表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バッカナーレ  作者: 1さん
一人目
4/33

04 魔

 一つ深呼吸をして、意識を平静にする。ちゃかちゃかとここまで歩いてきて一転、急に立ち止まって静かになると、体から発散されていた生気が経ち消え、塀が作り出す影の中へ溶け込んでいくようだ。両の目は開いたまま、体内で魔力を練り上げていく。

 初めのころはかなり集中しなければ難しかったけれど、今では片手間で行うことができる。ひとえに6歳になる今日まで、暇にあかせてずっとこればかりしてきたおかげだ。すぐに魔力は集まり、それを待たずして視覚を強化させる。


 唐突に、屋敷と塀をつなぐように、地面に地脈――特徴的な空色の線が現れる。この空色の線は屋敷の壁を貫通し、廊下へ続き、さらに何部屋か通り抜けて私の自室へと繋がっている。私の部屋では水たまりのように少しその存在を広げ、また私の部屋を通り抜けて外へと出て行ってしまう。

 空色に光る地脈へと近づいて、魔力を吸い上げる。

 地脈と呼んでいるものの、私はその正体を完全につかめている訳ではない。今わかっていることは、この地脈の中で高濃度の魔力が渦巻いているということと、これが地面に対して平行に存在しているということ、この二点しかない。……昔、なんの予備知識もないまま不用意に地脈へと近づいたことがあった。その時、私は死にかけた。思い出したくもない、恐怖の記憶だけれど、その経験あって少しだけこの地脈を生かすことが出来る。

 ううっ、……もうあのことを思い出すのはやめよう。

 他にやることがある。


 魔力を少しずつ吸い上げ、体内へと満たしていく。これはもう手慣れたものだ。吸い取り過ぎて溢れないよう慎重にやる。

 十分に全身に魔力が満ち、おもむろに地面に転がっていた大きめの石を持ち上げる。20cmほどもある巨大――といってもこの体と比較して――をまるで小石を拾うように持ちあげる。6歳児が持ち上げるには相当大きいサイズだけれど、全身を数倍に強化された現状では簡単なものだ。


 ぎりぎりと石に圧力を加えていく。手と石の隙間から、削り取られた石が砂粒となって地面に落ちる。


 ゴキッ。

 鈍い音がして石が割れる。


 うんうん、良い感じだな。


 魔力と称されるだけあり、やろうと思えば、火を起こし、水を湛え、風を流し、土を積み上げることも出来る。ただ、それはもう少し成長してからにしようと心に決めていた。理由は単純なことで、処理に困るからだ。魔術で生み出した物質は無くならない。屋敷の中に山や海を作って一時的に喜んだとて、それを処分する憂鬱さに比べれば釣り合うものではない。なーに、楽しみは後にとっておこう。今は持て余している魔力でひたすら全身強化の魔術の練習をしていよう。

 しかし、やはり魔術は便利だ。融通の聞かないことも少しはあるけれど、ほとんど思い描いたことが実現してしまう。もともと眼を強化して魔眼が出来たのだから、その他の部位に魔力を集めれば、何かしらの強化が起きると踏んでいた。

 その推論は大あたりで、腕を強化すれば、今足元に転がる石をわずか6歳児が握りつぶすことも可能なほどだ。


 本当は走ったり、飛んだり、投げたりといろんなことをしてみたいのだけれど、そうするにはこの屋敷は狭すぎる。狭いといっても王都の中では最大級の屋敷なのだけれど、それよりも問題なのは地脈だ。地脈から離れてしまったら魔術は使えなくなってしまうし、地脈が通っていて広い場所など今のことろ見つけていない。部屋の中、……では何かを壊す未来しか見えないからなー。

 ジャンプくらいならできるけど、と塀を見上げる。飛び越したら、外からすばらしく注目を集めるだろうなとしか言えない。


 結局こうして腕力を試してみるくらいしか今のところはなかった。ほとんど親に隠れて火あそびをしている気分だ。


 半分になった石をさらに握りしめ、ごりごりと握りつぶす。さらさらと砂の山が出来上がっていくのを見ながら、ちょっとした優越感を抱いていた。ふっふっふ、今ならリンゴを縦に割ることも出来るぜ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ