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バッカナーレ  作者: 1さん
一人目
5/33

05 グリレ2

 部屋に戻ると、メリーが私を待って佇んでいた。部屋は綺麗に片づけられ、ベッドのシーツも取り換えられている。折り目一つない純白の大平原に、飛び込むように倒れる。


 「お嬢様、お食事の後に時間を空けずに横になりますと、お腹によろしくありません。」

 丁寧な言葉だけれど、その口調は強く有無を言わせない。しかたなしに敷布団に埋めていた顔をあげ、もそもそとベッドから降りて立つ。


 う~ん、と一息背伸びをして、食後に沸き立つ眠気を押しのける。

 「本日は如何いかがなさいますか。ご本をお読みしましょうか、それとも人形でお遊ばれますか?」

 選択肢に人形を挙げながら、メリーの視線は本棚に向かっている。あまり玩具を好まない私と過ごす時間は、もっぱら本の読み聞かせとなっている。あまりに本をよく読むものだから、私の部屋にある本は全て読破してしまっていた。それでも飽き足らずに全巻とも3回は周回を重ねて読み込んでいるだろう。まだ本ならば、あまりに子供向けな玩具よりかは私も少しは楽しめる。それに勉強にもなるし。



 メリーは私が生まれたときから傍についてくれている。初めて出会ったときはまだメイドの一人でしかなく、傍仕そばづかえのメイドも何人もいた。私が成長していくにつれ、付いていたメイドの数はだんだんと減っていき、最後に残ったのがメリーだった。手のかかる乳幼児の時とは比べ、丈夫に成長している現在では何人も傍仕えをつける必要がないのだろう。もしかしたら、私が一番懐いていたのがメリーだったから彼女が残ったのかもしれない。

 私に付きっきりになって、メリーの仕事も少し変化があった。話によると、メイドから侍女に昇格したらしい。屋敷の中の細々(こまごま)とした仕事から解放され、代わりによく私と遊ぶようになった。教育係も兼ねてのことらしい。もっとも勉強はまだしたことが無いけれど。……勉強が一番の楽しみだな~。今は知識を得るのが楽しくてしょうがない。


 メリーと二人でいる時間が増え、それにつれ少しずつメリーの事も知るようになった。遠くの異国で生まれ、行商人だった親と旅をしていたこと。魔術に適性があったため、帝国の魔術学校に入ったこと。用務で帝国を訪れていた私の父とふとしたところからで知己ちきを得、その伝手つてでメイドにしてもらったこと、等々。

 異国の出身ということに驚いたけれど、それよりももっと驚くことがあった。なんとメリーは現在、お年21歳だそうだ。


 若い!

 20代後半と思ってました。ゴメンナサイ。

 ……まてよ、となると私が生まれた時は15歳だったの!? 中学生だよ!


 女の人って怖いわ~。


 そういえば前より少し背が伸びている気がする。心なしか顔立ちも変わって、……少し綺麗になった。何気ない仕草、振り返った時や、しゃがんで顔を覗き込まれた時など、時々どきりとさせられるのは、無意識の大人の色香が振りまかれているせいだ。

 ……心の中で、時々メリーの事をお姉さまと呼んでいます。



 本を読むと決める前に、メリーに一つ提案をしてみる。

 「あの火とか水とか作るやつをやってよ。」

 どうせなら楽しいこと、無理とわかっていてもメリーに頼み込んでみる。

 「申し訳ありません、御主人様から禁止されていますので……。」

 「え~……」

 にべもなく断られてしまう。わかっていた、そう無理とわかっていた。何故かメリーはあの綺麗な魔術を、ある境からぱったりと見せてくれなくなった。まだ私が歩くこともままらなかった小さい頃に見せてくれた、万華鏡のように変幻自在の魔術。私が魔術に魅了された切っ掛け、こっそりと魔術の練習をしているのはあの時の魔術を見たからだ。

 もう一度見ることが叶えば、どれだけ魔術の勉強になるだろう。不満の声を挙げても、メリーは澄まし顔でスルーする。


 「ならお外に行きたい!」

 無理ついでにもう一つ頼み込んでみる。普段、両親がいないときは屋敷に籠りっぱなしだ。たまには外をお散歩などしてみたい。

 もっともこちらの方は、護衛を付けないといけないとか、家令のセドリックの許可を得ないといけないとか、あるいは外の状況・外的要因で却下されることが多い。

 「………………………」

 駄目、と即却下されると思っていたけれど、メリーは少し考え込んでいる。

 おおっ、もしかしてこれはいけるかも?

 「メリー、お願い!」

 ちょっとぶりっ子になってしまったけれど、少なくとも必死さは伝わるであろうお願いをする。

 「……分かりました。セイドリック様に許可を得てきますので、しばらくお待ちください。」

 「やった!」

 本当に珍しく、メリーが同意してくれた。もっとも、セイドリックの許可が得られるかはまた別の問題なのだけれど。



 メリーが部屋を出ていくのを見送り、機嫌良く椅子に腰かける。

 楽しみだな~。どこに行こうかな~。

 足をぶらぶらとさせながらメリーが帰ってくるのを待つ。嬉しさで待つ時間が長く感じられる。まだかなー、まだかな~?

 たっぷりと数分待って、メリーが帰ってきた。

 「許可が得られました。……お出かけの準備をしましょう。」

 「わ~い。」

 良いこともあるものだ。セイドリックが許可を出してくれるとは。久しぶりに外に出られる!


 興奮してメリーに準備を急かす。シルバーのブレスレットを左手にはめ、黒のストラップシューズを履く。つばが広く、白いキャペリーヌの帽子を被り、準備は万端だ。

 「さあ、行きましょう!」

 「お嬢様、はしたなく走らないようお願い致します。」

 「わかってるわよ!」

 はやる心を抑え、メリーに先導されて玄関へ向かう。そこにはセイドリックが待ち構えていた。



 「グリレお嬢様、外出されてもあまり遠くへは行かれないよう、お気を付け下さい。」

 「は~い」

 「知らない人に付いて行かれたり、ふらふらと前ばかり見ずに周囲に気を配ってお歩きください。」

 「は~い……」

 「迷子になった場合には、不用意に歩かず、その場でじっとしてメリーと護衛が探し出すのをお待ちください。」

 「ほ~い…………」

 セイドリックから、長々と注意を受ける。思わぬ冷や水を浴びて憮然とした表情で、うんうんと気の無い返事を返す。

 「……それでは、行ってらっしゃいませ。メリー、十分注意はするように。」

 「かしこまりました。」

 「やった!」

 やっと出られるらしい。思わず小さくガッツポーズをしてしまう。セイドリックはそれを困った顔で眺め、大扉を開く。


 一歩外に出ると、喧騒が聞こえてくる。空が高く、解放感に心躍る。

 「まずは向かいの詰所で護衛を受けましょう。」

 メリーが右手を差し出し、私はそれを受け取る。手をつないで街へと繰り出した。



 門扉もんぴを抜け通りに出ると、目の前を4頭立ての馬車ががらがらと音を立てて通り過ぎていった。メリーが、前に進もうとする私を遮るように手を広げて押し留めた。

 「流れが途切れるまで、今しばらくお待ちください。」

 「はい。」


 親の手を振り切って走りだすやんちゃな子どもとは違い、私はちゃんと左右を見て車が来るかどうかを確認する模範的なお子様だ。実際、危ない場面など一度も起こしていないという自負はある。

 それにも係わらず、そこいらのお子様と変わらない扱いされると少しムッとしてしまう。そんなに信用が無いものだろうか。まぁ、6歳の子供の何を信用するのかと言われれば、メリーが心配するのもしょうがないと諦めた。


 4頭立ての馬車が王城へ向けて通り過ぎ、続けて2頭立ての先ほどよりかは一回り小さい馬車が通っていく。終わったかと思ったら、今度は逆方向、王城から戻ってきた2台の馬車が通っていく。通り過ぎるのを待っていると、また王城に向かって、つまりこちらに向かって乗合馬車がやってくるのが見える。

 完全にタイミングが悪い。どうやら貴族街名物の通勤ラッシュに巻き込まれてしまったようだ。石畳が引いてあるが、振動で巻き上がる土煙りがこちらへ向かってくるのが見える。


 まさか異世界に来てまで通勤ラッシュがあるとはなー……。

 土煙りから逃れるように門扉の後ろに隠れながら、感慨にふける。

 いつもは静かなら貴族街だけれど、官僚や役職持ちの貴族が一斉に登城するこの時間帯のみ急に騒がしくなる。王城西門前へ唯一繋がるこの道は、貴族街全域から馬車を集めてごった返してしまうのだ。


 所は変われど、仕事をする苦労はどこも変わらないんだろうな~、とぼんやり考える。

 地球にいたころ自分が勤めていたところは地方都市だったので、電車はあまり混まない代わりによく車が渋滞した。それに巻き込まれていた記憶が蘇り懐かしく思う。


 「波が引きました。今のうちに渡りましょう。」

 私の答えを聞かないまま、メリーがぐいと手を引っ張って道を渡り始める。渡りきったすぐ後ろを、馬車が通り過ぎていった。メリーは見かけに対してなかなか豪胆だ。

 そのまま正面の建物に向かって歩き続ける。無骨なレンガ造りの建物、入口には山羊の紋章が刻まれた旗が掲げられている。入口で立哨りっしょうをしていた兵士が私たちの姿を認めると、「どうも」と短いながらも丁寧に挨拶をして木扉を押しあけてくれた。


 屋敷から大通りを挟んで向かい側にあるこの建物は、貴族街の治安維持隊の詰所だ。治安維持隊といっても、人員は1千人を超え、さらに完全武装を施している連隊規模の軍隊だ。しかも、驚くことに王城および城壁を守るの王家直下の軍隊とは指揮系統が分断されている。

 その実態はビレ・エレアオール家の私兵軍だ。一国の首都に、貴族の私兵軍を駐留させるとか正気を疑いたくなるけれど、少なくともこの国ではそれが普通らしい。ビレ・エレアオーレ家の王家への忠誠は万人の知るところ、むしろ直轄軍に不穏な動きがあった場合に備えての番犬、という評価らしい。

 ……色々と思うところはあるけれど、少なくとも私が気に病んでも仕方のないことだ。


 扉を開けて中に入ると、薄いながらも汗の臭いが漂ってくる。私はメリーの手を振りほどき、受付の奥にある訓練場へ向けて走り出した。この建物と部隊は身内のようなものなので、メリーも特に何も言わない。

 「訓練場みてくる!」

 一応メリーに言い残して、訓練場へ急ぐ。視界の端でメリーが頷き、受付へ向けて歩んでいくのが見えた。

 訓練場へ続く扉の前に来ると、向こうから剣戟けんげきの音とときの声が聞こえてくる。体は女の子でも、心にはまだ男の子が残っている。筋骨逞しい戦士というものへの、淡い憧れが残っていた。


 自然と高なる鼓動を意識しながら、扉を開けはなった。


 扉を開けると歓声がいっそう大きく聞こえてくる。

 訓練場は建物のほぼ中央に位置し、広く大きく面積を占めている。小型の体育館ほど広さがあるにもかかわらず、屈強な男性がひしめいているせいで狭く感じられる。いつもは乱取りで兵士が入り乱れているのだけれど、今日は部屋の中央を囲むように円形に人垣を組んでいた。

 中から聞こえてくる剣戟にあわせるように、取り囲んでいる兵士が歓声をあげたり野次を飛ばしている。

 なんだろうか?


 「おらっ! もっと踏ん張れ!」

 「腰が引けてんぞ。背筋を伸ばせ!」

 私が入ってきたことに大部分の兵士は気がついていないが、人垣を作っているうちの一人が私に気がついたようだ。見覚えがある、たしか、百人隊長のダンテさんだ。


 「お? お嬢じゃないか。ようこそ、男の園へ。……一人かい?」

 「メリーと一緒に来たよ。出かけるのに、護衛の人つけて貰うんだ。」

 人垣に近づくと、周りの兵士も私に気がついたようだ。

 「お嬢だ。」

 「お嬢様じゃないですか。」

 「また来たのか。」

 「こんなところ、面白いものなんかありますかね。」

 わらわらと兵士に囲まれて、上から声をかけられる。こんなところに幼い女の子が来るのが物珍しいのか、訓練場に顔す度に注目されて、今ではちょっとしたアイドル気分だ。

 「お嬢を囲むんじゃない。散れ、散れ!」

 「え~、我々は怪しいものじゃないっすよ、隊長。」

 一応上司のお偉い様の娘である私を気遣って、ダンテさんがエスコートしてくれるみたいだ。チンピラ集団に対してやるような追い払いかたをされて、兵士たちからは不満の声が上がった。

 「なにしてるの?」

 人垣の中はいまだ大盛り上がりだ。こんな面白そうなもの見逃せるわけがない。ダンテさんはにやっと笑う。

 「ああ、実は珍しく団長が稽古をつけてくれてな。今は新人のウィルが相手をしてるのさ。」

 「団長が!? 見たい!」

 周囲の兵士もにやにやと、笑いをこらえれないようだ。


 「あー、いいっすね。」

 「これならもっと盛り上りますね。」

 「おまえら……、」

 ダンテは大げさに額に手を当て頭を振る。

 「よく分かってるじゃねえか! ……おら! お嬢様のお通りだ! 道を空けろ!」

 ダンテさんの声が訓練場内によくとおり、一瞬静まりかえり、そしてざわめきが沸き立つ。

 モーセの十戒の如く、人垣が割れ道が作り出された。


 円陣の中央では、一人の年若い兵士と、背が高く黒い鎧を纏った、団長が対峙していた。対峙している二人にも声は伝わったようで、手を止めてこちらを見ている。ほぼ全員から注目を浴びるという、少し腰の引ける状況だけれど、気合を入れて前に進む。


 「これはお嬢様……。ご機嫌麗しゅうございます。」

 「え、グリレお嬢様? あ、あの、」

 中の二人が私に挨拶をしようとして、それに少し遅れて手を上げ、二の句を告げないよう制止する。

 「私には気にしないで。……それよりもつづけて。」


 少し静まりそうになり、どうしようかと思ったところでダンテさんが声を張り上げた。

 「ウィル、お嬢様が応援して下さるようだ! 無様な姿見せるんじゃねえぞ。」

 声が響き渡り、一瞬送れてウィルと団長と取り囲んでいる兵士が大笑いをした。

 「え、え?」

 「ぼさっとすんな、剣を構えろ!」

 「まっすぐ団長を見ろ! お嬢様の期待にこたえろよ!」

 泡を食っているウィルへ目掛けて、いっそうの野次が飛ぶ。一人状況を理解できていなかったウィルが、少し考えて、その意味を知り、顔から血の気が引いていくのが見える。

 「……ウィルさん、がんばれー。」

 子犬のすがりつくような目を浮かべているウィルに向かって、私はとどめの一撃を放った。いっそう取り囲む笑い声が大きくなり、周囲はウィルをはやし立てる。

 「ウィル、聞いたか!? これで奮起できねーなら玉無しだぞ!」

 「男を見せろや!」

 つい悪ノリしてしまった、わたしはワルクナイ。

 今の今まで見世物だった状況から、さらにプレッシャーまでかけられてしまった哀れなウィルは、逃げ場なしと見て覚悟を決めたようだ。鉄剣を正眼に構え、深く深呼吸している。

 「……呼吸はなるべく乱すな。攻撃のタイミングを読まれる。」

 「はい!」

 団長からアドバイスを受けて、乱れていた呼吸を整えている。どちららも動かない、もっとも団長はウィルの準備が整うのを待っている、のだろうけど。



 ウィルの準備が整ったのか、じりじりと間合いを詰めるように時計回りにすり足をして近づいていく。周囲は仕掛けるのを察知したのか、野次も少なくなっていく。


 おおー。

 見ているこっちが緊張してくる。ウィルは剣を習い始めてからいまだ日が浅いとのことだけれど、鉄剣を構える様はなかなかのものだ。


 かっこいいなぁ……。

 羨望と嫉妬が混ざり、なんともいえない気持ちが胸を満たしていく。



 「シッ!」

 ウィルが仕掛けた。視線を動かすだけで体を動かさない団長に、左から回り込んで若干の角度がついたところで一挙に間合いを詰める。それでも団長はまだ動かない。完全に先手を譲るようだ。


 ウィルは万全を期すため、まっすぐ飛び込むのではなく、さらにすこし左斜めに移動する。団長の剣はウィルの方を向いてはいるけれど、いまだ下げたまま構えを取っていない。間合いに飛び込んだ瞬間、ウィルは移動の軌道を僅かに右にそらし、体の移動にそって剣を横薙ぎしようとする。

 そこまで来て、団長が動いた。剣を薙ごうとした瞬間、一歩踏み出し剣の間合い、そのさらに内側へ近接した。

 ウィルの失敗はそこからだった。いまだ移動の慣性が体を突き動かしている。このまま剣を薙いでも団長が軌道上にいない、またこのままではぶつかるという認識から、本能の思うままに急停止を始めてしまう。完全に体制を崩され、慌てて剣を引いて次の攻撃に移ろうとするが、既にウィルの喉元には団長の剣先が突きつけられていた。


 ウオオオォォ

 取り囲んでいた兵士が歓声を上げる。


 「いやな攻撃だな~。」

 「お嬢は今のが見えましたか?」

 独り言だったのに、聞こえてたらしい。

 「団長が踏み込んだまでは見えたけれど、いつの間にか後退してて、切先を上げたのかは見えなかったー。」

 「ほほう、そこまで見えればたいしたものです。ええとですね……、団長は何歩踏み出したように見えますか?」

 ありがたくもダンテさんは解説もやってくれるらしい。

 「1歩じゃないの?」

 「1歩に見えましたか、あれは半歩しか踏み込んでないですよ。ウィルが体を止め始めたころには団長はもう1歩分後退して切先を上げ始めていました。」

 「でもぶつかりそうだったよ?」

 「上体を左前のめりにしているんですよ。剣を持つ肩は切り上げやすいように引いたままでですね。」

 「へー。」

 正直よく分からないけれど、とりあえずウィルが遊ばれているらしいことは分かる。

 

 「おいおい、終わるのが早すぎるぞ。」

 「体当たりしろよ、そういう時は!」

 「いや、いっそ剣をそのまま振り切るべきだ。」

 無責任な言い草なのか、的確なアドバイスなのか、判別がつかないが野次は多くなる。ウィルは疲れきったのか、しりもちをついてしまう。それを見て団長は剣を引いた。


 ガゴン。

 扉が開く音がして、メリーと受付にいた男性が入ってきた。

 「ええと、団長いますか?」

 受付の男性が申し訳なさそうに団長を探している。それを聞いて団長は人垣を抜けて前に立った。

 「私はここだが。」

 「お仕事です。えーと、」

 と、横に立つメリーの姿をみて団長は得心がいったようだ。

 「ああ、お嬢様の護衛かな? ちょうど稽古も終わったところだ。受けよう。」

 「はい、そうです。」

 「よろしくお願いします。」

 メリーが深々と団長に向けて頭を下げた。


 「団長ご指名ですかい? そりゃまたずいぶん……」

 横にいたダンテがいぶかしんでいる。

 団長が護衛? たしかに珍しい。いつも護衛は隊長クラスの人が多い。それでも過剰戦力だと言われることもあるのに、いったいどこに行く気なのだろうか。


 「それじゃあ、またね。」

 「また来てください。……というのも変ですかね?」

 「変じゃないよ。」

 「そんなもんですかね? お嬢にはあまり似つかわしくない場所な気がしますよ。」

 そうは言うが、あまりきつく言われない限りはまた来たいものだ。見てるだけでも楽しいし。兵士たちから嫌がられては……、いないと思う。ならまた来よう。


 「お嬢様、参りましょう。」

 「はーい。」

 「それでは行って来る。皆は稽古を続けろ。」

 「「はい!」」

 兵士たちの返事は大きく、びりびりと建物が揺れるほどだ。最後に不意を打たれ、びっくりしてしまった。それを見て何人かの兵士が笑う。ちくしょー。


 私はメリーに連れられ、団長を伴って訓練場を後にした。


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