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兄の苦悩2

「おそれながらぼっちゃま。ファティマお嬢様の行動の早さと思い込みの激しさと、自己完結っぷりは奥様と旦那様のおりがみつきにございます。ですので、余計に話がこじれる前にルーファス殿ご本人に、直接説明された方がよろしいかと。手紙は時間がかかりますゆえ」


呼び出した執事のその言葉に、私は急いでルーファスがいると予想される王宮の一角にある第二宰相の執務室へと急いだ。




「ルーファス!!!いるかい、私の友!」


バッターーーーン、とドアを半ば蹴破る勢いで開けた私は、目を見張って羽ペンを持つ手を止めた友人に駆け寄った。


「君に愛する女性がいるって、本当かいッ!?」

「? 何を唐突に、気でも狂いましたかデリック。そんなの言わずとも分かるでしょう。いますよ、いるに決まっているでしょう」

「それは誰かな?!お義兄ちゃんに言ってごらん!」

「バカですか、デリック………ファティマに決まっているでしょう。ファティマ以外など、考えたことも、観察したこともありません」


冷たい視線を浴びながら、ルーファスに詰め寄る。

揺るぎない視線と口調に、やはりファティマの勘違いだったことを知る。


──────ヤバイ…………ここから、説明しないといけないんだよね………。心おれそう、それはもうポッキリと。というか、ファティマは観察してるんだね、ルーファス。


「ははは…………じゃあ、最近女性と一緒にいたとか、お喋りしてたとか、抱き合ってたとか、浮気してたとか、不倫する約束してたとか……………は、ない?」

「やっぱり、気でも狂いましたか?医者にかかりますか、デリック。私はファティマ以外に興味はありませんよ。何ですか、その具体的な例は………不倫する約束などとは……………………何ですか、私をなんだと思っているんですか」


冷たすぎるルーファスの声に、苦笑いしながら、私はスッとルーファスから目を背けながら、言葉を紡いだ。


「じゃあ、メリルとは……?」

「メリル??」

「はいは~い、呼びましたぁ~?先輩に、デリック様」


すかさず、どこからわいて出るのかメリルがひょっこり顔を出す。

今日の女装も完璧だ。

語尾を伸ばし、しなをつくる自称・普通の性癖なメリルに、私はぎこちない笑みを浮かべる。

ちなみに彼(この場合彼女?)に、上司であるルーファスをなぜ先輩呼びするのかをたずねたところ「上司殿~とか、ルーファスさまぁ~って呼ぶの、面倒じゃないですか~?先輩の方が言いやすくて助かってます~」という返事がきたのは、なつかしい思い出だ。


「メリル…………君、最近ルーファスに抱きついたり親密な態度とったり、ベタベタしたり、した?」

「もっちろん!」


─────や、やっぱりぃぃぃ!!!ファティマ、愛する女性なんて勘違いだよ…………。


ここにはいない妹の多大なる勘違いに、思わず涙が零れそうになった。


「先程から何ですか、いきなり来て。メリルが変態なのは今に始まったことではないでしょう。変ですよ、デリック」


その訝しげな声に、私は腹を括った。


「ルーファス、よーーーく落ち着いて聞いてくれるかい?深呼吸して………メリルは出来るだけルーファスから離れて」

「「? はぁ」」


メリルが離れるのを待って、口を開く。


「ファティマが、ルーファスには他に愛する女性がいるから、結婚は破談に………って言い残して、逃亡してしまったんだ。あと、『浮気は見えないところで』と『愛人は寛容できません』と…………………ってか、落ち着いて、落ち着くんだルーファス!!」

「……………………落ち着いていられるか」


発された低すぎる声に、私は気温が一気に下がったような…………言い知れぬ寒気を感じた。

──────なにこれ、もう嫌だ………ファティマ、お願いだから帰ってきて!!


「取り敢えず、行き先は分かっているし原因も今分かったから、落ち着いて。熱くならないでくれ」

「……………………………………ちっ、仕方ないですね。で、原因とは?」

「そこの………君の女装癖のある部下」

「えっ?」「ほぅ─────メリル、ですか」


目をぱちくりさせるメリルと対照的に、ルーファスは絶対零度のオーラを醸し出しながら、その目をすがめた。


──────こわっ、お兄ちゃん逃げていいかな?イイよね!!ファティマ!?




「つまり、この女装癖変態能無し馬鹿との関係を誤解して、私の愛するファティマが逃げたと?」

「うん、そうなるねー」


ことの顛末を洗いざらい話せば、ルーファスはかなり据わった目で、メリルを捕獲した。


「さて、肝心な行き先はどこですか?」

「ハーフェンの隅………リアトールだよ。急いだ方がいい。式は来月なんだから」

「わかりました、今から馬を走らせます。この女装癖変態能無し馬鹿も連れてね」

「せ、先輩ひどい~。的を射てるけどもう少し、ソフトにしてください~」


ドレスを着たメリルを引きずり、厩舎へ向かうルーファスをみて、私は堪えていた溜め息を吐くのだった。



*****


「デリックお兄様ぁ!!誤解でした。そして女性ではありませんでした!!」

「うん、…………良かったよファティマ。そしてお兄ちゃんは疲れたよ」


次の日、仲睦まじく帰って来た二人に私は安堵すると同時に脱力感と疲れを感じた。

─────もう………こりごりだよ。


いっぱいいっぱいで、ちゃんとした文章になっていないファティマの話を聞きながら、溜め息を再度吐くのだった。


───────お兄ちゃんの苦悩は……………尽きないよね、これからもきっと。


六歳違いの可愛い妹に、これからもきっと振り回されるのだろう未来を思い浮かべ、それも悪くはないと、私はゆっくり微笑んだ。

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