「こ、ここは!?」


 クライスとガルドは突然変わった周囲の景色に驚きの声を上げていた。


「まあ、素敵な建物ですね」


「ここ……エリスリーゼのお城?」


 ルナリアは天然なのか大物なのか、いきなり変わった景色に動じることなく、周りを見てそんな感想を漏らした。

 ローレはこの建物の風景に見覚えがあるため、首を傾げながらそう言った。


「ええ。ここは私の城です。ようこそ《人形の庭(ドールガーデン)》へ」


「これは……一体何が」


 まだ現状にあるのか、クライスは周囲を落ち気なく見回していた。

 ガルドはクライスほど動揺を見せはしないものの、完全には驚きを隠すことができずにいる。


「《妖精の(フェアリーベル)》です。妖精族か小人族だけが使えるアイテムで、一度登録した建物の中に自由に転移できるのです。今のはあなたの城から私の城へと転移しました」


 私が説明してもクライスとガルドは、未だに信じられないと言った表情でいた。

 そんな男たちに対して、ルナリアとローレは「すごい」などの褒め言葉をミリーゼに投げかけている。


「ミリーゼ。また悪乗りはしないでくださいね」


 また悪乗りされては面倒なので、早めに釘を刺しておく。


「それで……私たちをここに連れてきた理由をお聞きしても?」


「今から説明します。まず、あなたの国は私の支配下になりましたね」


 私がそう確認すると、クライスは迷うことなく頷いた。


「はい。父上からも国を興した理由を聞きました。その件に関しては依存ありません。ですが……できることなら民の生活はお守りください」


「心配は無用です。支配はしますが、直接どうこうするつもりはありません。国は今まで通り、あなたが運営してください」


 クライスとガルドは私の言葉が意外だったのか、理由が分からず判断に困ったような顔をしていた。

 ひょっとしたら、私が何か悪巧みでもしているのかと考えているのかもしれないが、このことに関しては簡単な理由だった。


「そんなに心配そうにしなくても大丈夫ですよ。単に国を運営するのが面倒なだけです。ただ……そうですね。支配下にあるという証明のために、私の所にルナリアとローレを人質として置いておきましょう」


「えっ」


 私がそう提案すると、意外なところから声が漏れた。


「べんけい。何か不満ですか?」


「あ~……女性比率が上がって、居心地が悪いな~と」


「知りません」


 べんけいの意見はすっぱりと切り捨てた。


「と言う訳で、二人はここに置きます。それと、7日に一度ミリーゼを迎えに出しますので、その時に国のことを報告してください」


「分かりました。それと、軍についてはどのように致しましょうか?」


 クライスも王族として身内を人質として差し出すことは予想していたのか、特に反論もなく次の話題へと移った。


「軍ですか……そうですな。いずれ光陣営と戦を起こすときに、私の元で戦ってもらうことになりますので、そのままで構いません。騎士団の団長も、引き続きそちらのガルドのままでお願いします」


「畏まりました」


「ああ、そうです。それと、あなたの国の商人や職人の一部を、この《人形の庭》へ連れてきてください」


 私は住人のいない町を思い出し、クライスにそう伝えた。

 こうしてその日のうちに、いくつかの細かな条約を定めていった。



 

   



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