捕まえた
「エリスリーゼ~助太刀に来たよ~。って、もう終わっちゃった?」
《呪縛》によって黒ずくめの集団が身動きできなくなったところでミリーゼがタイミングよくやってきた。
ミリーゼにしては到着までに時間が掛かったと思ったが、その原因はミリーゼの後ろ付いてくる人影が原因のようだった。
人影はロンダルとリジュだった。
「はい、終わりました。それにしてもロンダルはともかく、リジュも来たのですね。危険がある可能性もあったのですからあまり感心できませんよ」
「独断で城から出たことは申し訳ありませんでした。リジュを連れてきたのは私の責任です。姫様の無事を確認できたことです。罰は如何様にでも」
「ち、違うんです! 村長には私が無理を言って! わ、私もエリスリーゼ様がどうしても心配で! それで!」
ロンダルの言葉を聞き、リジュが慌てていろいろなことを口走る。
おそらくは自分でも何を言いたいのか分からなくなり、ただ思いつくままに口から言葉が出ているのだろう。ただ、それゆえにリジュが私を本気で心配してくれていることがよくわかる。
その気持ちは純粋に嬉しいものだが、それでリジュに危険があったらと思うと素直には喜べなかった。
なによりリジュは先日の狩りでレベルは上がりはしたが、元々が低すぎるためこういった危険の可能性がある場所へと来ては、いらぬ危機に直面してしまうかもしれない。
私としてはそういった事態を避けたいがためにミリーゼに連絡し一人で先行したのだ。
そんなことを考えながらじっと二人に視線を送っていると、二人には私が怒っているようにとられてしまったようで、二人は私の怒りが相手へと及ばぬように互いが互いを庇い合っている。
その様子を見ていると、なんだか私が悪者になってしまったような錯覚を覚え、どうにも居心地が悪かった。
「二人とも落ちついて~。お姉さんが大丈夫って言ったんだから。それに二人はエリスリーゼが心配だっただけなんだから、エリスリーゼも別に怒ってないでしょ?」
ロンダルとリジュがお互いに自分が悪いのだと主張している中、ミリーゼは二人を宥めながらそう言ってくる。
ミリーゼの言うことは概ね正しいが、私は一部だけ訂正することにした。
「怒ってはいます。ただこれは命令を無視されたからではなく、危険な場所へとやって来たことへの怒りです。もう少し自分を大事にしてください」
私は拗ねたようにそう言ってそっぽを向いた。
「あはは~、エリスリーゼってば照れちゃって。それより~そっちの人たちは誰なのかな?」
「わかりません。声を掛けたらいきなり襲いかかって来ました。殺すこともできましたが、聞きたいことが山ほどありますので、こうして動きを封じました」
私たちが黒ずくめの集団に視線を送ると、彼らは未だに動けずに私を取り囲んだ時の姿勢まま固まっている。
「こういうのってどうすればいいのかな~? あれかな? 自決を防ぐように猿轡とかするのかな? それとも拷問? う~ん……お姉さんにはさっぱりだな~」
ミリーゼも私同様にこういった場合の人の扱いの経験などまったくないため、どう扱っていいのか分からないとようだった。
ただミリーゼの口にした自決を防ぐための猿轡という考えは確かに必要なのかもしれないと思った。
これからいろいろと聞きたいと考えている中で、漫画などにあるように自決されては全てが台無しになってしまう。
「猿轡……ですか。たしかにミリーゼの言うとおりかもしれませんね。ロンダルお願いできますか?」
「エリスリーゼ様。おそらくは必要はないかと」
私がミリーゼの意見を採用しようと、ロンダルに黒ずくめたちに猿轡を嵌めて貰おうとしたが、ロンダルがそれを不要と言った。
「必要がない? ですが万が一自決されては」
「ご覧ください」
私が最後まで言葉を紡ぐ前に、ロンダルは黒ずくめの集団に近づくとおもむろにフードを取り去った。
フードが外れた黒ずくめは整った顔立ちをした男性だったが、それ以上に目に付いたのは病的に白い肌と真紅の瞳だった。
「ヴァンパイア? いえ少し違いますね」
「そうね~。ヴァンパイアは確か耳が尖ってたと思うな~」
ミリーゼの言うとおりで、ゲーム時代にヴァンパイアのアバターを使っている人たちは黒ずくめの男と同じような特徴のほかに、エルフとまではいかないまでも人の耳より長く尖っていたはずだ。だが、彼の耳は人のそれと変わらない形をしていた。
他の黒ずくめのフードを取り払ってみても、全員が同じ特徴を持っていた。
「やはりですか」
そんな私たちをよそに、ロンダルとリジュは彼らを見て何やら納得したと言いたげな表情だった。
「彼らはなんですか?」
「彼らは半魔です。千年前にエリスリーゼ様を始め様々なお方が居なくなった時を境に現れ始めた存在です。彼らは半分しか種の能力を継げず、それ故に中途半端な存在として奴隷のような扱いを受けております。ただそれでも裏を返せば半分は能力を継いでいますので、ヴァンパイアの半魔ならば再生能力もあるはずです。ですから自害の心配はあまりないかと。自害しようにも舌を切る程度のダメージではすぐに回復するでしょう」
ロンダルはそう語った。
自害の心配が低いということは理解できた。
ただ私としては彼らの存在そのものの方が驚きが大きかった。
ようは彼らはハーフ的な存在のようで、ゲームではよくある設定のように迫害の対象になってしまっているようだ。
ただ私が驚いたのは元々の魔英伝でもハーフという存在はいたにはいたが、それは光陣営のみの話で闇陣営ではハーフと言うものはいなかったはずだ。
そんな存在がどうして1000年前を契機に現れ始めたのかは、私には分からなかった。
「……ミリーゼは何かわかりますか?」
「う~ん……お姉さんにもさっぱりかな? なんでだろうね? べんけいにも聞いてみよう」
どうしてここまで半魔という存在が気になるのかは私自身分からないが、なぜか半魔という存在を見ていると危機感のような不安を覚えた。
ミリーゼの様子を見ると、彼女も似たような感覚なのか困惑した表情をしていた。
「姫様?」
「ミリーゼ様もどうしたんですか?」
私たちの様子にロンダルとリジュが首を傾げながらこちらを見てきた。
「ふぅ……今は考えても仕方ありませんね」
私は何とも言えない不安を抱えながら、それでも今は答えを得ることができない結論付け、頭を切り替えることにした。
「まずは彼らがどういう経緯でここへと来たのかを考えましょう。服装や装備、そして先ほどの連携から見ても、彼らが普通の集団ではないことは明白です」
「連携は見てないからわかんないけど、たぶんこの人たちの装備は製作者が同じだと思うよ~」
ミリーゼはそう言いながら、彼らの外套をしげしげと眺めた。
「そうですか。ここまでで、なにか反論はありますか?」
私は動けないでいる半魔の集団に声をかけた。
《呪縛》はあくまで対象を鈍化の状態異常にする魔法であって、相手に沈黙を与えるものではない。そのため動けなくなった当初に声を出していたように、喋ることは普通にできる。
「……」
「だんまりですか」
だが私の質問に彼らが答えることはなかった。
「とりあえずは城の牢屋に入れておきましょう。あとはべんけいも交えて相談します」
「は~い。それじゃあ……ピピィーーー!!」
ミリーゼが笛を吹くと、どこからともなく《働く妖精》の集団が現れた。
「それじゃあみんな、彼らを牢屋に入れてきて~」
《働く妖精》たちは短い手を上げ敬礼のような姿勢をした。
本人たちは至って真面目なのだろうが、元の身長が小さいうえに三頭身というデフォルメされた姿では、愛くるしく見える。
そして《働く妖精》たちは小さな体で器用に縄を操り、半魔の集団を一人ずつ縛り上げると、荷物のように半魔を担いで城へと戻っていった。
「《働く妖精》とはこういったこともできるのですね」
「ゲーム時代は無理だったよ~。でもこっちではあらゆる意味で自由だから、頼めば割となんでもやってくれるみたい」
これも新しい発見だね。とミリーゼは笑ながらそう言った。
「そうですか。私たちはまだまだ知らないことが多そうですね」
どうやら私たちにはもっと情報が必要なようだ。
財布落とした。
_| ̄|○ il||li